【リプレイ風小説 第7話 再戦(リターンマッチ)】

 

ACT.17 禁書


「ゴメン、みんな……。みんなの期待に応えられなくて……、ゴメン」
 『闇の力』に蝕まれたメルティの身体がゆっくりとくず折れる。そのまま、倒れこんで床に激突するはずだった。本来ならば――。
 しかし、そうなる前に小さなメルティの身体は支えられ、床に激突するのを免れた。
「シップ……さん?」
 頑強な鎧で身を固めたビショップの手が、メルティの身体を下から支えていた。
「シップさん、なんで?」
 確かに自分は間に合わなかった。『フェニックスの灰』を使ってシップを『生』き返らせる前に、自分は『闇の力』を受けて『死』んだはずだった。
 だのに、いったいこれはどうしたことだろう?
「私、シップさんを『生』き返らせる前に、『死』んじゃったのに――」
「『生』き返ったのです。私も、メルティさんも」
 そう言って、シップはいつもの温厚そうな笑顔を見せた。
「それに、『生』き返ったのは、私達ふたりだけではありません。皆も――」
 促されるままに周りを見ると、『死』んだはずのスニークも、パラレルも、二人のウィザードも『生』き返っていた。
「メルちゃんまたちっちゃくなってる〜、カワイイ〜ッ!」
「カワイイだーよ」
「ウッキーッ!」
「ウッキャーッ!」
「フラウさん、ゴーンさん、テンツクとドンツクも……」
 熱いものが胸に込み上げ、メルティの青い目に涙が浮かぶ。
「でも、なんで? どうやってみんな『生』き返ったの?」
「それは――、すみません。詳しくは言えないのです」
 その問いかけに、シップは頭(かぶり)を振って答え、それ以上何も語らなかった。
 それも当然のことだった。
 パーティーのメンバー全員が『死』んだとき、『禁書』が発動した。『死』んだ仲間全員を何のダメージも無い完全な形で復活させたのは、取引が禁じられている『禁書』の力に依るものなのだ。
 それを所持していたことなど、言えるはずがない。ましてや、その『禁書』を教会の要人であるジョセフ三世猊下から授かったなどと、何人にたりにとも知られてはならなかった。権威ある教会が非合法な『禁書』になど、関わっているはずがないのだ。
 だから、シップは信頼するパーティーの仲間たちにも、こうやって口をつぐむしかなかった。
 すると、まるで助け舟を出すように、スニークが言った。
「そんなの、どうだっていいじゃん、不思議ちゃん」
 ぽりぽりと頭を掻きながら続ける。
「大事なのはこのチャンスをどう使うかってことじゃないの?」
 言い終わると、皆がそれに力強く頷いた。
「みんな……」
 目に浮かんだ涙が、今にも溢れそうになる。
「リトル、お前がリーダーだ。指示を出せ」
 いつもどおりの横柄なRRの台詞に、メルティは溢れる涙をぐっとこらえた。そうだ、自分はリーダーなのだ。泣いてなんていられない。
 おもむろにくるりと一回転すると、メルティは小さな女の子から抜群のプロポーションのリトルウィッチの姿へと変身した。
「シップさんと、アインさん、RRさんは手分けして、急いで皆に支援魔法をかけてね。その後、ゴーンさんはガダーム・ギガスに低下の呪術をお願い。それからは、各自の判断で一斉攻撃よ。もう時間が無いんだから! いい?」
 メルティの指示は、一か八かのように聞こえた。だが、誰も異を唱えるものはいなかった。メルティの言うように残された時間は、もうほとんどないはずなのだ。
 シップが聖なる守りの呪文を唱え、RRの風の魔術『ヘイスト』が、羽根がはえたように動きを俊敏にさせる。そして、武器に炎の魔力を与える『ファイヤーエンチャント』の呪文をアインが唱えていった。
 三人の支援魔法が、次々に皆をパワーアップさせる。
「テンツク、ドンツク!」
「ウッキッ!」
「ウッキャッ!」
 敬愛するご主人様に名前を呼ばれた二体の魔獣が、大きく口を開ける。フラウはその中へひとつづつ赤い『コチュ(唐辛子)』を投げ入れた。
 普段は緑のファミリアの体色が、途端に燃える炎のような赤に変わる。
「グワーッ!」
「グギャーッ!」
 フラウが奏でる物悲しい笛の音とともに、パワーアップした二体の魔獣は、嬉々としてガダーム・ギガスへと向かった。
「待つだーよ! オラの低下が先だーよ!」
 テンツクとドンツクに遅れまいと、ネクロマンサーのゴーンが後を追う。
「オイラたちも、ぼやぼやしてられないぜ、アネさん!」
「言われなくてもわかってるわ、スニーク」
 赤銅色に輝く手斧『ルインドライバー』がスニークの手から唸りを上げて弧を描き、パラレルの放つ矢が一直線に飛んだ。
「メルティ〜〜〜☆ ノヴァ〜〜〜★!!!」
 振り上げたメルティのバトンの先に集まった遥かなる星のエネルギーが、一気に異界の魔物に降り注ぐ。
「時間がないわ、攻撃の手を緩めないで!」
「わかっている」
 RRはいつものように横柄に応え、それからアインに向かって聞いた。
「支援君、やれるか?」
「いけます、RRさん!」
「いくぞ!」
「はい!」
 そして、二人のウィザードが唱えた最終魔法『メテオシャワー』がガダーム・ギガス目掛けて降り注いだ。爆音が『秘密ダンジョン』に響きわたり、眩い閃光が辺りを白い闇へと変えた。

  

 

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