【リプレイ風小説 第7話 再戦(リターンマッチ)】

 

ACT.15 闇の力


「ゴーンさんは低下の術をコイツにかけて。フラウさんはファミリアに攻撃命令よ。パラレルさんとシーフさんは、離れたところから攻撃してね。何が起きるかわからないんだから、近づき過ぎないように。RRさんとアインさん、シップさんは回復よ。みんなッ、いい?」
 バトンを振りながら改めてメルティが放った指示に、一斉にうんと頷く。
「今度こそやっつけてやるんだから! いくわよッ!」
 メルティの掛け声にもう一度皆が頷き、真っ先にネクロマンサーのゴーンが異界の魔物へと突っ込んだ。
 周りを円を描いて踊り狂うシロウサギに動きを封じられた巨大トカゲに向かって、妖しげな呪術を唱える。すぐに低下の呪術が効果を表し、鎧のように硬い表皮が脆くなる。
 続いて二体のファミリアが巨大トカゲに取り付いた。
「いっけー! テンツク、ドンツク!」
「グワワッ!」
「グギャギャッ!」
「だーよ!」
 掛け声一閃、テンツクとドンツクが鋭い槍を突き刺し、ゴーンのソードが魔物を切り裂いた。槍もソードも低下の呪術で脆くなった表皮をやすやすと貫き、そこから夥しい量の青い血が噴き出す。
「グワッ!」
「グギャ!」
「だーよ!」
 魔物の血を浴びたファミリアとゴーンの動きが一瞬止まる。
「どうしたの? テンツク、ドンツク、ゴンちゃん」
「『汚れた血』だ。ヤツのあの青い血の『汚れ』にネクロもファミリアも侵されている」
 困惑したフラウに、『狂乱の魔術師』の二つ名で呼ばれるRRが答えた。
「ゴーンさん、下がって!」
「いやだーよ」
 メルティが撤退を呼びかけるが、しかし、ゴーンはそれを無視してソードを振り続けた。
「オラ、退かないだーよ。そんなことしてたら時間が足りなくなるだーよ」
「ゴーンさん……」
 バトンを振り、シロウサギを遊ばせながらも、メルティは言葉を失う。
「それに、オラはひとりじゃないだーよ!」
「グワワッ!」
「グギャギャッ!」
 ゴーンの台詞に呼応するように、テンツクとドンツクが吼える。一瞬止まった鋭い槍が、再びガダーム・ギガスに突き刺さり、そこからまた大量の汚れた血が飛び散った。
 しかし、返り血を浴びて負ったダメージを、地脈から吸い上げた生命のエネルギーが瞬時に癒していく。
「勿論です!」
 ウィザードの癒しの呪文『アースヒール』を唱えながら、アインが叫ぶ。
「自分とRRさん、それとシップさんの三人がかりで回復しますから。ゴーンさんもファミリアも、二度と死なせませんから!」
「うん、わかった!」
 アインに向かってそう答えると、フラウは二体の魔獣に改めて突撃命令を下した。
「いっけーッ! テンツク、ドンツク!」
「グワワッ!」
「グギャギャッ!」
 フラウの奏でる物悲しい笛の調べが、いっそう速くなる。
「スニーク、私達も負けてられないわよ!」
「がってんだ、アネさんッ!」
 パラレルの放った矢がガダーム・ギガスを貫き、スニークのルイン・ドライバーが切り裂いた。
 魔法の鎧『サンダープレート』によって、パラレルが放つ矢には風の魔力が込められているはずだった。が、しかし、魔法に耐性のある異界の魔物には、命中してもわずかな電流がパチンと弾けただけで、雷鳴が轟くことはなかった。
 それでも、パラレルはお構いなしに矢を射続けた。
「みんな……ありがとう」
「礼は後だよ、不思議ちゃん! このまま一気に行くよ!」
 涙声のメルティに、スニークが威勢のいい台詞を言ったときだった。
 ガダーム・ギガスが、その巨大な口を大きく広げ、毒々しい青色のガスを吐き出した。ガスは魔物の巨体を包み込み、そして、取り付いているファミリアとゴーンの姿も一緒に覆い隠した。
「まずいです。これじゃぁ、回復できない!」
 アインの言うとおりだった。ウィザードの呪文『アースヒール』は、回復する対象が術者の直線上で、視線が通っていなければかけることが出来ない。今、ガスに包まれて姿を見失ったファミリアとゴーンには、唱えることができないのだ。
「ググワッ!」
「グギーッ!」
「だーょ!」
 毒々しい青色のガスの向こうから、苦しげな声と、それでも懸命に繰り出す槍の音が聞こえる。
「テンツク! ドンツク! ゴンちゃん!」
 フラウが思わずガスの中へと駆け寄った。}
「フラウさん、近づいちゃダメッ! そのガスは猛毒が――」
 メルティが叫んだが遅かった。
 フラウの姿は青い猛毒ガスの中に消え、そして――。
「グワーッ」
「グギーッ」
 ひときわ大きなファミリアの声が響き、ついでドサリと倒れる音がした。
 剣劇の音が止み、異界の魔物の低い唸り声だけが聞こえる――。
 やがて、青色のガスが薄くなると、ガダーム・ギガスの巨体とともに、その足元に『死』んだゴーンと、二体のファミリアが見えた。そして、自らガスの中へと飛び込んだフラウもまた『死』んでいた。テンツクとドンツクは、まるで守るように、フラウの上に折り重なって倒れていた。
「シップさん、リザレクションして!」
「はい!」
 シップが倒れた仲間の方に一歩近づいて、ビショップの究極魔法『リザレクション』を唱えようとしたとき、巨大トカゲがもう一度大きく口を開けた。巨大なアギトからこの世の物ならざる咆哮が上がる。
 ビリビリと『秘密ダンジョン』を揺るがし、ガダーム・ギガスの全身から禍々しき『闇の力』が放たれた。
 冒険者たちの肌が粟立ち、胃袋をねじ切られるような激痛が走る。体力を半分方持っていかれるのと同時に、恐怖が、絶望が、『心の闇』が膨れ上がる。
「これは――。あのときと同じ」
 メルティの脳裏に、以前この『秘密ダンジョン』で全滅したときの、忌まわしい記憶が蘇る。しかし――、
「違うッ! あのときと同じなんかじゃない! 今度の仲間は、私を置いて逃げたりしないんだからッ!」
 メルティは首を横に振って頭から嫌な記憶を追い出した。
「戻れ、ビショップ! 危険だ!」
 RRが叫ぶ。
「私は大丈夫です。それよりフラウさんたちを『生』き返らさないと」
 その言葉どおり、シップにはまだ体力に余裕があった。あの日、アウグストの大聖堂でジョセフ三世から授かった『ホーリーストール』が、『闇の力』によるダメージを半減してくれたのだ。
「猊下、ありがとうございました――」
 口の中でそう呟いて、シップがもう一歩前に出たときだった。
 ガダーム・ギガスのアギトからもう一度、猛毒のガスが吐き出された。
「シップさん!」
「ビショップ!」
「ビスのダンナ!」
 皆が口々にシップを呼んだときには、頑強な鎧に身を包んだビショップの身体は、既に毒々しい青色のガスの中に消えていた。
 肺に入った猛毒がシップの血液に溶け込み、全身を駆け巡る。
 そして、また、ガダーム・ギガスが咆哮を上げ、『秘密ダンジョン』全体がビリビリと震えた。全身の肌が粟立ち、湧き上がる負の感情が心を締め付ける。
 そして、胃の腑がねじ切られるような激痛が走った。
 異界の魔物から放たれた『闇の力』は、いかな聖なるマント『ホーリーストール』でも、猛毒に侵されたシップを守りきれるものではなかった。

  

 

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