【リプレイ風小説 第7話 再戦(リターンマッチ)】

 

ACT.11 確信


「やっぱり、見つかっちゃうか」
 シーフの技『シャドースニーキング』を使って闇に紛れれば、通常の魔物の目ならば誤魔化せるはずだった。しかし、ソドムブラーほどの上位の魔物相手だと、そうはいかないらしい。
 再び『ソドムブラーの礼拝堂』に舞い戻ったスニーク目掛け、礼拝堂の主であるソドムブラーがゆっくりと近づいてくる。
 だが――。
 ソドムブラーが敵意を持って迫り来るのに対し、コウモリの羽根を持った五体の魔人は礼拝堂の中をただ静かに漂うだけだった。
 まるで、スニークのことなど意に介していないように――。
『礼拝堂にひとりで挑んだとき、奴らはブリザードを使わない』
 RRの台詞を思い出す。
 どうやら礼拝堂に踏み込んだ途端、ブリザードの集中砲火で凍りつくことはまぬがれたらしい。『狂乱の魔術師』の二つ名で呼ばれるRRの推測どおりだった。
 ここまでは――。
 しかし、攻撃を受けてもなおコウモリの魔人がブリザードを使わないかはわからない。ひょっとして、自分は分の悪い賭けをしているのかも知れない。
 そんな不安が一瞬スニークの頭の中をよぎったところで、迫り来るソドムブラーの後方に、『死』んだネクロマンサーと、二体の魔獣、それと、支援ウィズが床に転がっているのが見えた。支援ウィズのアインは『アースヒール』の呪文の形に杖を振り上げたまま凍りついていた。
「支援ちゃん、今、助けるから、もうちょい待っててよ」
 ひと言つぶやくと、スニークはベルトポーチから『ドラゴンの心臓』を取り出した。口に放り込んでガリッと奥歯で噛むと、鉄の味がいっぱいに広がった。それと同時に体中の血液が煮えたぎり、頭の中がクリアになる。
「三十秒でカタをつけてやるぜ! くらえ!」
 愛用のルインドライバーが唸りを上げて飛ぶ。大技『ダーティーフィーバー』がソドムブラーと五体のコウモリ魔人を次々と切り裂くと、赤銅色の手斧は弧を描いて手元へと戻った。
 怒り狂ったソドムブラーが、異形の杖を振り上げて近づいてくる。
 しかし――。
 ブリザードは降らなかった。
 攻撃を受け傷つけられても、なお、コウモリの魔人は漂うばかりだった。
「ビンゴだよ、メテオのアニキ!」
 スニークは『狂乱の魔術師』の仮説が正しいことを確信した。
 ルインドライバーを大きく振りかぶり、もう一度『ダーティーフィーバー』の大技を放つ。赤銅色の手斧が唸りを上げ、薄暗い礼拝堂の宙に美しい放物線を描いた。

     ◇ ◇ ◇

「さてと、お次はどうするのさ?」
「そんなこと言って、スニーク。貴方、ひとりで大仕事をやり遂げたっていうのに、疲れてないの?」
 スニークの質問に、パラレルが心配そうに聞くと、
「うん、まあ、そうなんだけどさ。時間もあまりないことだし、ちゃちゃっと進めないと」
 確かにスニークの言うとおりだった。スニークが単身で乗り込んで『ソドムブラーの礼拝堂』を攻略したものの、大きく時間をロスしてしまった。今まで積み上げた貯金を喰いつぶし、残り時間はもう十分を切っている。
 しかし、ここで焦ってはいけない。体制を整えるために時間を費やしたのだから、万全を期して最後の『ガダームギガスの礼拝堂』に臨まなければ意味が無い。
「アインさん、ゴーンさん、フラウさん、大丈夫?」
「ええ」
 メルティが聞いたのに、アインが頷く。
「オラも大丈夫だーよ!」
「テンツクもドンツクも、オッケーだよ、メルちゃん!」
「ウッキー!」
「ウッキャー!」
 ビショップの究極魔法『リザレクション』で『生』き返ったばかりだというのに、ゴーンと二体の魔獣が元気いっぱいで答える。
 それを見届けて、メルティは微笑んだ。
「あの……、メルティさん」
 そこへ、言いにくそうにアインが声を掛けた。
「なあに? どうかした? アインさん」
「いえ、ひと言謝ろうと思って」
「謝る?」
 メルティが聞き返すと、アインは小さく頷き、先を続けた。
「あのとき、自分はメルティさんの命令に背いて『ソドムブラーの礼拝堂』に残りました。パーティーのリーダーの命令を無視して……。それは『秘密ダンジョン』の探索では許されないことです。たったひとりの勝手な行動がパーティー全員の命取りとなる。だから、自分はメルティさんに、それと皆に謝らないと……」
「アインさん――」
 そこへ、今度はフラウが申し訳なさそうに口を挟んだ。
「私も……、メルちゃんの言うこときかなかった。ごめんなさい」
 フラウがペコリと頭を下げ、それに釣られるようにアインも頭を下げた。
「ふたりとも、頭を上げて」
 それを、メルティは制した。
「確かに、アインさんは私の命令に背いたわ。けど、それは目の前の仲間を見捨てることが出来なかったから――。それは、『支援ウィズ』としてのアインさんの本能じゃなくって? それにフラウさん。フラウさんもアインさんと同じ。『ビーストテイマー』としての本能が、ファミリア達を見捨てることをよしとしなかった。私は、優秀な『支援ウィズ』、優秀な『ビーストテイマー』をパーティーのメンバーに迎え入れることができて、とても感謝しているの。ありがとう」
 今度はメルティが頭を下げたのに、アインとフラウは慌ててしまった。
「メルティさん、頭を上げてください」
「メルちゃん」
 ゆっくりと頭を上げると、メルティはもう一度微笑んで、
「それにね」
 アインとフラウ、それから全員を見回して続けた。
「私は前にこの『秘密ダンジョン』に挑んだとき、パーティー全員に見捨てられたの――。でも、貴方達なら――、このパーティーのメンバーなら、誰一人として見捨てることなんかしない。私はそれを確信した」
 皆がメルティに向かって、うんと頷く。
「私は、この素晴らしい仲間とこの『秘密ダンジョン』に挑めたことを誇りに思う」
 胸を張るメルティの姿は、まるで女王のような威厳を纏っていた。

  

 

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