【リプレイ風小説 第7話 再戦(リターンマッチ)】

 

ACT.10 経験と推測


「メルちゃーーーん!」
 フラウは泣きながらメルティの元へ駆け寄り、その胸に飛び込んだ。
「フラウさん、無事でよかった――」
「みんな……、みんな『死』んじゃった。テンツクも、ドンツクも、ゴンちゃんも、支援ちゃんも……。みんな、みんな!」
「フラウさん――」
 自分の胸の中でわんわん泣くフラウをメルティは優しく抱きしめた。
「支援ちゃん、がんばったんだよ。青いポーションをいっぱい飲んで、何度も何度も回復してくれて。でも全然間に合わなかった……。ブリザードがどんどん強くなって。テンツクが『死』んで、ドンツクが倒れて、そんでゴンちゃんも……」
 見守る皆の胸が痛む。
「支援ちゃん、自分も瀕死のくせに最期に私にアスヒかけてくれて。『すみません』って言って。それで……」
 ぽろぽろと涙がこぼれる。
「メルちゃん、助けて……。支援ちゃんを、ゴンちゃんを……、みんなを助けて!」
 そこまで言うのがやっとだった。フラウはメルティの胸に顔を埋め、わーんと声を上げた。泣きじゃくるフラウの頭をメルティの手が優しく撫でる。
「わかってるよ、フラウさん。アインさん達は絶対助けるよ。だから――、もう何も言わなくていいよ――」
「いや、まだだ」
 そこで、RRが無慈悲とも思える声を上げた。
「テイマーには、まだ、聞きたいことがある」
 『狂乱の魔術師』の二ツ名で呼ばれるウィザードの声には、抗えないような力強さがあった。
「皆『死』んだと言ったな? テイマー」
「う、うん……」
 メルティの胸の中で、フラウがコクリと頷く。
「では、なぜ、お前はここにいる?」
「RR! 何もそんな言い方しなくても――」
 まるで責めているような言いっぷりにパラレルが抗議の声を上げる。が、しかし、RRはそれを黙殺して続けた。
「なぜ、お前だけが『生』きてここまでたどりついた? なぜ、お前だけが『死』ななかった?」
「そんなの、わかんないよぅ……」
 メルティの胸の中から、フラウがか細い声で答える。
「大事なことなんだ。何でもいい、思い出せ! 支援君が『死』んでから、お前は何をした?」
 RRの必死の追求に、フラウはぽつりぽつりと答えた。
「私、倒れた支援ちゃんに駆け寄って……、支援ちゃん『死』んじゃやだって、わーんって泣いて。いっぱい泣いて……。いつの間にか支援ちゃんの顔に私の涙がいっぱいこぼれてて……。なんか、支援ちゃんが泣いてるみたいで、よけい悲しくなって。そんで、私、支援ちゃんの顔を拭いてあげて……。それから――」
「待て」
 そこまで黙って聞いていたRRが、唐突にフラウの話を遮った。
「お前は『涙』を流し、支援君の顔にこぼれた『涙』を拭いた。そうだな? テイマー」
「うん……」
 フラウがまたコクリと頷く。
「『涙』がどうかしたのさ? メテオのアニキ」
 尋ねたスニークの方を見て、RRは答えた。
「あのブリザードの中で、『涙』は流れない」
 それを聞いて、スニークはあっと声を上げた。
「我々も経験したように、血も凍るようなブリザードだ。その中で『涙』を流したとしても、たちまち凍りつくのが必然。しかし、テイマーが流した『涙』は凍らなかった。凍らずに支援君の顔を濡らした。なぜか?」
「そんとき、ブリザードが止んでたからだ!」
 スニークの答えに、RRが首肯する。
「支援君が『死』んだとき、ブリザードが止んだ」
「そっか。だから嬢ちゃんは無事だったんだ」
 もう一度首肯し、今度はメルティの方へと向き直る。
「リトル。お前が以前『ソドムブラーの礼拝堂』を攻略したときのことを、詳しく聞かせてくれ」
「え? えぇ」
「お前は、パーティー全員であっけなくソドムブラーを倒したと言ったな。それは、本当か?」
「本当よ。私が次はどうするのって聞いたら、誰かがソドムブラーだけ倒せば次の扉が開くから、全員で集中攻撃して倒そうって言って」
 メルティが、そのときのことを思い出しながら答える。
「全員が、ソドムブラーと戦ったのか?」
「待って、違うわ。全員じゃない」
 RRの問いかけに、やっとの思いで記憶を手繰り寄せる。
「全員で集中攻撃しようって言ったのに、剣士さんがひとり先走って、ソドムブラーを倒しちゃったのよ!」
「リトル、そのとき、お前たちはどこにいた?」
「礼拝堂の前よ。私達が中に入る前に、剣士さんが倒しちゃったから」
「そうか――」
 RRの眉間に深い皺が刻まれる。
「では、そのときブリザードは降ったか?」
「――わからない」
 メルティが首を横に振った。
「わからないわ、魔物の姿さえ一瞬見ただけで、礼拝堂の中には入らなかったんだもの……」
 当惑しうつむき加減になったメルティだったが、ふと何かを思い出して顔を上げる。
「思い出した! あのとき剣士は無傷でひとり悠々と戻ってきたんだ!」
「やはり」
 眉間に皺を寄せたまま、RRはポツリと言った。
「メテオのアニキ、なんかわかったの?」
「ああ――」
 スニークの問いかけに首肯すると、RRは全員を見回した。
「これからする話は、なんの確証もない推測に過ぎない。そう思って聞いてくれ」
 その言葉に、全員がうんと頷く。
「まず、テイマーだ。支援君が『死』んで、ブリザードが止んだ。そのとき礼拝堂の中には、テイマーひとりだった」
 メルティに抱きついたままのフラウが、コクリと頷く。
「次に、リトルの話だ。先走った剣士がひとりでソドムブラーを倒した。そして無傷で生還した。そのとき礼拝堂の中に入ったのは、その剣士ひとりだった」
「それって――」
 言わんとしていることに気づいて、スニークが思わず声をあげた。それにRRが小さく頷く。
「礼拝堂にひとりで挑んだとき、奴らはブリザードを使わない」
 しんと静まったところに、スニークがツバをゴクリと飲んだ音だけが、やけに大きく聞こえた。
「理由はわからない。わからないが、コウモリの魔人は、異分子がひとりならそれを敵と認識しないらしい。たったひとりなど敵と見なすに当たらないと思っているのかも知れない」
「じゃぁさ、奴らを倒すには、ソロで突っ込めばいいってこと?」
「ああ」
 今度は大きく頷く。
「我々はかなりの時間をロスしてしまった。しかも、ソドムブラーだけでなく、コウモリの魔人も全て倒さなくてはならない。でなければ、支援君たちを『生』き返らせた途端、ブリザードに襲われる。これ以上時間をかけず、支援君たちも助け出すには、奴らを一度に倒す大技が必要だ」
「わかったよ、アニキ――」
 スニークが、はあと大きく息を吐く。
「そんな大技、アニキの『メテオシャワー』か、オイラの『ダーティーフィーバー』しかない。でも、ソドムブラーに魔法は効きにくい。ここはオイラが行くっきゃないっしょ」
「無理強いは出来ない」
 眉間に皺を寄せたまま、RRがスニークの方を見る。
「最初に言ったように、これは自分の推測に過ぎない。外れていれば、お前は礼拝堂に入った途端、凍りつく」
「うーん。まぁ、そうなんだけどさ。他に方法もなさそうだし――」
 それまで、青い目を伏せ、黙って聞いていたメルティが、思い切って口を開いた。
「シーフさん、私からもお願いするわ。パーティーを救って!」
 その声に、メルティの方を見て、
「そう来なくっちゃ」
 スニークは人懐っこい笑顔を見せた。
「リーダーに頼まれちゃしょうがないや」
「危険な役回りを押し付けてちゃって――、ゴメンナサイ、シーフさん」
「いんや、お姫様の命を受けた騎士になった気分で、悪くないよ。これがリーダーの器量ってヤツなのかね」
 すまなそうにするメルティに、スニークが軽口で答える。
「コソドロ、念のため支援魔法をかけなおす」
 そう言って目配せし、RRはシップと共に支援魔法を唱えた。RRの『ヘイスト』の呪文が風の魔力を集め、スニークの身体を羽根のように軽くする。
「メテオのアニキに支援してもらうなんて、久し振りだね。支援ちゃんみたく極めてるんだろうね?」
「ぬかせ!」
 ひと通り支援魔法をかけ終わると、RRがもう一度声をかけた。
「コソドロ」
「なにさ、アニキ」
「これを持っていけ」
 そう言って、手のひらに収まる小さなウズラの卵大の干し肉のようなものを放る。
「これって『ドラゴンの心臓』じゃん」
 ある種の魔物の内臓を、しかるべき手順で加工して作られる秘薬『ドラゴンの心臓』。これを服用すれば、一定時間『心の力』が減らない。ごく短い間ではあるが効いている間は、どんな大魔法でも究極奥義でも、使い放題なのだ。
 強敵を相手にするときには非常に有効なため、冒険者の間で高値で取引されているアイテムである。
「そいつは三十秒のレア物だ。大技を連発するなら必要だろう」
「ありがとう、アニキ。って、それって三十秒でケリをつけて来いってこと?」
「そうだ」
「全く、メテオのアニキってば、昔っから人使い荒いんだから」
 へへへと笑うスニークにつられ、見守る皆も口元が緩んだ。
「そんじゃま、行ってくるよ」
「コソドロさん」
「コソドロ」
「スニーク!」
 単身死地に向かうスニークに皆が声を掛ける。
「シーフさん、気をつけて」
「わかってるよ、不思議ちゃん。必ず支援ちゃんたちを助けてくるから、待っててよ」
 最後に、メルティに向かって笑いかけると、スニークは『ソドムブラーの礼拝堂』へと向かった。
 やがてその後ろ姿は、闇に融けて見えなくなった。

  

 

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