【リプレイ風小説 第7話 再戦(リターンマッチ)】

 

ACT.9 失策と対策


「それともうひとつ、貴女には言っておくことがあるわ、おちびのお姫様」
「なによ」
  もう充分にスノウの講義は聞いたと思っていたのに。正直少々辟易として、メルティは聞いた。
「時にリーダーは、パーティーの利益を優先して、非情にならなければならないことがあるの」
「それって、どういうとき?」
「そうね――」
 スノウは暫く思案して、それからまた口を開いた。
「例えば、ひとりを助けるために、残った全員の命が危険にさらされるとしたら、貴女ならどうする? おちびのお姫様」
「それは……」
 メルティが答えるのに逡巡していると、
「私なら、ひとりを見捨てて、他の全員の命を救うと即答するわ」
 スノウがその蒼い目でじっとメルティを見つめる。
「答えを出すのに迷ってる時点で、リーダー失格よ、おちびのお姫様」
「ひとりを見捨てて、他の全員の命を救う――」
「そう」
 メルティがひとり言のようにスノウの台詞を繰り返すと、メイド姿のスノウがひとつ頷いた。
「それは、とても悲しくて、辛い決断――。でもね」
 氷のように冷たいスノウの眼差しがメルティを見据える。
「リーダーはその辛い決断をしなきゃならないの。それがリーダーだから」

     ◆ ◆ ◆

「スノウ……、私……これでよかったのよね?」
 メルティは、誰にも聞こえないほどの小さな声で問いかけた。しかし、ここは『秘密ダンジョン』の地下二階、三方に扉のある魔方陣の広間なのだ。当然のことながら、遠く離れたビガプールの屋敷にいるスノウが返事をするはずもない。
 いつもは頭に来る憎まれ口が、今は無性に聞きたかった。
『貴女リーダーでしょ? しっかりなさい、おちびのお姫様』
 そうやって、叱咤して欲しかった。これから、三人も仲間を失ったパーティーを立て直さなければならないのだ。せめて誰かに背中を押してもらわなければ、自分には到底できるようには思えなかった。
「――んでさ、これからどうするのさ、不思議ちゃん」
「今、考えてるのッ! ちょっと黙ってて!」
「不思議……ちゃん?」
 まるでビガプールのお屋敷にいるときのようにわがままな自分が顔を出し、メルティは思わず叫んでしまった。
 しかし、今、周りにいるのは自分の言うことをなんでも聞いてくれる使用人ではない。ここは居心地のいいお屋敷ではないのだ。
 仲間たちが自分のことを見ているのに気づき、そんな自分が情けなくてメルティは目を伏せた。
「ゴメン……、ごめんなさい、シーフさん」
「……不思議ちゃん」
「こんなときこそ、しっかりしなきゃならないのに……。私、リーダー失格ね」
「いや、そんなことはない」
 自虐的に笑ったメルティに、今度は、RRが口を挟んだ。
「あのとき、撤退しなければ、我々は全滅していた。あのブリザードで――。確実に――」
 リトルウィッチの少女は、意気消沈した顔を上げてRRの方に目をやった。
「ビショップを温存できれば、体制は立て直せる。リーダーとして最善の判断だった」
 スニークが、パラレルが、シップが、RRの台詞にうんと頷く。
「それに、これは自分の失策だ」
 驚いて、メルティはその青い目を見開いた。
「こうなることは予測が出来た。だが、それに何の対策も講じなかった」
「それって、どういうこと?」
「『古都の噂』だよ」
 メルティの問いかけに答えたのは、スニークだった。
「この『秘密ダンジョン』に挑戦するにあたっては、オイラもいろいろと調べたって言ったっしょ。そんときに古都で聞いたんだよ。曰く、『水の力に気をつけろ』ってね。それがさっきのブリザードってわけ」
 スニークはひとつコホンと咳払いをして続けた。
「古都で調べたときに、『ソドムブラーの礼拝堂』攻略についてはよくわからなかったんだ。ブリザードで全滅したパーティーもいれば、不思議ちゃんみたくあっさり倒したってパーティーもいてさ。コウモリの羽根がついた五体の魔物がブリザードを使うのは間違いないんだけど、どうして使うときと使わないときがあるかは謎のままなんだよ。剣士が相手だと使わないとか、いや弓使いのときだとか、いろんな憶測が飛んでるんだ」
「自分も、その話を聞いていた」
 話をひきとって、RRがまた口を開いた。
「半信半疑だったが、以前、あっさりと攻略したと言ったリトルの言葉に賭けてみた。よく考えもせず安易な道を選んでしまった。すまなかった」
「すまないだなんて、そんな――」
 自分に向かって頭を下げるRRを、メルティは慌てて制した。
「安易だったのは、私の方だから。前のパーティーの経験だけで、よく調べもしなかったんだもん。謝るのは私の方。ゴメンナサイ」
 今度は、メルティがペコリを頭を下げる。
「皆で謝っていても、事態はよくならないわ。今は、どうやって『ソドムブラーの礼拝堂』を攻略し、残された三人を救出するかを考える方が先決じゃない?」
「そうよね。そのとおりよね――」
 パラレルの声に顔を上げると、
「ありがとう」
 メルティは、弓使いに礼を言った。
「兎に角、皆で攻略法を考えなくちゃ」
「だよね。まずは、あのブリザードをなんとかしないと。今回は、ソドムブラーだけを倒して先に進むわけにはいかないんだから。ブリザード使いの五体の魔物も倒してからでないと、三人を助けられない。なんかさ、こうすんごい防御魔法とかないわけ? ビスのダンナ」
「防御の結界も張ってましたし、出来ることは全てやった結果があれなんです。その上で、回復の呪文を唱えるのがやっとだったんですから。無茶言わないで下さい」
 シップがちょっぴり呆れたように返事をする。スニークの言うような都合のいい魔法があればとっくに使っている。
「そっかー」
 大げさにがっかりするスニークに、皆が呆れ顔をした。だからと言って、本気で呆れているわけではない。それが重苦しい雰囲気を少しでも和ませようとするスニークの気遣いであることを、皆、知っていたから。
「あっさり攻略したパーティーと、全滅したパーティーの違いってなんだろう?」
 しばし頭を抱えて悩んでいたスニークは、ふと『ソドムブラーの礼拝堂』の方から足音が近づいてくるのに気がついた。
「どうしたの? スニーク」
 スニークの様子がおかしいのに、パラレルが声をかけると、
「誰かが、近づいてくる」
 全員に緊張が走った。しんとした通路に響く足音が、息を殺した皆の耳にも聞こえた。
「魔物が追って来たの!?」
 パラレルが弓を構える。
「待って、アネさん。この足音は、確か――」
 通路の暗がりから現れた足音の主は、魔物ではなかった。それは――。
「メルちゃん……」
「――フラウさん?」
 そこに、ビーストテイマーの少女がひとりぼっちで立っていた。

 

 

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