【リプレイ風小説 第7話 再戦(リターンマッチ)】

 

ACT.7 ガイナスの礼拝堂


「じゃあ、行くわよ」
 気を取り直してひと言声を掛け、メルティは先頭に立って奥へと進んだ。
 地下二階へと降りてきた階段から、まっすぐに続く通路を進むと、一向はすぐに大きな広間へと出た。高く掲げられたかがり火が、明々と広間を照らす。その明りに照らされて、一行が今来た通路を除く三方向に、それぞれ大きな扉がひとつづつ、それから広間の真ん中に大きな魔方陣がひとつ描かれているのが見えた。
「時間がないから手短に言うね。私が魔方陣の真ん中に立つのと同時に、骸骨戦士が十三体出現するの。それをなるべく早く全て倒してね。倒し終わったら、右手の『ガイナスの礼拝堂』への扉が開くから、次はそっちよ」
 メルティの台詞に、全員がうんと頷く。
「じゃぁ、カウント3から始めるね。いい?」
 もう一度全員が首肯したのを見届けてから、メルティはカウントダウンを始めた。
「3、2、1」
 パーティーの全員に緊張が走る。
「0!」
 その発声と共に、メルティがぴょんと魔方陣の真ん中へと立つ。すると、魔方陣を遠巻きに取り囲むようにして、忽然と十三体の骸骨戦士が出現した。
 それと同時に、スニークの放った赤銅色の手斧が唸りを上げて飛び、一瞬にして数体の骸骨戦士を首を跳ねた。
「メルティ〜〜〜☆ ノヴァ〜〜〜★!!!」
 振り上げたメルティのバトンの先に、遥かなる星のエネルギーが集まり、骸骨戦士に降り注ぐ。
「いっけーッ!」
 フラウが声を上げ、ビーストテイマーの物悲しい笛の音に乗って、二体の忠実なる魔獣が骸骨戦士に襲い掛かかる。その横で、ゴーンが妖しげな呪術を唱えた。パラレルが放った矢から雷鳴が轟き、二人のウィザードが落としたメテオの閃光が、辺りを白い闇に変えた。
 あっという間だった。
 わずか数十秒の間に、十三体の骸骨戦士は与えられた偽りの生命を奪われ、本来あるべき土へと返っていった。
 そして。
 一行が入ってきた通路から向かって右側の扉、『ガイナスの礼拝堂』へと続く扉が、不気味な音を響かせて開いた。

     ◇ ◇ ◇

「やったー! 一番のりーッ!」
「ウキーッ!」
「ウキャーッ!」
 フラウが二体の魔獣を従え、嬉々として開いたばかりの扉の中へと飛び込む。
「あ、嬢ちゃん、まずいって、そこってばトラップが――」
 スニークが止めたときには遅かった。扉から続く通路を抜け、フラウが『ガイナスの礼拝堂』へと一歩踏み入ったところでトラップが発動した。
「ふにゃ」
 頭の周りを星が飛び、目の前がチカチカする。
「ウキー」
「ウキャー」
 二体のファミリアが心配そうに見守るが、どうやら完全に意識が飛んでいるらしい。
「あーあ、だから言わんこっちゃないんだよ」
 そう言ってフラウに近づいて正面に回ると、スニークはフラウのミゾオチに右手を当てた。あてがった右手がほんのりと光る。すると、フラウの頭の周りを飛んでいた星が消えた。
「ありぇ? コソドロさん、いつの間に?」
「嬢ちゃん、急げとは言ったけど、焦っちゃダメだって」
 ようやく意識がはっきりしたところでふと見ると、フラウはスニークの右手が自分のミゾオチ辺りに触れているのに気がついた。慌てて逃げるように離れ、両手で胸を隠す。
「どったの? 嬢ちゃん」
 スニークを見つめるフラウの両目にじわりと涙が浮かぶ。
「コソドロさんが、胸に触った……」
「えぇッ!?」
「もう、お嫁に行けない」
 ぐすんと鼻をすする。
「いや、そうじゃなくてさ。『解毒』しただけだって。胸なんか触ってないって!」
 すると、ネクロマンサーのゴーンが、目深に被ったフードの奥からまじまじとスニークを見つめてひと言。
「コソドロさん、エッチぃだーよ」
「エッチくないってば! 嬢ちゃんのちっこい胸なんかすき好んで触らないよ! アネさんのならまだしも」
「なんでそこで、アタシが出てくるのよ。このえろしふ」
 いつの間にか側に近づいてきた弓使いのパラレルが、スニークの後ろ頭をこづく。
「いや、それは言葉のあやってヤツでさ――」
 しどろもどろでいい訳をしていると、
「ちっこい胸って言われた……」
 どんよりとした重い空気を背負って、フラウが落ち込んでいた。
「え? あ、いや、そうじゃなくてさ」
「こんなちっこい胸じゃ、お嫁に行けない……」
「えーと、そう! オイラちっこい胸の方が好きだった!」
「ホントに?」
「ホント、ホント! オイラちっこい方が、ひかえめで奥ゆかしくて好きさ!」
 すると、フラウはまたひとつ鼻をすすり、
「ヤッパリ、わざと触ったんだ!」
「えぇッ!? なんでそうなるの?」
 その場に固まったスニークに向かって、ゴーンがひと言。
「コソドロさん、エッチぃだーよ」
「もう、どないせーッちゅうねん」
 スニークが呆れとも諦めとも言えない台詞をはいたとき、全員の頭の中に声が響いた。
「(久しぶりに、遊べるオモチャが来たじゃないか)」
 礼拝堂の奥の暗がりで、ふたつの赤い目が妖しく光った。
「気をつけて、正面にいるわ」
 メルティの声に従い、皆が一斉に礼拝堂の奥へと目を凝らした。明々と照らすかがり火から死角となった暗がりの中に、何かがいる。
「あれが、この礼拝堂の主、ガイナスよ」
 暗がりの中で、背中の大きな白い翼を広げた異形の魔人が、鋭い爪を持つ手をゆっくりと蠢かしていた。まるで、血に飢えた猛禽類が獲物を求めているかのように。
「一気に倒すんだから! みんな、いくわよ!」
 全員に向かってメルティが指示を飛ばすと、それをあざ笑うガイナスの声が頭に響いた。
「(愚かなヤツラめ、みんな地獄行きだ!)」
 声と同時に床のあちこちがひび割れ、そこから瘴気が噴き出した。瘴気の中におぼろな影が蠢く。それはあっと言う間に実体化した。両腕に斧とも剣ともつかない異形の武器を携えた五体の魔人が、八人の冒険者を取り囲んでいた。
 間髪入れず、アインが究極魔法『メテオシャワー』を唱える。爆音を響かせて落ちた隕石が地面を揺らし、閃光が辺りを白い闇に変えた。
「今、メテオはダメだ、支援君!」
 RRの声に、えっと思ったときには遅かった。メテオの白い闇の中から、何本もの異形の武器がアインの身体を貫き、そして、ガイナスの鋭い爪が心臓をえぐった。アインの右手で『急所外し』の指輪が鈍く光り、鋭い爪が心臓を貫くところをほんの指一本分ずらす。しかし、これ程の集中攻撃を受けては、『急所外し』の指輪も何の役にも立たなかった。
 閃光が消え元の薄暗い礼拝堂に戻ったとき、究極魔法の魔力に魅かれた魔人どもの真ん中で、全身を引き裂かれぼろぼろになったアインが『死』んでいた。
「支援ちゃんってば、慌て過ぎだって!」
 叫ぶと同時に放ったスニークのルインドライバーが、ガイナスと五体の魔人を次々に切り裂く。一度に複数の敵を攻撃するシーフの大技『ダーティーフィーバー』だ。
「オイラが相手だ、こんにゃろめ!」
 弧を描いて戻った赤銅色の手斧を受け取ると、スニークは魔人どもの注意を引いた。その術中にはまり、魔人が一斉にスニークの後を追う。
 しかし、ガイナスだけは、一歩もその場を動けないでいた。白い翼の魔人を中心に数羽のシロウサギが踊っていた。
「ナイスだよ、不思議ちゃん!」
 メルティがスニークに向かって軽くウィンクする。
「シーフさんが他の魔人を引き付けてる間に、ガイナスを倒すのよ。シップさんはアインさんをお願い」
「まかして、メルちゃん!」
「だーよ!」
 動きを封じられたガイナスの身体を、ファミリアの鋭い槍が貫く。その横で、ゴーンの妖しげな呪術が魔人の距離感を狂わせ、攻撃を避けにくくさせる。そして、パラレルの放った矢が魔人に突き刺さり、雷鳴が轟いた。
 その間にシップが『リザレクション』を唱え、『死』の淵に迷い込んだアインの魂を呼び戻す。ぼろぼろに引き裂かれたアインの身体が聖なる究極魔法の光に包まれ、『死』から『生』への移行が完了する。
「支援君、メテオは使いどころを間違えれば、魔物の的になるだけだ」
「――すみません、RRさん」
 そう言ってバツが悪そうにするアインを、シップとRRの魔法が丁寧に癒す。
 失われた体力がすっかり回復したとき、フラウの使役する魔獣の槍がガイナスの心臓をとらえた。
 断末魔の叫びを残し、ガイナスの身体が妖気漂う『秘密ダンジョン』の空気の中へと霧散した。

 

 

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