【リプレイ風小説 第7話 再戦(リターンマッチ)】

 

ACT.5 絶望の礼拝堂


「納骨堂の『秘密ダンジョン』を攻略するには、地下一階にある四つの礼拝堂と、地下二階の三つの礼拝堂を制圧しなければならない。ここまではいい? おちびのお姫さま」
「そんなの知ってるわよ。私、最後の礼拝堂までは行ったんだから」
 十歳ぐらいの小さなメルティが口を尖らせて言うと、スノウの氷のような視線が突き刺さった。仕方なく言葉を飲み込んで、おとなしく聞く。
「まず、信頼できるビショップと、ウィザードを二人確保しなさい」
 メイドに上から物を言われるのは不本意ではある。それがあの小憎らしい元ビーストテイマーなのだから尚更だが、今はそんなことが言える立場ではない。
「それと、ネクロマンサー」
「ネクロマンサー? 相手の能力を『低下』するなら私の『ウルトラ・ノヴァ』でもできるじゃない」
「確かにその魔法も効果はあるけれど、単体を『低下』するには、ネクロの呪術の方が向いているの。それに貴女には別の役割がある。魔物の動きを封じる、足止めの役目がね」
 メルティの反論をスノウはすぐに否定した。
「納骨堂の『秘密ダンジョン』を攻略するには、ジョーカーが二枚必要なのよ。おちびのお姫様」
 スノウの蒼い目が、確認するように小さな女の子の姿のメルティを見据える。
「それと、強力なビーストを従えたビーストテイマー」
「じゃぁ、貴女が?」
 メルティが聞くと一瞬淋しそうな目をして、スノウは首を横に振った。
「いいえ、私はもう『秘密ダンジョン』に行くことはないわ。あのとき、スウェブタワーの『秘密ダンジョン』から脱出するため、私は魔力を失った」
「スノウ……」
「魔力を失った私は、もうビーストテイマーでも冒険者でもない。ただのメイドなのよ、小さなお姫様」
「……でも」
 スノウがパーティーの皆を『秘密ダンジョン』から生還させるため、己が魔力を失ったところをメルティは目の前で見ていた。炎の精霊・ケルビーに乗り、二頭の神獣ユニコーンを操る彼女の雄姿を見ることは二度とないのだ。
 でも、もしスノウがパーティーの一員となってくれるのなら、これほど心強いことはない。ひょっとしたらと思って聞いたのだが、スノウのつれない返事にがっかりする。
「あとは、遠距離から攻撃できる強力な戦闘力を持つ火力が二人、これで八人」
「ビショップが一人、ウィザードが二人、ネクロマンサー、ビーストテイマー、遠距離火力が二人、それと私」
「そう。それが今考えうる、ベストのメンバー。最強の布陣」
 メルティが確認したのに、スノウはコクリと頷いた。
「いずれも知り合いか、知り合いの知り合いに頼みなさい」

     ◆ ◆ ◆

 古都ブルンネンシュティングから歩いて二日、『暴かれた納骨堂』の地下一階から『ポータルクリスタル』で入り口を開き、メルティたち八人の冒険者は『秘密ダンジョン』へと侵入した。
 あのスウェブタワーの『秘密ダンジョン』でも一緒だったビショップのシップ、『狂乱の魔術師』RR、支援ウィズのアイン。スノウから推挙されたネクロマンサーのゴーン。オーガ巣窟の『秘密ダンジョン』以来の顔なじみであり、シーフギルドを通じて何かと情報収集を依頼していたシーフのスニーク。それからスニークに頼んで集めてもらったビーストテイマーのフラウと、弓使いのパラレル。これに今回の探索行のリーダーであるリトルウィッチのメルティを加えた八人だ。
「みんな、こっち。扉が開いたわよ」
「でも、メルティさん、まだ魔物が残ってます」
 東側の扉を開いて皆を呼ぶメルティに向かって、アインは叫んだ。混乱とメテオの攻撃で魔物の群れを駆逐しながら真ん中から東に向かって移動してきたものの、アインの言うとおり、まだ大広間の南から西側にかけて、魔物の群れが残っていた。
「この地下一階には、広間の東西南北にひとつづつ四つの礼拝堂があるの。だから、この広間にはまた戻ってくるのよ。そのときに、また倒せばいいんだから。早く!」
「あ、はい」
 リーダーにそう言われては仕方が無い。アインは杖を振り上げて、二度、三度と『テレポーテーション』の魔法を繰り返し、メルティが開けた東側の扉へと移動した。
 扉を入って通路を抜けると、先ほど聞いたようにそこは大きな礼拝堂だった。そこで八人の冒険者を迎えたのは、魔物ではなく、法衣を纏った十数人の修道士だった。
「この人たち、何?」
 フラウの足が止まった。
「この者たちは、魔物に魂を捧げた殉教者です。肉体だけの抜け殻です」
 シップが言う間に、修道士たちがじりじりと迫っていた。コウモリのような羽根の怪鳥を従えて。
「彼らは最早人間ではありません。魔物に殉教して人間を捨てた――。今や魔物と同じです」
「でも……」
 戸惑うフラウに、修道士が襲いかかった。
「危ない!」
 パラレルが放った矢が修道士の胸を貫き雷鳴が轟く。すると、致命傷を受けた修道士は、まるで空気に溶けるように塵となって消え去った。
「見た? 彼らは魔物よ。魔物そのものなんだから」
「だって……」
 未だ躊躇するフラウの前にメルティが立ち、バトンを振り上げた。
「メルティ〜〜〜☆ ノヴァ〜〜〜★!!!」
 バトンが指した先に星のエネルギーが集まり、天上から修道士目掛けて降り注ぐ。それと同時に数体の修道士が塵となって消えた。
「まだわからないの? 彼らは魔物だって言ってるのよ! この先まだまだ同じような魔物が――」
 メルティの台詞はそこまでて途切れてしまった。怪鳥が巻き起こした突風が彼女達を襲ったのだ。
「きゃっ!」
 突風にフラウは思わず顔を背けて悲鳴を上げた。
「メルちゃん!」
 背けた顔を元に戻すと、自分の前に立っていたはずのメルティが、目の前の床に倒れていた。
「テンツク! ドンツク! あの鳥さんをやっつけて!」
「ウキーッ!」
「ウギャーッ!」
 己が主人の命を受けた二体の魔獣が、フラウが奏でる物悲しい短調の笛の音に乗って怪鳥に襲い掛かる。
 すかさず、シップがリザレクションの呪文で、『死』の淵からメルティを呼び戻した。
「メルちゃん、ごめんなさい――」
「この『秘密ダンジョン』はホントに危険なの……。一瞬の迷いが命取りになるんだから……。だから……、もう迷っちゃ……ダメ……」
 『生』き返ったばかりの虚弱な身体で、メルティが途切れ途切れに諭す。それを聞いてフラウは一旦うつむき、そしてキュッと唇を噛んでから顔を上げ、ニッコリ微笑んだ。
「うん。私もう迷わない。約束するわ、メルちゃん!」
「ありがとう……、フラウさん」
 その笑顔に元気をもらい、メルティもまた笑顔で返した。
 そうして、一向は修道士どもを倒しながら礼拝堂の奥へと進んだ。すると、ひと際豪奢な法衣を来た修道士が叫んだ。
「私たちの神のための祈りを妨げることは許しません!」
 修道士の目が妖しく光る。と、同時に全員に心臓を鷲づかみにされたような痛みが走った。
「怯んじゃダメ!」
 メルティが修道士の周りに数羽のシロウサギを遊ばせて叫ぶ。
「テンツク! ドンツク!」
「ウキッ!」
「ウギャ!」
 フラウが苦しい胸を押さえながら笛を奏でる。それに従い二体のファミリアが繰り出した槍が、修道士を突き刺した。豪奢な法衣が赤い血の色に染まる。
 パラレルの放った矢が修道士の左肩に命中し、雷鳴が轟く。
 そして、スニークの放ったルインドライバーが、修道士を切り裂いた。
「力及ばず……申し訳ありません……、ハウロカーン様!」
 どうと床に倒れて苦しげな声を発すると、淀んだ空気に溶けるように修道士の姿は霧散した。

 

 

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