【リプレイ風小説 第6話 偽者達の円舞曲】

 

ACT.16 ダンスの終わり

 ママ、どうしてないているの?
「大切なお友達にもう会えないからよ」
 おともだちって、しろいおうまさん?
「そうよ。コルドとチルドはご本になってしまったの」
 ママ。
「このご本は今日からあなたの物よ」
 ママ。
「ママはもうコルドとチルドには会えないけれど、あなたが大きくなったらきっと会えるわ」
 ママ。
「泣かないで。ママは自分から望んでさよならしたのよ。だから。ね」
 ママ、私ももう会えなくなっちゃった。

 

「ロンドさん」
 背後からナイトが躊躇い勝ちに声を掛ける。
「スノウは?」
 振り返りもせず、ロンドが聞く。
「まだ、目を覚ましません」
「そうか」
 背を向けたまま、ナイトの答えに目を伏せる。
「あのぅ」
「なんだ? まだ何か用か?」
 口篭りながらも続ける。
「僕、ハンナさんのこと知らなくて。なんて言ったらいいか」
 ナイトなりに気を使ってくれているのだろうが、今はそのことには触れないで居て欲しい。それが率直な気持ちだった。
「あのぅ、それでロンドさん、これからどうするんですか?」
「組織に全て終わったことを報告する。その後は考えていない」
「そうですか」
 それから暫く何かを考え込んだ後、ナイトは決心したようにギュッと拳を握った。
「ロンドさん! 僕を組織に『秘密組織レッドアイ』に入れてください!」
 驚いて振り返り、ナイトの顔を見る。
「急に何を言い出すんだ」
「急にじゃないです。僕、ずっと考えてたんです。ロンドさんの力になりたいって」
 それから、ちょっとうつむいて続ける。
「ずっとそばにいたいって」
「バカ」
 突拍子もない言葉に一瞬驚き、反射的に悪態をつく。
「僕、本気なんです! 『秘密組織レッドアイ』に入れてください!」
 ナイトの真っ直ぐな目に、ロンドは意志の固さを感じた。
「わかったよ。報告に行くついでにアンタを組織の者に会わせる。但し、入団試験は受けてもらう」
「はい!」
 ナイトが元気良く返事をした。
 そのとき、心が少し軽くなったのをロンドが気づくのは、まだ、先のことだった。

 

「ママ……」
 薄っすらと目を開けると、そこには幼い頃に見た母ではなく、母よりも濃いブロンドをしたリトルウィッチの少女がいた。
「やっと目が覚めたみたいね」
「ここは?」
「スウェブタワーの地下5階よ。ほら、『秘密ダンジョン』の入り口を開いた、あのフロアよ」
 メルティーの説明に、ただ「そう」とだけ答える。
「貴女、随分とうなされてたわよ。うわ言で「ママ」なんて言っちゃって。マザコンだったのね」
 スノウはメルティの言葉をぼんやりと聞いていた。
 頭の中に、いや、心の中に何かぽっかりと穴が開いたような気がする。
 ふと、傍らを見ると、大きな本が2冊置いてあった。
「これは……」
「大事な相棒でしょ? あのどさくさの中、持ってくるの大変だったんだから」
「貴女が持ってきてくれたの?」
「そうだけど」
「そう」
 愛しそうに本を撫でる。
「ありがとう」
 スノウに礼を言われると、メルティは顔を真っ赤にした。
「なによなによ、調子狂っちゃうわね。もっと憎まれ口言いなさいよ!」
 不貞腐れて、プイッと顔を背けるのを、ぼんやりと眺める。
「この借りは、また、『秘密ダンジョン』で返して貰うわ。『暴かれた納骨堂』に新しい『秘密ダンジョン』が発見されたんですって」
「ごめんなさい。それは無理」
「え?」
 驚いて、顔を見ると、スノウは淋しげな目でもう一度言った。
「ごめんなさい、無理なの」
「おちびさん……」
 その目があまりにも淋しそうだったので、メルティはそれ以上なにも言えなくなった。

 

「『赤い石』を求める者は不幸になるって言われているけれど、偽のレッドアイは滅び、ロンドさんは妹さんを失った。まさに、噂どおりですね」
 アインがしんみりと言ったのに、RRはただ「ああ」と答えた。
「それは神が創りたもうた『赤い石』のせいではなく、それを求める人間の業の深さが不幸にさせるのではないでしょうか」
 シップがビショップらしい見解を述べる。
「そうかも知れない」
 ポツリとつぶやき、それから暫くおいてRRは続けた。
「『赤い石』にとり憑かれたひとりの狂人に、自らをレッドアイの頭領と名乗った偽者に、皆踊らされた。奴らだけでなく、傭兵も、テイマーも、そして我々も」
「失ったものばかりで、何も得られなかったか」
 溜息混じりに、アインが言う。
「そうでもないみたいよん」
 酒瓶を枕に寝ているとばかり思っていたドランクが口を開いた。ドランクが顎で指し示す方を見ると、ロンドとナイトが2人で話し込んでいるのが見えた。
 何やらいい雰囲気だ。
「あれれ!? あの2人いつの間に???」
 アインが目を丸くする。
「いいことだと思います。今のロンドさんには支えになるものが必要でしょうから」
 シップが目を細める。
「そうですね」
 アインもうんと頷く。
「ところで、あの暴走した『赤い石』はどうなるんでしょう」
「わからない」
 その問いにRRはゆっくりと首を横に振った。
「『秘密ダンジョン』を破壊した後、次元の狭間を彷徨っているか、次元の裂け目から地上、天界、地獄のいずれかに堕ちたか」
 遠くに想いを馳せるように続ける。
「或いは、あの膨大な魔力で、次元の狭間に新たな『秘密ダンジョン』を造り上げたかも知れない」
 アインは、崩壊する『秘密ダンジョン』の裂け目から見えた街と、そこにたたずんでいた男の目を思い出た。背中に悪寒が走る。
「そんなことって……、あるんですか?」
 恐る恐る聞く。
 すると、RRはニヤリと笑って、ひと言「さてな」と答えた。

 

 

<<前へ                        <戻る>                     次へ>>