【リプレイ風小説 第6話 偽者達の円舞曲】

 

ACT.15 暴走

 『赤い石』が光り『秘密ダンジョン』が揺れる度、強大なエネルギーが冒険者達の身体からごっそりと体力を奪っていく。
 シップとアイン、RRの3人がかりで懸命に回復を試みるが、やっと回復したかと思うと、また次の揺れに襲われ体力を奪われる。将にいたちごっこだった。
「『秘密ダンジョン』が崩壊したら、次元の狭間に取り残されます! 出口を見つけて脱出しないと!」
 アインが叫ぶ。確かに、早く脱出しなければ、永遠に次元の狭間を彷徨うことになる。しかし、『赤い石』が暴走したこの状況で一体なにが出来ると言うのか。
 やっと体力を繋ぎとめ、命を永らえているこの状況で、『秘密ダンジョン』が完全に崩壊する前に、手掛かりも何も無い出口を探し出して脱出することなど、とても出来るようには思えない。
 途方にくれる冒険者達の頭の中に、声が響いた。
「(私が、『秘密ダンジョン』の出口を開きます)」
「ハンナ……」
 ロンドの胸で、『真紅の魔法石』が淡く光る。
「そんなことをしたらお前はどうなる!?」
 『真紅の魔法石』は何も答えない。
 また、『秘密ダンジョン』が大きく揺れた。
「前に『河口ダンジョン’ラ’』で、力を解放した。あのときは運良く無事だった。しかし、もう一度力を解放したら、お前は……」
「(この『真紅の魔法石』が無傷で残る確率は、おそらく万にひとつ)」
 ロンドの言葉を引き取るように、頭の中に声が響く。
「(でもね、姉さん)」
 声が諭すように続ける。
「(姉さん、私はもう死んだのよ。元には戻れない)」
「ハンナ……」
「(私の肉体は先に滅んだ。今のこの私は、ただの残像。生きているわけじゃない)」
 淡く光る石をギュッと握る。
「(それでも、姉さんが望むなら、万にひとつに賭けましょう。でも、もし私がいなくなったとしても、姉さんは生きて。私の分まで)」
「ハンナ」
 ロンドの目から、とめどもなく涙が流れた。
 また、『秘密ダンジョン』が大きく揺れ、空間が大きく裂けた。
 裂け目の向こうに、書棚が並んだ研究室のような異空間がのぞいた。
「(時間が無い。姉さん、私を高く掲げて)」
 涙を流れるに任せたまま、胸の『真紅の魔法石』を取り出し、空中高くに掲げる。すると『真紅の魔法石』は、ロンドの手を離れ、宙に浮いたまま眩い赤い光を放ち始めた。
 その光を中心に、薄ぼんやりと『秘密ダンジョン』の出口が現れる。
 『真紅の魔法石』にピシリと大きな亀裂が走った。
「ハンナ!」
 ロンドの叫びを無視するかのように、『真紅の魔法石』が輝きを増す。
 もう少しで、出口が開くというところで、また『秘密ダンジョン』が揺れた。
 そして……。
 開きかけた出口が小さくなっていた。
「どういうこと!?」
 メルティが叫ぶ。
「『赤い石』だ。暴走した『赤い石』の魔力が干渉して出口を開くのを邪魔している」
「そんな……」
 RRの答えに、一瞬、言うべき言葉を失う。
「魔力が足りない。『真紅の魔法石』には『赤い石』の干渉を撥ね退けるだけの魔力が残っていない」
「じゃぁ、どうすればいいんですか!方法はあるんですか!?」
「それは……」
 アインの叫びに逡巡する。そのとき、スノウが口を開いた。
「方法はある」
 皆いっせいに振り返り、スノウを見る。
「ひとつだけ方法があるわ」
 スノウは涼しげな視線をアインに向け、RRに向け、そして全員に向けた。
「『赤い石』の干渉を撥ね退けるには、魔力が足りない。そうね、『狂乱の魔術師』」
「ああ」
 RRが頷くのを見届けて、スノウは続けた。
「ならば、足りない分の魔力を私の魔力で補います」
「そんなことできるんですか!?」
「できるわ。かつて、私のママがしたように。ただ」
 そこで言葉を区切り、ロンドの方に視線を向ける。
「許容量以上の魔力を注ぎ込まれた『真紅の魔法石』は破壊されるでしょう。確実に」
 ロンドの肩がピクリと動いた。だが、ただそれだけだった。
 また『秘密ダンジョン』が揺れ、冒険者達の体力を根こそぎ奪う。
 スノウはその場に立っていられず、座り込みながらも続けた。
「ビショップのシップ、支援ウィズのアイン、『狂乱の魔術師』の3人は、回復に徹しなさい。じゃないと、『秘密ダンジョン』の出口が開く前に皆死んでしまう」
「なら、私の魔力も使っ……」
「貴女は引っ込んでて!」
 メルティの申し出を、荒々しい声でピシャリと止める。
「リトルウィッチのメルティ。これは私の役目なの」
 スノウの迫力に、メルティはそれ以上何も言えなかった。
 アースヒールの呪文で体力を回復すると、スノウは立ち上がり、宙に浮いた『真紅の魔法石』に近づいていった。その両脇には、二頭の神獣が寄り添っていた。
 スノウは目の前まで来ると立ち止まり、そして、背中を見せたまま言った。
「赤い髪の傭兵ロンド」
 無言のまま、スノウの背中を見つめる。
「私はこれから貴女の妹を殺します。河口ダンジョン’ラ’で、貴女が父を殺してくれたように」
「スノウ……」
「父を楽にしてくれて、ありがとう」
 ロンドは何も答えることが出来ず、ただ、スノウの背中を見つめるばかりだった。
 それから、スノウは宙に浮いた『真紅の魔法石』に向かって、大きく両手を広げると叫んだ。
「『真紅の魔法石』よ、ロンドの妹よ、そして、父の残した呪われし遺品よ。我が魔力を糧とせよ!」
 次の瞬間、スノウの身体から赤い光が『真紅の魔法石』へと流れ込んだ。
 スノウの両隣に控えた神獣がおぼろな光に包まれ、形を変え大きな本へと変化する。
 また『秘密ダンジョン』が揺れた。
 しかし、『真紅の魔法石』の光は衰えず、徐々にその輝きを増していった。
「(姉さん、生きて!)」
「ハンナ!」
 眩い光の中、『真紅の魔法石』が砕け散り、同時にスノウがその場にどさりと倒れた。
 そして、光の中に、『秘密ダンジョン』の出口が口を開けていた。 

 

 

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