【リプレイ風小説 第6話 偽者達の円舞曲】

 

ACT.14 ラストダンス

 ひょうと風を切り、鋭い槍の先端がベアリークを襲う。魔人はそれを、左手のひと振りで弾き返す。残像を残し、素早く繰り出されたナイトのソードも、左右の腕についた刃でいなし、受け止める。
 メルティのウサギ達が跳びまわり、その場から一歩も動けないというのに、ベアリークは怒涛のような冒険者達の攻撃をことごとくかわした。
「下がれ!」
 RRの声に一歩下がると、メテオの爆音が立て続けに三発響いた。閃光が網膜を焼き、白い闇に変える。
 それに乗じて近づいた二頭のユニコーンが、鋭い角をベアリークの横腹に突き刺す。
「ぬぅ、シア・ルフトの娘か」
 憎々しげな台詞を吐く魔人を、スノウは冷ややかな目で見つめた。
 笛を持つ手をサッと上に向けると、神獣が血に染まった角を引き抜く。入れ替わりにドランクが、顎を蹴り上げる。
 脳を揺らされて、ベアリークの動きが止まる。
「ベアリークー!」
 頭上でぶんと一回転させて、ロンドが槍を突き刺す。硬い鎧を貫き、腹からどす黒い血が吹き出す。
 ナイトが振り下ろしたソードを、腕を十字に重ねて受け止めると、ベアリークは忌々しげに叫んだ。
「若造が!調子に乗るな!」
 すると、ベアリークの胸で何かが赤く光り、同時に地面が激しく揺れた。大地の怒りのエネルギーが流れ込み、冒険者達の全身に激痛が走る。
 シップが懸命に癒しの呪文を唱える。
「貴様、何をした!」
 ロンドが問うと、ベアリークは不敵に笑った。
「よもや『赤い石』を使うことになろうとはな。試作品だが、仕方あるまい」
 言い終わらぬうちに、また、ベアリークの胸に赤い光が走り、地面が揺れた。
 大地の怒りのエネルギーが、激痛を伴って、再び冒険者達の体力を削る。
「ケルビー……」
 アインがアースヒールの呪文で回復を試みたときは遅かった。スノウが騎乗する炎の精霊は、ダメージを受け過ぎて、元の精霊の世界へと帰って行った。
 ケルビーが消失し、その上に乗っていたスノウがドサリと背中から地面に落ちた。
 即座にアースヒールの呪文が飛ぶ。
「早く倒してください! 回復が……、間に合わない」
 シップの悲痛な叫びが響く。
 また、魔人の胸が光り、地面が揺れた。
 シップ、アイン、RRが三人がかりで癒しの呪文を飛ばす。
「早く!」
 もう一度、シップが叫ぶ。
「コルド、チルド! 攻撃!」
 起き上がり、神獣に命令を下す。
 二頭のユニコーンが白い影となって突進し、その鋭い角で魔人の身体を貫く。
 ドランクの三段蹴りが急所を捉え、魔人の動きが止まる。
 ナイトが跳ね上げたソードが、魔人の右腕を斬り落し、放物線を描いて宙に舞った。
「ベアリークー!」
 ロンドの槍が深々と魔人の胸を貫く。
 夥しい血が吹き出し、それが致命傷であることを物語る。
「やったぁ!」
 メルティが喜びの声を上げる。が、しかし、突然、魔人が笑い出した。
「クックックックッ」
 口から血を流し、ベアリークが笑う。
「ハーッハッハッハッハ!」
 ベアリークの笑いが、『秘密ダンジョン』にこだまする。
「何が可笑しい!」
 苛立たしくロンドが叫ぶ。
「私は死ぬ。だが」
 赤い血に塗れた口角を上げ、ニヤリと笑う。
「ただでは死なない」
 ひと際大きな笑い声が響き、そして、魔人の身体が弾けて消えた。
 ベアリークの身体が滅び、弾けた後、丁度胸の位置に『赤い石』が浮いていた。
 一瞬、あっけにとられる。
 多くの冒険者が、夢にまでみた至宝『赤い石』。しかし、それはこの世に災いをもたらす不吉な石でもあった。
 宙に浮く『赤い石』が光り、それに呼応して『秘密ダンジョン』全体が揺れた。
 天井が崩れ、壁にヒビが入り、床が裂ける。いや、それどころか『秘密ダンジョン』の空間が裂けた。
 裂けた空間の向こう側に、街が見えた。人通りのない、静かな、そしてどことなく不気味な街。
 その街角にひとりたたずむ男が、空間の裂け目からこちら側を覗いた。
 一瞬、男と目が合う。
 その目に人ならざる者の妖気を感じ、アインの背筋に悪寒が走った。
「ど、どういうことです!? ベアリークを倒したのに、攻撃がおさまるどころか、酷くなるなんて」
「暴走だ」
 アインの問いにRRが答える。
「あの魔人、最後に『赤い石』を暴走させた。この『秘密ダンジョン』ごと、我々を葬る気だ」
「そんな……」
 それ以上、言うべき言葉を失う。
 また、『赤い石』が光り、『秘密ダンジョン』が揺れた。 

 

 

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