【リプレイ風小説 第6話 偽者達の円舞曲】

 

ACT.12 ベアリーク護衛隊

 第四区域の出口から続く通路を道なりに右に曲がると、その先は第五区画の広間へと続いていた。
 異様な光景だった。
 縦長の広間の一番奥に数人の集団がいた。
 一番奥にひとり。その両側に2人づつ。合計5人の集団。
 それは、人ではなかった。
 異形の姿の魔人だった。
 一番奥の魔人は両の腕に刃を携え、その左右に控えた魔人は、ひとりが赤い髪、もうひとりが黄色い髪をし、その手に丸い輪に鍵爪のついた武器を持っていた。そして、手前側のニ体は死神のような大鎌を携えた魔人だった。
 八人の冒険者は、赤い髪の傭兵ロンドを先頭に、臆することなく魔人の集団へと近づいて行った。
 一番奥の魔人が冒険者達を見て笑う。
「よくぞ、ここまで来たと褒めてやらねばなるまい」
「大層な出迎えだな、ベアリーク」
 そう言ったロンドに一瞥くれ、それから、ケルビーに騎乗したスノウに視線を移す。
「久しぶりだな、シア・ルフトの娘。その姿。長じて益々母親に似てきたな」
 スノウの眉がピクリと動く。
「私の父は、誇り高きハイランダー隊長、キャプテン・ハートただひとり」
「いずれにしても、父親殺しであることに変わりはあるまい」
 鼻で笑う魔人に、射すような冷たい視線を向ける。
 今にも突撃命令を下そうとするスノウを、ロンドが制す。
「(ベアリーク、やっと会えた)」
 頭の中に声が響く。
「これはこれは、シア・ルフトの娘の次は、『真紅の魔法石』か。どこへ行ったのかと案じていたが、ここに来て再会できるとは、全く喜ばしい。尤も」
 ベアリークはにやにやと、いやな笑いを浮かべて続ける。
「もう、まがい物の石など用済みだがな」
「(どういうこと!?)」
「我々新生レッドアイは、『赤い石』を造ることに成功した。まだ、試作品ではあるがな」
 胸元の石をギュッと掴んだ手に力が入る。
「ベアリーク! 『真紅の魔法石』の封印を解け!」
「封印?」
 にやにやと笑いながら聞く。
「お前が『真紅の魔法石』に封印したのは、アタシの妹だ」
「その赤い髪。そうか、お前、あの女の身内か」
「妹の封印を解け!」
 ロンドが詰め寄ると、ベアリークは心底可笑しそうに笑い声を上げた。
「それは無理な相談だ」
「なんだと!」
「お前は、勘違いをしている」
「なに!?」
 ロンドの声が怒りに震える。
「この期に及んで、言い逃れするつもりか!」
「そうではない。お前は赤い髪の女を『真紅の魔法石』に封印したと思っているようだが、封印したのではない。それが勘違いなのだ」
「では、何をした」
「分離だ」
 一瞬、しんと静まり返る。
 その沈黙を破り、にやにやと笑いながらベアリークは続けた。
「捕えた赤い髪の女が気に入り、側に置くことにした。しかし、やはりそのままでははばかられた。ちゃんと鎖で繋がないことには、いつ寝首をかかれるかわかったものではないからな。それもまた一興だったが」
 なおも、にやにやと笑い続ける。
「『真紅の魔法石』を使ったのはちょっとした余興だった。すでに『赤い石』の完成は目の前にせまっていた。となれば『真紅の魔法石』など、惜しくはなかった」
 チラリとスノウの方を見て、にやりと笑ったのに、スノウは露骨に不快な顔をした。
「赤い髪の女の精神と肉体を『真紅の魔法石』を使って、分離した。その結果、精神だけが『真紅の魔法石』に宿った」
「で、では、妹の、ハンナの肉体は?」
 ロンドの問いに、またニヤリと笑う。
「ベアトリス!」
「はっ」
 ベアリークに呼ばれると、向かって左側の一番ベアリークに近い魔人が返事をした。
 鍵爪のついた輪を持つ異形の魔人。魔人の髪は燃えるように赤かった。
「まさか」
「側に置くことにしたと言っただろ?」
 ベアリークがまたにやにやと笑う。
「(うそッ……)」
 頭の中に悲鳴に近いつぶやきが聞こえる。
「精神の抜けた女の肉体を改造し、ここまで造り上げた。絶対服従の芸術品だ。常に側にいて私を守る護衛隊には最適だと思わないか」
「貴様、なんてことを」
 ロンドの目から、涙がひと筋こぼれた。
「ベアトリス、お前の姉上に挨拶しろ」
「お戯れを、ベアリーク様。私に親兄弟などおりません。この身は全てベアリーク様のものでございます」
 赤い髪の魔人はベアリークにかしずいた。
「(いやッ)」
 声が響く。
「そうだったな」
「この命、ベアリーク様のために」
 ベアリークが声を上げて笑う。可笑しくてたまらないという風に。
「(いやあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!)」
 頭の中に、悲鳴が響いた。

 

 

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