【リプレイ風小説 第6話 偽者達の円舞曲】

 

ACT.11 もうひとつの魔法石

  「『河口ダンジョン’ラ’』の『秘密ダンジョン』で、『真紅の魔法師』と対峙したとき、ヤツは『真紅の魔法石』を三度使った。だが、三度目はヤツの『真紅の魔法石』は効果を表さなかった。あのとき、傭兵、お前を中心に発した赤い光が『真紅の魔法石』の力を相殺したからな」
 皆、RRが次に何を言うのか注目した。
「あのときお前は、なんとかすると言った。そして言ったとおりになった。最初、『真紅の魔法石』の力を無効にするようなアイテムを使ったのかと思った。だが、考えても見ろ、あの天才ウィザード、シア・ルフトが生涯をかけて造り上げた『真紅の魔法石』の力を無効にするようなアイテムが都合よくあると思うか?」
 その問いかけに、誰も答えない。
「もし『真紅の魔法石』の力を相殺できるものがあるとしたら、それは伝説の『赤い石』か、或いは」
 鋭い視線をロンドに注ぐ。
「もうひとつの『真紅の魔法石』」
 皆が注目する中、RRはロンドに向かって聞いた。
「傭兵、持っているんだろ? その胸に、もうひとつの『真紅の魔法石』を」
 ロンドは首からさげた石を服の上からギュッと掴んだ。
「教えてくれ、どうしてお前がその『真紅の魔法石』を持っているのかを」
「それは……」
 躊躇いながらロンドが口を開いたときだった。
「(それは、私から説明する)」
 全員の頭の中に、声が響いた。
「その声。『河口ダンジョン’ラ’』の『秘密ダンジョン』で聞いた、あの声か」
「(そう、あのときの声は私)」
 RRの問いに、声が答える。
「(『狂乱の魔術師』の言うとおり、ロンドは『真紅の魔法石』を持っている)」
「お前は、何だ?」
 間髪入れずに聞く。
「(私は『真紅の魔法石』に囚われし者)」
 石を掴む手に力が入る。
「(もう随分と前のことになる。組織の命により、私は仲間とこのスウェブタワーの『秘密ダンジョン』に潜入した。この『秘密ダンジョン』とベアリークの動向を探るために。しかし、潜入した仲間は全員奴らに捕まった)」
 皆、頭の中に響く声に集中した。
「(捕まった仲間は、それは酷い目に合わされた。ひと思いに殺された者はまだ楽だった。拷問されて殺された者もいた。しかし、それより酷かったのは人体実験の材料にされた者だ。ヤツらは『赤い石』の研究と称して様々な人体実験を行った。惨たらしい実験の結果を観察するために、彼らは死ぬことすら許されなかった)」
 話を聞く皆の顔が青ざめる。
「(その中でも、私は幸運だったのかも知れない。私は奴らに捕まったとき、ベアリークの前に引き出された。私がベアリークに遭ったのは、それが2度目だった。ヤツは私のことを覚えていた。ヤツは、ベアリークは、私のことを永遠に側に置いてやると言って『真紅の魔法石』を取り出した)」
 ギュッと掴んだロンドの手が震える。
「(ヤツは私を『真紅の魔法石』に封印した)」
 暫くの沈黙の後、声はなおも続けた。
「(私が脱出できたのは、将に幸運だった。実験体だった仲間が脱出を試み、そのときに私を盗み出してくれた。仲間は追手に殺されたが、仲間の機転で私はスウェブタワーを徘徊するモンスターに巧妙に隠された。私はそのモンスターを狩った冒険者の手に渡り、いくばくかの金貨と引き換えに人から人の手へと渡った。アリアンの露店商で組織の者が見つけてくれたのが最後の幸運)」
「幸運なものか」
 ロンドがつぶやく。
「こんな石に封印されて、幸運なものか」
「(それでも、殺された者より、人体実験に処された者より幸運だった。私は組織にベアリークの動向と、この『秘密ダンジョン』の詳細を伝えることができたから)」
 誰もが言うべき言葉を失っていた。
「(組織に報告した後、私はロンドに託された、ロンドにアドバイスするために)」
「そんなんじゃない!」
 ロンドが叫んだ。
「アタシがこのコを引き取ったのは、そんなんじゃない。アタシはこの手でベアリークを追い詰める。そして、このコの封印を解いて元に戻す」
「それが、傭兵、お前のもうひとつの目的か」
 RRの問いに、コクリと頷く。
「傭兵、お前がそれ程までに執着する、その『真紅の魔法石』に囚われし者は、お前の近しい者か?」
 ロンドはうつむいたまま、胸の石をギュッと掴む。
 その手がぶるぶると震えた。
「ロンドさんの近しい人って、それって、まさか『オーガの巣窟』の『秘密ダンジョン』で会った」
 はっとして、ナイトが声を上げる。
「あの『秘密ダンジョン』もまた、ベアリークの実験場だった」
 答えるロンドの声が震える。
「この『真紅の魔法石』に封印されているのは、アタシの妹、ハンナだ」

 

 

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