【リプレイ風小説 第6話 偽者達の円舞曲】

 

ACT.9 凶運

 鋲のついた巨大な金棒をぶんと振り回す。
 それを盾で受け止める。
 強大な威力に盾を持つ手がきしむ。
「壊しがいがあるオモチャだ」
 普通よりもひと回り大きなオーガは、醜悪な顔を歪めて笑い、それから軽々と金棒を振り上げて、シップ目掛けて振り下ろした。
「しまった!」
 一撃目はなんとか盾で受け止めたものの、巨体に似合わないスピードに防御が間に合わない。金棒がまともに頭に命中し、ドゴンと物凄い音がした。
 目の前に火花が飛び、頭の中が真っ白になる。
「シップさん!」
 慌ててアインが『アースヒール』の呪文を唱えるより一瞬早く、オーガの巨大な金棒が炸裂する。
 それでも、タフネスを誇るシップなら、聖なる守りの術があれば耐え得るはずが、折り悪く、丁度術の効果が消えたところだった。
 守りの要であるビショップが、どさりとその場にくず折れる。
 その横には、最初の犠牲者である、メルティが『死』んでいた。
「次は、お前だ」
 巨大な金棒を、アインの頭目掛けて振り下ろす。
 まともに命中すれば一発で『死』に到る必殺の一撃だったが、『急所外しの指輪』が鈍く光り、頭に命中するところを肩口へとずらす。
 それでも、体力の八割方持って行かれた。
 苦痛に顔を歪めながら、テレポーテーションで距離をとると、代わりにドランクが前に出た。
 オーガが重い金棒を風のように振り回す。
 ドランクがそれをあり得ない程のけぞってかわすと、金棒は運悪くその真後ろにいたナイトに諸に命中した。
 ナイトの首が360度ぐるんと回った気がした。
「あ”」
 ドランクが声を上げる間に、ナイトがその場にくず折れる。
「ナイト!」
 ロンドが叫ぶ。
 瞬間、RRの唱えたメテオがオーガの鼻先で炸裂し、閃光が視界を奪って、光の闇に変えた。
 それに乗じて、二頭の神獣の角が、オーガの左右の脇腹に突き刺さる。
 どくどくと血を流しながらも、滅茶苦茶に振り回す金棒をかいくぐり、ドランクのかかと落しが脳天を叩き割った。
 脳震盪を起こして、オーガの動きが止まる。
 すかさず心臓目掛けて繰り出したロンドの槍が、残像を残して突き刺さった。
「グハッ」
 おびただしい量の血を吐き出し、オーガは地響きを立て大の字に倒れた。
「ナイト!」
 グイとオーガから槍を引き抜き、ナイトに駆け寄る。
「今、ビショップを『生き返』らせる」
 そう言うと、RRは鞄の中から、赤い羽を取り出した。
 燃え盛る炎のような赤い色をした羽を、床に倒れたシップの左胸に突き刺す。すると、羽は眩い光を放って燃え尽き、それと同時にシップの顔に赤みが射した。
 ゲホゲホと咳き込んで、口の中に溜まった血を吐き出し、ゆっくりと目を開ける。
「すみません、RRさん」
「こんなときのための『フェニックスの羽』だ」
 シップが言った礼に、RRはさも当然というふうに答えた。
 それから、ヒーリングポーションと回復の呪文で体力を取り戻すと、シップはビショップの究極魔法『リザレクション』を唱え、ナイトとメルティの2人を『死』の淵から呼び戻した。
「しかし、3人も『死ぬ』なんて、強力なオーガでしたね」
「間が悪いってかさ、運が悪かったんじゃね?」
「運が悪かった? それだけで済ましていいものかしら」
 アインとドランクが言い合っているところへ口を挟むと、スノウは視線をメルティに向けた。
「な、なによ、私のせいだって言うの? アレは、出会い頭の事故なんだから。そうよ、運が悪かっただけよ」
「メルティ」
 言い訳を並べ立てるメルティに、ロンドが静かに言った。
「メルティ、アタシ達は仲間だ。この『秘密ダンジョン』を攻略するために集まった仲間だ。何もアンタがひとりで魔物を倒さなくたっていいし、誰もそんなことを望んじゃいない。皆それぞれの役割があるように、アンタにはアンタの役割があるはずさ。そうだろ?」
 真っ直ぐにメルティの目を見つめて続ける。
「アンタにはアンタの役割をやって欲しい」
 もう一度言うと、メルティはようやく口を開いた。
「わかったわ。勝手なマネして、ごめんなさい」
 その台詞にこりと笑って頷く。
「この先は、最も危険な区画だ。皆も単独行動は謹んでくれ」
 全員が応と答えたのを聞き届けると、今度はスノウの方に向き直った。
「それから、スノウ」
「なぁに、赤い髪の傭兵ロンド」
「アンタは自分に厳しいが、他人にも厳し過ぎる。人はミスをするものさ。ミスはまたどこかで挽回すればいい。大事なのは、それを皆でカバーし、帳消しにして、成功に導くこと」
 スノウは黙ってそれを聞いていた。
「それが、仲間ってものじゃないか?」
「わかったわ」
 念を押すようにもう一度ロンドが言うと、ようやくスノウは答えた。
「私も大人げなかったわ。謝るわ、リトルウィッチのメルティ。ごめんなさい」
 メルティはそれを居住まいが悪そうに聞いていた。
「でもね、赤い髪の傭兵ロンド」
 スノウは視線をロンドに注いだ。
「自分に厳しいのは、私よりも、ひとりで悩んでる貴女の方じゃなくって?」
 その問いに、ロンドはただ沈黙するばかりだった。

 

 

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