【リプレイ風小説 第6話 偽者達の円舞曲】

 

ACT.8 耐性

「きゃあぁぁぁ!」
 メルティが悲鳴を上げる。
 セイグレンの魔法の炎が、小さな女の子の姿のメルティを襲う。
 一瞬早くシップが唱えた魔法防御の呪文が、光の盾となって魔法の炎を弾き返す。しかし、それも万能ではない。炎の何割かは、弾き返すことが出来ず、メルティの身体を焼いた。
 慌ててアインがアースヒールの呪文で少女の傷を癒す。
「魔法が効かないなんて、もう、信じらんない!」
 腹立ち紛れに、石ころをセイグレン目掛けて投げつける。
「(イテッ)」
「???」
 魔物の心の声が聞こえたような気がした。
 改めてよく見ると、石ころが当たったところが、赤くなってたんこぶのように腫れている。
「こいつ、魔法は効かないけど、物理的な攻撃は効くってこと?」
「えぇ、まぁ」
「それを早く言ってよ!」
 メルティはえいえいッと石ころを投げつけた。小さな女の子に石ころを投げつけられて、魔物はちょっと困っているように見えた。
「メルティさんは下がって。ここは僕に任せてください」
 そう言って、ナイトが正面から突進する。ソードを振り上げて、うおおぉと雄叫びを上げ突っ込んで来る剣士を、魔法の炎が焼いた。
「うあああぁぁぁ!!!」
 咄嗟にシップが唱えた光の盾の呪文が魔法の炎を弾き返すが、正面から突っ込んだのだからたまらない。あっという間に半分以上体力を持っていかれ、その場にガックリと膝を着いた。
 間髪入れず、2人の魔術師が『アースヒール』の呪文を唱え、奪われた体力を回復する。
「こいつ、横とか後ろは大丈夫なんですけど、正面に向かってだけ風と炎の魔法を使うんです」
「それを早く言ってください!」
 アインの遅すぎる解説に、涙声で抗議する。
「ナイト、そのまま正面で魔物を引きつけるんだ!」
「えぇッ!?」
 ロンドが飛ばした指示に、思わず声を上げる。
「そんな情けない声を出すな! ビショップと2人のウィザードの3人掛かりで回復するから」
 3人に目配せすると、うんと頷く。
「魔物を引きつけている間に、アタシ達が倒す。ナイト! アタシを信じろ!」
「あ、はい!」
 そう言われてナイトが断るはずがない。寧ろ勇気百倍だ。
「こっちだ、セイグレン! 僕が相手だ、かかって来い!」
 正面に立ち、ソードを振り上げて叫ぶ。また、魔法の炎が身を焼くが、今度は怯まず、その場に立ち留まる。瞬時に回復呪文が飛び、あっと言う間に体力が元に戻る。
「どうした? お前の魔法なんか効かないぞ! もっと来い!」
 仁王立ちで挑発すると、いきり立った魔物は、何度も繰り返し魔法の炎を放った。しかし、その度に3人掛かりで回復する。
 その隙をついて後ろに回った、ロンド、ドランク、二頭の神獣と、ついでに小さな女の子が、一斉に魔物に襲い掛かった。
 魔物は慌てて回頭し向きを変えようとするが、正面のナイトがそれを許さない。ソードを繰り出し、セイグレンの動きを封じる。
 ロンドの槍が深々と突き刺さり止めを刺すまで、それほど時間が掛からなかった。
 偽りの生を与えられたセイグレンの身体が霧散すると、また、キリキリと大掛かりな機械仕掛けが動く音が聞こえた。
 部屋の外に出てみると、通路の突き当たりになっていたところが、ぽっかりと開いた出口になっていた。
「どうかしたんですか?」
 いつの間にかリトルウィッチの姿へと戻ったメルティが、何か考え込むようにしているのを、不審に思ってナイトが尋ねた。
「あの魔物、魔法は効かないって言ってたけど、ひょっとしたら私の『ラビットラッシュ』なら効いたのかもなぁって」
「あの、相手を動けなくする、ウサギの術ですか?」
 コクリと頷く。
「『ラビットラッシュ』が効いたら、ナイトさんが囮になって、痛い思いをすることもなかったかなぁなんて」
 暫くの間、ナイトは口をぱくぱくとさせた。だとしたら、さっきの自分の苦労は一体なんだったのだろうか。
「ごめんね☆テヘッ!」
 ペロリと舌を出して、可愛く笑う。
 それを、スノウがケルビーの上から見下ろしていた。
「自分の技も使いこなせないなんて、呆れたわ」
「だって、今、気がついたんだもん、しょうがないじゃない」
 むっとして答える。
「でも、それで剣士のナイトは『死』にかけた。もし、『死』んでいたら、しょうがないで済むのかしら」
「なによ!」
 ケルビーに乗ったスノウをキッと睨む。
「これは退屈しのぎのお遊びじゃない。命を掛けた戦いなのよ」
「そんなのわかってるわよ!」
「そうかしら?」
「まあまあ、魔物も倒したし、僕もこうして無事だったんだからいいじゃないですか」
 険悪になった2人の間を取り持とうと、ナイトが割って入る。
 しかし、メルティはスノウの物言いに、どうにも腹の虫が収まらなかった。
「私だって命がけなんだから! 私が本気だってところ見せてやるわ!」
 そう啖呵を切って、開いたばかりの出口へとひとりで駆け出す。
「あ、待ってください! 支援魔法をかけなおさないと、そろそろ切れます!」
 メルティの後を、シップが慌てて追う。
 ビショップの支援魔法『ブレス』と『プロテクション・フロム・イビル』は、術を掛けられた者に祝福を与え、防御を堅牢にする。これがあるのとないのとでは、戦いでの生存率が格段に変わってくるのだ。
「アタシ達も後を追うよ!」
 メルティの悲鳴が聞こえたのは、そう言ってロンドが駆け出そうとした、将にそのときだった。

 

 

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