【リプレイ風小説 第6話 偽者達の円舞曲】

 

ACT.7 ドラゴンの心臓

 半ばヤケクソだった。
 いくら試みても、うまく『ラビットラッシュ』をかけることが出来ないのに業を煮やし、メルティはバトンを高く振り上げて叫んだ。
「メルティ〜☆パラダ〜〜〜イスッ!」
 リトルウィッチの少女がくるくると回る幻が視界いっぱいに広がる。すると、カルバタルはその素早い動きは変わらぬものの、ただ無茶苦茶に剣を振り回し始めた。
「効いてるみたい」
 小さな女の子の姿になったメルティが目を丸くする。
「魔法だ! こいつ武器は効かないが魔法なら効く。いくぞ、支援君!」
「あ、はい!」
 2人の魔術師が、交互にメテオを男に向けて落とす。『心の力』を限界まで消費し、十数発のメテオを唱えるが、しかし、メテオの閃光の中、それでも男は未だそこに立っていた。
「こいつ、なんてタフネスだ……。RRさん、ダメです。『心の力』が足りません」
 アインが泣き言を言う。
「早くしないと、混乱が解けちゃう!」
「分かってる」
 小さな女の子のメルティが叫んだのに、ひと言返すと、RRはベルトポーチから小さな塊を取り出して、アインに向かって放った。
 慌てて取り落としそうになるが、しっかりとその手に受け取る。見るとそれはウズラの卵大の、干からびた肉の塊だった。
「これは、『ドラゴンの心臓』!?」
 ある種のモンスターの内臓を適切な方法で処理し加工すると、一定時間精神をハイな状態に保つ魔法薬『ドランゴンの心臓』が完成する。一定時間といってもそれは十数秒から長くて30秒までと、極短い間ではある。しかし、その間はいくら強力な魔法や奥義を使おうと『心の力』は減らない。
 いざ強敵と相対することになったときには非常に有用なアイテムのひとつだ。
 それゆえ、冒険者には重宝され、古都ブルネンシュティングや砂漠都市アリアンの露店商に高値で並べられる。
「今、渡した『ドラゴンの心臓』は、17秒の廉価品だ。その間に決める。いくぞ!」
「はい!」
 RRが自分のベルトポーチからもうひとつ『ドラゴンの心臓』を取り出すとそれを口の中に放り込み、奥歯で噛み砕いた。
 それに習い、アインも口に放り込んで、奥歯で噛み締める。
 ガリッと硬い感触がして、口の中に鉄の味が広がる。
 途端に鼓動が倍の速さになり、気分が高揚する。
「わあああぁぁぁ!」
 普段冷静なアインが、雄叫びを上げて杖を振り上げた。
 使った『ドラゴンの心臓』の継続時間は17秒。その間、2人の魔術師が落としたメテオの数は数知れず。
「ベアリーク様!」
 メテオの爆音と閃光の中から聞こえたそれが、カルバタルの最後の言葉だった。
 やがて『ドラゴンの心臓』の効果が切れ、メテオの喧騒も消えたとき、そこには死体すら残っていなかった。

 

「ナニ?こいつら、なんて言ってるの?」
 第三の区画、もうひとつの扉の部屋。その広い部屋にいた、頭からスッポリと被る形の聖衣を纏った者達。一見、聖職者のように見える者達は、皆、同じひとつの言葉を繰り返し唱えていた。
「セイグレン」
「セイグレン」
「セイグレン」
 抑揚のない一本調子で唱える。呪文でも唱えるように。
「セイグレン」
「セイグレン」
「セイグレン」
「なんなのよ、こいつら! セイグレンってなんなのよ!? キモイ」
 メルティは、偽聖職者が気味悪くて仕方がなかった。
「ナニを言っていようと構わない。倒すだけ」
 振り上げた手を偽聖職者ども目掛けて振り下ろす。
「コルド、チルド、攻撃」
 スノウが命令を下すと、二頭の神獣はそれに従い、偽聖職者に鋭い角を突き刺す。
 その瞬間、偽聖職者の肉体だけが消え去り、ゆったりとした聖衣がその場にすとんと落ちた。
 床に落ちた聖衣も、しばらくすると、まるで砂地に水が染み込むように消え去った。
「貴女、騒ぎすぎ」
「うっさいわね!私だって、やるときはやるわよ!」
 スノウの冷ややかな物言いに、メルティが熱くなる。
「メルティ〜〜〜☆ノヴァ〜〜〜★!!!」
 バトンを高く掲げると、星のエネルギーが集まって、天上から偽聖職者目掛けて降り注いだ。同時に数体の偽聖職者の肉体が消滅し、そして床の上に残された聖衣が消え去った。
「やったぁ!」
 歓声を上げて喜ぶリトルウィッチの少女を、スノウはケルビーの上から冷ややかに見下ろす。
 同じように、ロンドの槍が、ナイトのソードが、そしてドランクの拳が命中すると、これまた同じように、偽聖職者はあっけなく消滅した。
 偽聖職者は、その数をどんどんと減らして行ったが、その間も呪文のようにつぶやくのを止めず、寧ろ、数を減らす度につぶやく声が大きくなっていった。
「セイグレン!」
「セイグレン!!」
「セイグレン!!!」
 全ての偽聖職者を倒したというのに、声は止まず、広い部屋の中に充満する。
「セイグレン!!!」
「セイグレン!!!」
「セイグレン!!!」
「いったい、なんなのよ〜!」
 あまりの不気味さに脚がすくむ。
「待て、妖気が集まってる」
 RRの言葉どおり、皆、禍々しい気が声とともに空間に充満しているのを感じた。
「そこだ!」
 『狂乱の魔術師』と呼ばれる男が、何も無い空間を指す。そこに妖気が集まり空間が歪む。歪みの中から巨大な禍々しい影が現れる。
「これが、セイグレン!?」
 実体化した影に、アインが思わずつぶやく。
「これじゃぁ、まるで……」
「こんなヤツ、私の魅力でイチコロよ! メルティ〜☆パラダ〜〜〜イスッ!!!」
 アインの言葉を遮って、メルティが得意の魔法を唱える。
 バトンを振り上げた少女がくるくると回る幻が、視界いっぱいに広がる。
 セイグレンの赤い目が、小さな女の子の姿になったメルティを、無機質に見た。
「えっと……、効いてない?」
「こいつ、『名も無い崩れた塔』の『秘密ダンジョン』にいたリッチと同じです。リッチには魔法が効きません!」
「それを早く言ってよ!」
 そして、セイグレンの魔法の炎が、小さなメルティに向かって一直線に放たれた。

 

 

<<前へ                        <戻る>                     次へ>>