【リプレイ風小説 第6話 偽者達の円舞曲】

 

ACT.5 魔力動力機

 遥か昔、800年前、天上から『赤い石』がこの地上へと堕ちたと伝えられる。
 『秘密組織レッドアイ』は、その『赤い石』を探し求めるために発足した。しかし、その実体は明らかではなく、暗部の仕事を専門に請け負う、王家直属の組織であったとも言われている。
 それもまた遠い昔の話で、長い時を経るうち、王家はその覇権を失い、国は王政から共和制へと移行し、元々秘密組織として公けではなかったレッドアイは、その存在を更に闇の中へと沈下した。
 今や、『秘密組織レッドアイ』も『赤い石』と同様、伝説の一部として語られるに過ぎなかった。
 魔法都市スマグからヘムクロス高原へと続く道を東へ進み、アラク湖を迂回した高台にそびえ立つ巨大な塔、スウェブタワーは、古くから『秘密組織レッドアイ』と深い関わりがあると噂さされていた。
 しかし、その真偽の程も定かではない。
 それよりも寧ろ、幾重にも連なるフロア毎に魔物が巣くう塔は、冒険者達の間では格好の狩場と認識されていた。
 そのスウェブタワーの地下5階から『秘密ダンジョン』へと進入した八人の冒険者。リーダーの赤い髪の傭兵ロンド、『狂乱の魔術師』の二つ名で呼ばれる魔術師RR、支援WIZのアイン、ビショップのシップ、ビーストテイマーのスノウ、酔いどれ武道家のドランク、若き剣士ナイト、そして、リトルウィッチのメルティ。
 決して、力が劣るメンバーではない。寧ろ、攻守、硬軟、力と技、剣と魔法のバランスのとれた良パーティーと言える。
 しかし、そのパーティーを以てして、なお、苦戦する程このスウェブタワーの『秘密ダンジョン』の魔物は強力だった。
 そして、今、異界から這い出した亡者の手が、ナイトの身体に爪を立て、そのたくましい身体を蝕んでいた。
 巨大な魔法装置『魔力発動機』を背に、悪魔が高らかに笑う。
「コルド、チルド、攻撃」
 スノウが二頭のユニコーンに命じる。すると、二頭はヒンといななき、異界から這い出した亡者の手を跳び越えて悪魔の目の前へと着地した。
 一瞬、悪魔の笑い声が止まる。
 目の前に迫るユニコーンに一撃喰らわそうと鞭を振り上げるが、その手は振りかぶったまま動かない。いつの間にか、悪魔の周りを数匹の白ウサギがぴょんぴょんと跳ね回っていた。
 二頭のユニコーンの角が悪魔の身体を貫く。どす黒い血が噴き出し、床に血溜りができる。すかさず、RRが唱えたメテオが炸裂し、悪魔は炎に包まれ地獄へと帰した。
 悪魔と供に亡者の手も消え、後にはあちこち掻きむしられて、ぼろぼろになったナイトが残されていた。
「大丈夫ですか? ナイトさん」
 アインがアースヒールの呪文で、傷ついたナイトの身体を丁寧に癒す。
「えぇ、なんとか。まさかあんな術を使うとは思いませんでした」
「ま、オレ達は『ハイランド洞窟』の『秘密ダンジョン』で経験済みだから、ひっかからないけどねん」
「そんなこと言っても、僕、『ハイランド洞窟』も『河口ダンジョン’ラ’』もロンドさんに呼んで貰えなかったから……」
 ナイトがちょっと肩を落として言ったのを、ドランクはにやにやしながら聞いていた。
「ひょっとして、ナイトちゃん、拗ねてるん?」
「いえ、そんな、拗ねてるとかそんなんじゃなくて。ただ、ロンドさんに頼りにされてないって思うと、残念って言うか、寂しいって言うか」
「やっぱり拗ねてるやん。ナイトちゃん、呑む?」
 そう言って、ドランクは目の前に火酒の酒瓶を差し出した。
「いただきます」
 差し出された酒瓶を受け取り、一気にグイとあおる。口の中に広がった強いアルコールの刺激にたまらず全部吐き出し、ゲホゲホと咳き込む。
「あーあ、もったいない」
「ご、ごめんなさい」
 自分の失態に、ナイトは一層落ち込んだ。
「ナイト、確かにアタシは、『ハイランド洞窟』にも、『河口ダンジョン’ラ’』にもアンタを呼ばなかった。でも、このスウェブタワーにはアンタを呼んだ。最も重要なこの『秘密ダンジョン』にね。ナイト、これで帳消しにしてくれないかい?」
「帳消しだなんて、そんな。僕、頑張ります!」
 胸を張ってそう言うと、現金なもので、全身に力がみなぎるような気がした。
「頼りにしてるよ、ナイト」
「はい!」
 元気良く返事をし、それから「そっかー、僕って頼りにされてるのかー」などとひとり言を言って、にやにやするナイトだった。
「やっぱり、できる女は男の子の扱いが違うわね。私も見習わなくっちゃ」
「そうね。貴女には十年早いけどね」
「な、なんですって!?」
 顔を真っ赤にするメルティを尻目に、スノウは涼しい顔で『魔力発動機』へと近づいて行った。
「それでどうなの? 装置は動かせそうなの? 『狂乱の魔術師』」
 尋ねると、先ほどから『魔力発動機』を調べていたRRが、「ああ」と答えた。
「これで動くはずだ」
 装置の前面にあるほんのりと赤く光る大きな水晶玉に掌を乗せる。すると、装置からブンと音がして、ほのかな赤い光が緑へと変わった。
「一号機起動! 一号機起動!」
 装置から無機質な声が流れる。
「さっき倒した悪魔が装置起動の鍵となっている。悪魔を倒した者が水晶に触れると、装置が起動する仕掛けだ」
「成る程、では、あと三体悪魔を地獄に帰せば、4つの『魔力発動機』を全て起動することができるわけですね」
 シップが念を押したのに首肯する。
「じゃぁ、話は早い。あと三体倒しましょう!」
「あ、こら! 待て!」
 ひとり勢い込んで駆け出すナイトを、ロンドは追いかけた。

 

 

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