【リプレイ風小説 第6話 偽者達の円舞曲】

 

ACT.4 悪魔の黒い笛

 アインが唱えた最終魔法『メテオシャワー』の爆音が、『秘密ダンジョン』の中に響く。閃光の中、魔物供が灼熱の炎に焼かれる。しかし、強力な魔物はその数を減らすどころか、メテオの魔力に誘われて次々と集まり、かえってその数が増えているように見えた。
「ひるむな、敵とて無限じゃない! 一体づつ確実に倒すんだ!」
 赤い髪を振り乱し、鋭い槍のひと突きを魔物に喰らわせつつ、ロンドが叫ぶ。手負いの魔物に向かって横一閃、少年剣士ナイトがブンとソードを振ると、魔物の首が飛んで床に転がった。
「んなこと言っても、こんなに数が多くちゃ、おちおち呑んでられないよん」
 ひとつシャックリをしながら武道家のドランクが不平を言う。魔人の放った鋭い剣先をあり得ないほどのけ反ってかわすと、ついでに魔物の顎を蹴り上げた。
「コルド、チルド!魔物を引きつけて!」
 召喚獣ケルビーの上から、己が使役する二頭の神獣に向かって指示を送る。ビーストテイマーのスノウが吹く物悲しい笛の調べが響く。
「シップさん!」
 見ると、ビショップのシップが大きな赤犬に噛み付かれていた。おびただしい量の血が流れている。咄嗟に『アースヒール』の呪文で癒そうと杖を振り上げたのと、魔物の剣がアインの心臓目掛けて繰り出されたのが同時だった。
 瞬間、『急所外しの指輪』が鈍く光り、魔物の剣先を心臓から数センチずらす。しかし、それも一撃目だけで、二度目の攻撃はアインの心臓を貫いた。
「しまっ……」
 思わず出た言葉は最後まで発せられることなく、がっくりと膝からくず折れる。
 今まで何度も窮地を救ってくれた『急所外しの指輪』であったが、全ての魔法のアイテムがそうであるように万全ではないのだ。
「支援君!」
 RRが慌ててアースヒールを唱えるがもう遅い。『死』んだものの体力を回復することは出来ない。
 アインを倒した魔物目掛けて、RRが唱えたメテオの爆音が響く。合計5回の閃光の後、ようやく魔物は燃え尽きた。が、しかし、メテオの魔力に吸い寄せられるように、魔物供が群れをなしてRR目掛けて集まってきた。
 杖を振り上げ、テレポーテーションで魔物の群れから距離をとる。するとまた魔物供はRRへ向かってぞろぞろと移動した。
「今のうちに支援君を『生き返』らせるんだ」
 RRの言葉に、ようやく赤犬を振り払ったシップがうんと頷くと、『死』から呼び戻すビショップの究極魔法『リザレクション』を唱えた。
 『死』んだアインの身体に光が降り注ぎ、『死』から『生』への移行が完了する。
「危ない!」
 『死』から生還したばかりで自分が未だ瀕死の状態であるのも省みず、アインが叫んだ。と同時に、RRは杖を振り上げてテレポーテーションで魔物の群れからの距離をとる。しかし、逃げ回ってばかりいても事態は好転しない。この危険な状況を一変させる何かがなければ。
 そのときだった。
「メルティ〜☆パラダ〜〜〜イスッ!」
 叫び声と供に、視界いっぱいにバトンを振り上げたリトルウィッチの少女がくるくると回る幻が踊った。目の前がチカチカとする幻が消えても、一体何が起こったのか理解に苦しむ。
 それは、魔物にとっても同じだったようで、いや、それよりも強烈だったらしく、魔物は混乱し、狂乱し、同士討ちを始めるものさえいた。
「この魔法使うと、変身が解けちゃうから、あんまり使いたくないのよね」
 ふわりと裾の広がったドレスを着た十歳ぐらいの女の子が、ちょっぴり口を尖らせて不平を言った。
「メルティさん???」
 リトルウィッチの姿しか知らなかったナイトが、目を丸くして尋ねる。それには答えず小さな女の子は、うふふと笑った。
「相変わらず成長してないわね」
 二頭の神獣を操りつつ、スノウはケルビーの上から見下すように言う。
「うっさいわね。あなただって成長してないじゃない!」
「あら、失礼ね。あれから2センチは成長したのよ」
「何よ! 2センチぐらい!」
 小さなメルティは、スノウに向かってあっかんべーをした。その様子にナイトはあっけにとられる。
「あの2人、この前の『河口ダンジョン’ラ’』でも、あんな調子だったんですよ。反りが合わないと言うか」
「そうなんですか」
 アインの解説に、そんなこともあるものかと、2人の少女を交互に見やる。
 すると、小さなメルティは右手を振り上げてくるりと一回転し、元の抜群のプロポーションのリトルウィッチへと変身した。
 自分に見蕩れるナイトに気づくと、メルティはうふふと可愛らしく笑った。
「魔物が混乱しているうちに倒してね」
 パチリとウィンクする。
「赤くなってる場合じゃないよん、ナイトちゃん」
「あ、赤くなんてなってません!」
 ドランクにちゃかされたのを慌てて否定する。チラリとロンドの方を見るが、酔っ払いの戯言など気にしている風もなかった。
 ほっと安堵する。
「ほらほら、ちゃんと働かないと、ロンドちゃんに嫌われちゃうよん」
「な、なにを、そんなこと……」
「ドランク! アンタこそ無駄口たたいてないで、働きな!」
 むきになって否定しようとしたナイトの台詞を、ロンドの言葉が遮った。
「それと、アタシをちゃん付けで呼ぶな!」
 叫び声と供に繰り出した槍の一撃が、魔物の心臓を貫いた。

 

 気の遠くなるような作業だった。
 メルティの魔法で混乱させ、危険度は格段に下がったとはいえ、しかし、この区域に溢れかえる魔物は強力で、その数はあり得ない程に多かった。それを一体一体確実に葬っていく。
「あれが、『魔力発動機』ですか」
「ああ、そうだ」
 魔物の群れを掻き分けて、広い区域の北東に位置する巨大な魔法装置の前までようやくたどり着くと、アインはロンドに確かめた。
「この区域にある4つの『魔力発動機』を起動させないと、先には進めないんでしたね」
 アインの問いに首肯する。
「その通りさ。でも、組織の者が調べてくれたが、起動方法までは分からなかった。おまけに、あんなのがいたんじゃ、ただじゃ起動させてくれそうにないね」
 ロンドの言葉どおり、魔法装置の前には鞭を携えた悪魔が一体立ちはだかっていた。
「先手必勝です!」
 言うが早いか、ナイトがソードを振り上げ悪魔目掛けて斬りかかる。
「ナイト! 迂闊に突っ込むんじゃない!」
 声を掛けて戒めるがもう遅い。ナイトのソードが悪魔を肩口から斜めに切り裂いた。
 悪魔が笑った。
 声を上げて。
 傷口からどくどくと血が流れるのも構わず、声を上げて笑った。
「(我に仇成す者よ、その報いを受けるがいい)」
 悪魔は呼子のような小さな黒い笛を取り出し、それを吹いた。
 ピーと鳴った笛の音も止まぬうちに、石造りの床が異界と繋がり、そこから痩せて骨ばった無数の亡者の手がもぞもぞと這い出した。亡者の手がナイトの身体に取り付き、掻きむしる。皮は裂け、肉を削ぎ、年若い剣士の身体を蝕んだ。
 悪魔の耳障りな甲高い笑い声が、『秘密ダンジョン』の中に響いた。

 

 

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