【リプレイ風小説 第6話 偽者達の円舞曲】

 

ACT.2 囚われし者

「お前はどこの手の者か」
 魔人の詰問に、知るもんかと答える。すると、両側から魔人の忠実なる下僕供が腕をねじ上げた。
 関節をとられ電気が走ったような激痛に襲われるが、こんな奴らにひと声だって上げるのはプライドが許さない。
 ギュッと歯を食いしばってこらえる。
「気が強い女は嫌いではない。その上美しいとくれば尚更だが、気が強いのも時と場合を選ばないと早死にすることになる」
 余裕ぶった魔人の台詞に、貴様よりは長生きするつもりだと言ってやると、魔人は心底可笑しそうに笑った。
「面白い。実に愉快な女だ。いや待て。その赤い髪……。顔をよく見せろ」
 顎を掴んで無理矢理に顔を上に向かせられる。
 じろじろと見る魔人の顔が近い。
 顔にかかる魔人の生臭い息に胸がむかむかする。
「そうか、お前あのときの女か」
 魔人はまた嬉しそうに笑う。
 腹立ち紛れに、魔人の顔にツバを吐きかけてやると、両脇の下僕供に頭を床に押さえつけられた。
「気に入った! 大いに気に入ったぞ!」
 魔人の高笑いが聞こえる。
「喜べ、お前を側に置いてやる」
 床に押さえつけられながらも顔を横にして見上げると、魔人の手に赤い色の石が握られているのが見えた。
 何をすると聞くと、魔人はニヤリと笑って答えた。
「これからお前は私の側にいるのだ。永遠に」
 分けの分からない恐怖に襲われ、やめろと絶叫する。
 魔人が不適に笑う。
 次の瞬間、赤い石から眩い赤い光が放たれ、視界が赤一色に染まった。

 

 とび起きると、ロンドは、全身が冷や水を浴びせられたように、じっとりと汗ばんでいるのを感じた。手の甲で額の汗を拭い、継いで汗で頬に張り付いた後れ毛を拭う。
 また、あの夢だ。
 夢とは思えない程のリアルな夢。
 いったいこれで何度目だろうか。十回? 二十回? いや、今まで何回見たのかなど勘定しても意味がない。問題を解決しないことには、この後も、何度も繰り返し見ることになるのだから。
「(どうしたの?)」
 頭の中に心配そうな声が響く。
「いや、なんでもない」
 袋に入れて首から提げた石をギュッと掴んで答える。いつものように。
 そして頭の中に、「(そう)」とだけ響き、その後、互いに沈黙したのもいつものことだった。
 繰り返し見る夢のことは、誰にも話していない。
 その原因は明白なのだから。
「ベアリークめ」
 憎しみを込めて魔人の名をつぶやく。
「必ず、この手で追い詰めてやる」
 あの夢を見る度に何度呪詛の言葉を吐いたかわからない。しかし、言わないことには気がすまない。
「(大丈夫。『秘密ダンジョン』攻略の準備は整っているんでしょう?)」
 声に対して、「ああ」と言って首肯する。
「準備は終わっている。現地に行って『ポータルクリスタル』も手に入れた。後は攻略するメンバーを集めるだけだ」
「(なら問題ない)」
 今度は無言で、もう一度首肯する。
「(これでようやく任務を遂行できる。長年の苦労が報われる)」
 確かにベアリークの首を獲ることは、組織から命じられた重要な任務に違いない。しかし、今のロンドには魔人を討つもうひとつの重大な理由があった。
 決して失敗することが出来ない理由が。
「(メンバーはもう決まった?)」
「『狂乱の魔術師』RRと支援WIZのアイン、ビショップのシップとは、三日後に現地で落ち合うことになっている」
「(魔法使いと守りの要のビショップを押さえたのは懸命ね)」
「ああ」
「(あとは?)」
「ビーストテイマーのスノウ」
「(スノウ? あの娘を連れて行くの?)」
 驚いたように声が響く。
「あの娘は優秀なビーストテイマーだ。それに少なからずヤツとの因縁もある。もし、あの娘の父親がヤツと出会わなければ、あんなことにはならなかった」
 そう言うと、暫くの沈黙のあと、わかったという声が頭の中に響いた。
「あとは火力でゴリ押しするつもりだ」
「(乱戦になるのは必至だものね)」
「ああ」
 もう一度胸元の石を握る。
 決戦は三日後。そして、その後はあの夢を見なくなる。いや、自らの手で見なくて済むようにしてやる。
 赤い髪の傭兵ロンドは、決意を新たにした。

 

 

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