【リプレイ風小説 第6話 偽者達の円舞曲】

 

ACT.1 風と炎


 突風に乗った炎の帯が、一直線に魔術師に向かって行く。
 シップがかけたビショップの光の盾の術が強力な魔法を弾き返すが、それも万全ではない。防ぎきれなかった何割かの熱い炎と風が魔術師の身体を焼く。
 元々肉体的な頑強さに劣る魔術師の体力が八割方持って行かれる。
 咄嗟にメテオを唱える。しかし、実体の無い不死の魔物相手には大概そうであるように、メテオの威力はその半分も発揮されず、消滅した。
 相性が悪い。
「RRさん!」
 シップが継続的に唱える『パーティーヒーリング』の呪文では回復が間に合わないと見るや、支援WIZのアインは杖を振り上げ『アースヒール』の呪文を唱えた。魔力により地脈から吸い上げた生命の力が、焼かれた魔術師の身体に瞬時に注ぎこまれる。
 『名も無い崩れた塔』の『秘密ダンジョン』に巣くう不死の魔物リッチから、次に炎の帯が放たれたとき、その先にいたはずの瀕死の魔術師の姿は、既にそこにはなかった。
「すまない」
 一瞬早く『テレポーテーション』で炎の帯の軌道から外れたRRは、短くアインに礼を返した。
「危ないところでした」
 アインも短く返し、リッチの正面に来ないよう、テレポーテーションで移動する。リッチの使う風と炎の術は、正面から直線状に伸びてくる。正面にさえ立たなければ、例え体力に不安のある魔術師であっても、致命傷になることは無い。
 RRとアインは、テレポーテーションで常にリッチの正面をさけ、横或いは後ろに回った。
「自分の術では、回復が間に合わないことがあります。アースヒールで援護をお願いします!」
「RRさん、ここは回復役に徹しましょう」
 シップとアインの今更ながらの台詞に「わかっている」と答え、正面から突っ込む戦士をアースヒールで援護する。
 いかな体力自慢の戦士とは言え、正面突破は無謀と思えたが、しかし、ビショップに加え2人の魔術師が回復役に徹するとなれば話は別だ。寧ろ、ひとりが的となることで、他の者に被害が及ぶのを防ぐとなれば、立派な作戦と言えた。
 熱い炎と風に身を焼かれながらも、上段に構えた戦士の両手持ちの大剣が、リッチを縦に両断した。

 

「どうかしたんですか?」
 リッチだらけだった『名も無い崩れた塔』の『秘密ダンジョン』を、やっとのこと攻略し、砂漠都市アリアンに戻るや、アインは聞いた。
「RRさんが、まともに攻撃を受けるなんて、珍しいじゃないですか」
「ああ」
 ひと言答えたあと、一拍おいて続ける。
「あのとき、『耳(コンタクト)』があった」
「『耳』ですか」
 ひとり言のようにシップがつぶやく。
 RRがまた、「ああ」とだけ答える。
「いったい誰からだったんです?」
「赤い髪の傭兵からだ」
「ロンドさんからですって?」
 思わず出たであろう台詞に、RRはシップとアインの顔を交互に見てから首肯した。
「スウェブタワーの『秘密ダンジョン』を攻略するための準備が整ったそうだ」
「いよいよですね」
 また2人の顔を見て、「ああ」と答える。
「自分と支援君、ビショップを召喚してきた」
「微力ながらお力になりましょう」
 シップが頷き返す。
「それで、いつどこに行けばいいんですか?」
「三日後だ。三日後にスウェブタワーに集合だ」
「スウェブタワー」
 RRの答えを鸚鵡返しに繰り返す。
「スウェブタワーまで行くには、一旦ハノブに『跳』んでからスマグを経由して行くのが一番早いですかね」
「そうですね。神聖都市アウグスタからスマグ経由で行く方法もありますが、ハノブからの方が早いと思います」
 アインの問いかけにシップが同意する。
「いずれにしても、三日後にスウェブタワーに行くのは『フライングカーペット(空飛ぶ絨毯)』を使ってギリギリだろう。強行軍になるぞ」
「構いませんよ。慣れてますから」
「いつものことですものね」
 笑顔でさらりと返す。
 『狂乱の魔術師』に付き合ううち、シップもアインも多少の無茶には慣れっこになっていた。
「結構」
 頼もしい仲間の言葉にも、それが当然とばかりに無表情で頷く。
「では、用意が出来次第、出かけよう」
「そうと決まればこうしちゃいられない。さっそく物資を補充しなくちゃ」
「ああ」
 そう相槌を打ってから、RRはさらりと付け加えた。
「ポーションをたっぷり用意してくるようにと、傭兵からの言伝だ」
「それって、今度の『秘密ダンジョン』がかなり危険ってことでしょうか?」
 不安そうに聞き返すアインに、ひと言「さてな」と答えたRRの顔は、どこか嬉しそうに見えた。

 

 

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