【リプレイ風小説 第6.0話 真紅の系譜】

 

ACT.9 ひとつの終わり


「スマグにはな、大きな噴水があるんだ」
 ふーん。
「その噴水にコインを投げ入れると、望みが叶うんだ」
 コインを?
「そうだ。パパとママも何度もコインを投げてお願いしたんだ」
 なにをおねがいしたの?
「この世界から魔物がいなくなって、平和になりますようにって」
 ふーん。
「そのために、『赤い石』の力が必要なんだ。『赤い石』を使ってこの世界から魔物を無くす。それがパパの夢なんだよ」
 わかんない。
「そうか、お前には難しかったな」
 わたしもスマグのふんすいにコインをなげたい。
「何をお願いするんだい?」
 パパと、ママと、わたしと、ずーっとさんにんでいたいって。

 

 凶暴な水棲生物が闊歩する、『河口ダンジョン’ラ’』。その地下2階は、自然洞窟ゆえに冷ややかで、河口ダンジョンゆえに生臭い空気に包まれていた。
 8人の冒険者は任務を終え、『秘密ダンジョン』から『河口ダンジョン’ラ’』へと帰還していた。
「貴女、最初からあの男のことを知っていたのね、赤い髪の傭兵ロンド」
 炎の精霊ケルビーの上から、少女はその名のように冷ややかな視線をロンドに向ける。
「あの男と・・・、ママのことを」
 いつになく消え入りそうな気弱な物言いは、年頃の少女本来のものなのかも知れない。ロンドはそれに、ただ「ああ」と答えた。
「だとしたら、酷いじゃないですか!スノウさんを連れて来るなんて、どうしてそんなマネをしたんですか!」
 アインが生来の一本気を発揮して食って掛かる。それにロンドはひとつ溜息をついて答えた。
「組織はシア・ルフトとスノウの関係を掴んでいた。しかし、あの男とスノウが繋がっていないという確証がなかった。あの危険人物の継承者でないという確証がね」
「そんな・・・」
 ロンドの返答に一瞬言葉が詰まる。
「そんなの、一緒にハイランドの『秘密ダンジョン』に行ったロンドさんなら、分かるじゃないですか!スノウさんがそんな娘じゃないって」
「ああ、アタシもそう思ったさ。仲間だからね。でも」
 またひとつ溜息をついて言葉を続ける。
「でも、組織はそれでは納得しなかった。もし、シア・ルフトを討伐しても、スノウがあの男の後継者でないという確証が無い限り、組織はこの娘を監視しただろう、一生ね」
「そんな・・・」
 アインは言うべき言葉を失った。
「アリアンの傭兵ギルドかスマグのウィザードギルドか知らねぇが、全く組織ってヤツは融通が利かねぇな」
 ドーンがフンと鼻を鳴らして言ったのを、ロンドがギロリと睨みつけた。
「だがそれも今回の作戦で終わりさ。あの男はスノウを殺そうとし、スノウはアタシ達と共にあの男を倒した。この娘が『真紅の魔法師』の継承者でないという確証だ。アタシ達全員が証人さ」
「勿論です」
 アインが、そして、スノウを除く全員がうんと頷く。
 それからロンドはスノウの方に向き直ると、再び口を開いた。
「スノウ、アンタを試すような真似をしてすまなかった。アンタの実の父親を」
「私の父は、誇り高きハイランダー隊長、キャプテン・ハートただひとり」
 スノウの言葉がロンドの言葉を遮った。
「そうだったな」
 ケルビーの上のスノウを見上げる。するとスノウの唇が微かに「ありがとう」と動いたように見えた。
「スノウ?」
 ロンドがもう一度聞こうとした台詞に、メルティの言葉が被さった。
「へえ、ちびっ子はちびっ子なりに、気を使ってるんだ。いいとこあるじゃない」
 そう言ったメルティにスノウは冷ややかな視線を向けた。
「貴女、本当は私より小さいじゃない、ちびっ子」
「な、な、なんですってー!」
 涼しい顔のスノウに、メルティの顔が怒りでみるみる赤くなる。
「わ、私は大人よ!見なさいよ、このプロポーション!」
「でも、本当の姿は二頭身なんでしょ」
「馬鹿にしないでよ!四頭身はあるわよ!」
 そこまで言って、あっと口を押さえる。
「四頭身なんだ。幼児体形もここに極まれりね」
 スノウの言葉に、メルティは青くなったり赤くなったりした。
「まぁまぁ、そんなの、どうだっていいじゃないですか」
「どうだってよくないわ!」
「そうね、割と重要な問題ね、支援ウィズのアイン」
 自分では助け舟を出したつもりだったのに、2人に責められて、アインはとんだとばっちりを受けるはめに陥った。全く世の中に理不尽の種は尽きない。
「ところで傭兵、まだ隠していることがあるんじゃないか?」
 唐突に投げかけた質問に、ロンドが一瞬ギクリとしたのをRRは見逃さなかった。畳みかけるように言葉を続ける。
「あのときの声、頭の中に響いた声はなんだ?それに『真紅の魔法石』の力を相殺した、あの赤い光」
 RRの質問にロンドは躊躇いがちに口を開いた。
「それについては、今は言えない」
「ならば質問を変えよう」
 ロンドの表情を確かめて続ける。
「『真紅の魔法師』は倒した。だが、ウィザードギルドを追放された一介の魔術師が『真紅の魔法石』を造り上げる程の設備と資金を調達できるとは思えない」
「『狂乱の魔術師』の二ツ名は、伊達じゃないね。抜け目のないやつだよ」
 ロンドはまたひとつ溜息をついた。
「お察しの通り、シア・ルフトの研究に出資したヤツがいた。それもとびきりの危険人物が」
 その場にいる者たちが全て凍てついたように、しんと静まり返った。
「組織は長年その危険人物を追っていた。ヤツの行方を追い、ヤツの配下や協力者を探し出し、抹殺した。今回、『真紅の魔法師』シア・ルフトを倒したことで、外堀は埋まった。後は本丸さ。今度こそヤツを追い詰めて、息の根を止めてやる」
 ロンドの手に自然と力が入り、その拳がギュッと握られた。
「その危険人物とやらは、どこにいるんです?」
 アインが聞くと、赤い髪の傭兵はアインを見て、RRを見て、それから全員を見回してから、ようやく口を開いた。
「スウェブタワーの『秘密ダンジョン』さ」

  

 

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