【リプレイ風小説 第6.0話 真紅の系譜】

 

ACT.8 真紅の魔法石


 ママ、どうしてないているの?
「大切なお友達にもう会えないからよ」
 おともだちって、しろいおうまさん?
「そうよ。コルドとチルドはご本になってしまったの」
 ふーん。
「このご本は今日からあなたの物よ。ママはもうコルドとチルドには会えないけれど、あなたが大きくなったらきっと会えるわ」
 どうしてママはあえないの?
「ママはね、実験をしたの。大事な大事な実験よ。そのときママはお友達にさよならしたの。それでママは会えなくなってしまったの」
 じっけんなんか、しなければよかったのに。
「大事な大事な実験だったの。だからママがやらなくてはならなかったの」
 だって、ママが、おともだちにあえなくなっちゃうなんて・・・。
「泣かないで。ママは自分から望んで実験をしたのよ。だから。ね」
 だって・・・。

「ノース!成功だ!」
「あなた」
「全く君はよくやってくれたよ。君の魔力はたいしたもんだ。これで飛躍的に研究が進んだよ」
「よかった。お仕事順調に進んでいるのね」
「ああ、順調だ。『真紅の魔法石』の完成ももうすぐだ」
「『真紅の魔法石』って、『赤い石』を造るんじゃなかったの?」
「『真紅の魔法石』はスゴイぞ!神の創り給うた『赤い石』など目でもない。それを僕が造るんだ。つまり神を超えるんだ」
「神を・・・超える?」
「そうだ。僕は神を超えるんだ。喜んでくれ、ノース!もう直ぐ僕は神を超えるぞ!ノース」

 

「・・・ノース」
 二頭の神獣ユニコーンの鋭い角が、シア・ルフトの身体に深々と突き刺さった。
 どくどくと赤い血が流れる。
「ノース、僕のノース。僕を殺すというのか」
「黙れ!気安くママの名を呼ぶな!」
 スノウの青い瞳がひと際青く燃えていた。
「おちびさん・・・」
 あのハイランドでも見ることのなかったスノウの激しい怒りに、メルティをはじめ冒険者達は皆たじろいだ。
「『狂乱の魔術師』!支援ウィズのアイン!この男を焼き尽くして!」
 息を飲んで動けなかったアインが我に返り、一瞬スノウの方を見て、それからロンドの顔を伺う。
「早く!」
 ロンドがうんと頷いたのを見届けてから、アインは究極魔法『メテオシャワー』を唱えた。
 燃え盛る隕石が召喚され、空気を切り裂く落下音がしたかと思うと、爆音とともに凄まじい熱と爆風が巻き起こり『秘密ダンジョン』を震わせる。
 RRとアインはありったけの『心の力』を費やし、合計十発のメテオをシア・ルフト目掛けて落とした。
 燃え盛る炎の中、かつて天才と言われた魔術師が、その優秀な頭脳と共に燃え尽きていく。
「ノース・・・」
 ケルビーに騎乗したスノウに向けられた、シア・ルフトの消え入るような声が聞こえた。
「『真紅の魔法師』なんて大層な名前の割りに、たいしたことねぇな」
 ドーンがフンと鼻を鳴らす。
「いや、まだだ!」
 ロンドが叫んだのと同時に、炎の中でシア・ルフトの右手が懐から何かを取り出すのが見えた。
「いけない、『真紅の魔法石』だ!シップ、結界を!魔法が来る!」
 もう一度ロンドが叫んだ。その言葉が終わらないうちにシップが魔法防御の呪文を唱える。
 瞬間、シア・ルフトの右手の石が膨れ上がり、膨大な魔法のエネルギーが真紅の光とともに発散した。
 目の前が真っ赤な光に包まれ何も見えなくなる。
 魔法を防ぐ鏡の盾の呪文が真紅の光を弾き返したもののそれも完全とは言えず、防ぎきれなかった何割かのエネルギーに身が焼かれる。
 『真紅の魔法石』からほとばしった魔法のエネルギーがおさまり、再び視界が戻ったとき、痩身のシア・ルフトの姿はそこにはなく、身の丈三メートルはあろうかという真っ赤なローブを纏った巨大な魔人の姿があった。
「ノース、我は神を超えたのだ。『真紅の魔法石』によって」
 シア・ルフトの大音声が響いた。
「『真紅の魔法師』は、神を超えたのだ!ハハハハハ!」
 狂気を帯びた笑い声が『秘密ダンジョン』を震わせる。
「愚かな。人が神を超えるられるはずなどないと言うのに。妄想に憑かれて人外に身を落とすとは」
 シップが眉をひそめた。
「狂ってる」
 スノウが今や魔物と化したシア・ルフトを忌む。
「戯言に耳を貸すな!トミー、スノウ、行くよ!後の者は援護を頼む!」
 度肝を抜かれ動きが止まっていた全員がロンドの指示で一斉に動き出した。
 両手持ちの大剣を上段に構えたトミーが、ジャンプ一閃、高々と舞い上がり、真紅の魔人目掛けて振り下ろす。それを燃え盛る魔法の矢で迎撃する。
 鏡の盾がそのエネルギーの何割かを弾き返すが、盾を突き破った魔法の矢が身体を貫き、肉を焼く。
 それを、RRとアインがアースヒールの呪文で丁寧に癒す。
「コルド、チルド、攻撃!」
 スノウの声が響き、それに物悲しい短調の笛の音が続く。
 ドーンの放つ水の魔法がしぶきを上げて炸裂し、メルティのウサギ達が魔人をその場にしばりつけた。
 そこへロンドの槍が、トミーの大剣が、神獣の角が突き刺さった。
 大量の血が魔人の身体から流れ出る。
 しかし、またもや狂気の笑いが響いた。
「ハハハハハ!いくらお前達が刃を向けようと、神を超えた我を倒すことは出来ない。この『真紅の魔法石』ある限り!」
 続いて、かつて天才魔術師シア・ルフトと呼ばれた魔人を中心に、またも真紅の光が膨張し、辺りを真紅の闇へと変える。
 放射する魔力に耐え、視界が元に戻ったとき、こちらはかなりの体力を持っていかれたと言うのに、逆に魔人の傷はすっかり元通りになっていた。
「お前達が何をしようと無駄なのだ!ハハハハハ!」
 いっそう高らかな狂気の笑い声が空気を震わせる。
 シップの唱えた癒しの呪文が、全員の体力をじわじわと回復させる。身体の傷は呪文で癒えても、しかし、状況は一向に好転しない。
「これじゃぁ、キリがないじゃないですか!ロンドさん、どうするんです」
「わかっている!」
 アインの問いに恫喝するように答える。
「(シア・ルフトは自分の娘もわからないくらい狂っているようね)」
「ああ」
 服の下に隠した石をギュッと掴む。
「ヤツは、皆殺しにするつもりだ」
「(大人しくやられるつもり?)」
「いや、そんなつもりは勿論ない」
「(そう。ならば力を貸すわ)」
「ナニ?」
 驚いて、もう一度石をギュッと掴む。
「(目には目を、歯には歯を。そして、石には石を)」
「しかし、そんなことをしたら・・・」
「(そう、私は消えてしまうかも知れない。でも、それは確率の問題)」
 無言で唇を噛むロンドになおも声は続けた。
「(大丈夫、運はいい方だから。敵に捕まっても何度も生還したじゃない)」
「しかし・・・」
「(それにあの娘を、仲間を『真紅の魔法師』を倒すための切り札にせずにすんだことは、幸運じゃない?)」
「それはそうだが」
「(今は他に方法がない。迷っていても勝機は得られない)」
 そこまで言われて、ロンドは首を縦に振らざるを得なかった。
「みんな!もう一度、魔人を、『真紅の魔法師』を攻撃するんだ!」
「しかし、あの『真紅の魔法石』は、どうするんですか!?」
「それは、なんとかする!」
 アインが詰め寄るのを一喝し、有無を言わせない。ロンドは愛用の槍を頭の上でぐるぐると回して、もう一度叫んだ。
「トミー!スノウ!行くよ!」
 ロンドの素早い動きが残像を残して四方から魔物を突き刺した。
 力任せに振り下ろしたトミーの大剣が赤いローブを切り裂き、肉を切り骨を絶つ。
 神獣の角が突き刺さり、血しぶきが上がる。
「無駄だ。我を殺すことは適わぬ!」
 また、真紅の光が膨張し始めたときだった。
 ロンドを中心に、全く同じ真紅の光が発せられた。
 魔人の光とロンドの光はお互いにぶつかり、せめぎ合い、干渉し、そして、魔人の傷を癒すことなく消滅した。
 ロンドはもう一度頭上でぐるぐると槍を振り回し構え直した。
 一瞬、スノウの顔を見る。
 スノウがコクリと小さく頷いたのを見届けて、鋭い槍の切っ先を魔人の胸に突き刺した。
 おびただしい量の血が噴き出し、それが致命傷であったことを告げる。
「貴様達は、傭兵ギルドとウィザードギルドの者だったはず」
 口に溜まった血と一緒に吐き出された魔人の台詞に、どうやら捕えた傭兵達の頭の中を見たのだろうとの推測が、当たっていたらしい。
「貴様、まさか、ベアリークの手の者か」
「その逆さ」
 最後の質問に答えると、ロンドは槍を引き抜いた。

  

 

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