【リプレイ風小説 第6.0話 真紅の系譜】

 

ACT.7 神獣と娘


「酷いわ、酷いわ!ロンドさんったら、私のことわからないなんて!」
 少女はその場に座り込んでしくしくと泣いた。
「ロンドさんが分からなかったのも無理ないですよ。自分だって目の前でメルティさんが変身するのを見てなかったら、分からなかったですよ」
 アインが慌ててとりなすものの、少女はなおもしくしくと泣き続けた。
 それをケルビーの上から見下ろして、スノウが冷ややかに言った。
「ウソ泣き」
 そのひと言にピタリと泣き止み、小さなメルティはまたスノウに向かってあっかんべーをする。
 それから右手を振り上げてくるりと一回転すると、最初のスラリとした美しいプロポーションのリトルウィッチへと変身していた。
「やっぱりこっちの方が動きやすいわ」
 うふふと笑ったメルティをスノウが冷ややかに一瞥する。
「今の貴女と、さっきの小さな貴女。どちらが本当の貴女なのかしら?」
「うるさいわね!どっちだっていいでしょ!」
 そう言って、あっかんべーをしてから、はっと我に返る。さっきまでの小さな女の子の姿ならば、あっかんべーも様になるだろうが、年頃の女の子がする仕草ではない。
 メルティは自分の痴態に頬を赤らめた。
 ロンドと合流した一行は、別れ道まで取って返すと、更に先へと進んでいった。
 途中、何度か敵と遭遇したものの、難なくこれを退けた。
 そして一行は、『秘密ダンジョン』の最深部と思しきところまでやってきた。
 そこは、周りをぐるりと深い崖に囲まれ、海に浮かぶ島のようなところだった。
 崖は深く、広く、そこへと行くには、崖に沿った細い道を反対側まで行ったところから延びる一本道を行くしか方法がなかった。
 崖に囲まれた浮島に何かの儀式で使われる祭壇のようなものが見える。
 そして、そこにひとりたたずむ人影が見えた。
「あれが真紅の魔法師か」
 ロンドがつぶやいた。
 人影はひと目でウィザードと分かる格好をしていた。
「ちょっくら挨拶してやる」
 言うが早いかドーンが真紅の魔法師に向けて、水の最終魔法『ウォーターキャノン』を放ったが、深い崖から吹き上げる風の力が結界となって、水の魔法を四散させた。
 真紅の魔法師はこちら側を向いているものの瞑想でもしているのか、まるで気がつかない風だった。
 ドーンはフンと鼻を鳴らした。
「どうあっても、向こう側に回って、一本道を行かなきゃご対面とならないみたいだな」
 またフンと鼻を鳴らす。
「相手は天才魔術師シア・ルフト、真紅の魔法師だ。皆、気を引き締めて」
 ロンドの言葉に、皆うんと頷く。
 それから一行は、崖に沿った道を反対側まで行って浮島へと続く一本道を進んだ。
「シア・ルフトだな」
 背中からロンドが声を掛けた。
「その名で呼ばれるのも久しく無かった」
 感慨深そうに背中越しに答える。
「我をその名で呼ぶ者は誰か?」
 その質問には答えず、ロンドはきっぱりと言い放った。
「お前を殺しに来た」
「そうか。我を、この『真紅の魔法師』を倒そうと言う愚か者か」
 嘲笑するように言うと、シア・ルフトはゆっくりと振り返った。
 痩せて頬がこけ青白い顔に、目だけがらんらんと輝いていた。鬼気迫るその顔に一瞬ゾクリと背筋に寒気が走るのを感じる。
 男の目が、二頭のユニコーンを見て一瞬止まり、それから神獣の後ろに控えたケルビーを駆る少女に釘付けになった。
「ノース・・・」
 男は喉の奥から声を搾り出すように言った。
「おお、ノース、戻ってきてくれたのか。僕のノース」
「ナニ?この男は何を言っているの?」
 普段冷静なスノウが明らかに動揺していた。
「元気そうで何よりだ、ノース。コルドもチルドも昔のままだ。君は力が戻ったんだね?」
「なぜコルドとチルドの名を・・・」
「何を言っているんだ、僕が付けた名だ、忘れるものか。『北』を表す君に相応しい名前を僕が付けたんだ」
 スノウの動揺など委細構わず、男は言葉を続けた。
「ノース、君が居なくなってからというもの、僕は努力したんだよ。それこそ寝る間を惜しんで研究に没頭したんだ。『真紅の魔法石』さえ完成すれば君が帰って来てくれると」
「どうして?どうしてこの男はママのことを知っているの?」
 ふと、苦々しげなロンドの顔が視界に入った。
「貴女、何か知っているの?この男は誰なの?」
 しかし、スノウの問いかけに、赤い髪の傭兵は目を逸らすばかりで、口を開こうとしない。
「答えて!赤い髪の傭兵ロンド!」
 ロンドは口の中がからからに渇いているのを感じた。何か言わなければ、しかし、いったいなんと言えばいいのか?
 言葉が見つからず逡巡していると、全員の頭の中に声が響いた。
「(スノウ、貴女の母ノースは、その男、シア・ルフトの妻だった)」
「止めろ!」
 ロンドは首から下げて服の下に隠した石をギュッと掴んで叫んだ。しかし、声は止まらなかった。
「(シア・ルフトは、血を分けた貴女の実の父親)」
「ウソッ!」
 スノウが叫んだ。
「私の父は、誇り高きハイランダーの隊長、キャプテン・ハートだけ!こんな男じゃない!」
 絶叫して笛を持った右手を振り上げ、それをシア・ルフトの方に向かって振り下ろす。
「コルド!チルド!あの男を、真紅の魔法師を攻撃!」
 二頭の神獣はヒンといななき、自分達の名付け親に向かって突撃した。

  

 

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