【リプレイ風小説 第6.0話 真紅の系譜】

 

ACT.6 ゲートキーパー


「キャーッ!なにこれ!?やだやだ、キモイ!」
 叫びながらメルティはバトンを振って白いウサギを躍らせる。
 ぴょんぴょんと円を描いて跳び回る数匹のウサギの真ん中に、ぬらぬらとした軟体動物を思わせる肌の八本足の怪物
キャストアイが、両手でナイフをジャグリングしていた。
「近づいて来ないでーッ!気持ち悪い!」
 リトルウィッチの魔法『ラビットラッシュ』は、跳ね回るウサギ達の輪の中にいる者をその場から動けなくする。それゆえ、
キャストアイが近づいてくるはずはないのだがメルティはきゃぁきゃぁ泣き叫んだ。
「はやく倒してーッ!」
 その声にちょっとうるさそうに片方の眉根をあげると、スノウは炎の精霊ケルビーの上から己が使役する二頭のユニコーンに向かって命じた。
「コルド、チルド、攻撃」
 主人の命を受けた美しき二頭の神獣は、白き影となって醜悪なる敵に向かって疾駆する。元よりラビットラッシュで動けなくなっていた
キャストアイは、コルドとチルドの攻撃を避けることも出来ず、あっけなくその角の餌食となった。
 それを見届けると、メルティはへなへなとその場にへたり込んだ。
「えと・・・、あ、ありがとう。倒してくれて・・・」
 恐る恐るといった風で礼を言う。すると、スノウはケルビーに騎乗したままの高い位置からメルティを見下ろした。
「貴女、騒ぎすぎ」

 

 ただひとり、ロンドを除く七人の冒険者は手はずどおり派手に暴れ周り、敵の注目を集めて『秘密ダンジョン』を奥へ奥へと進んでいった。
 それまで、ただ一本道を進んできたが、七人は始めての分れ道にぶつかった。
「これって、どっちに行ったらいいんでしょう?」
 勿論、アインの質問に答えることなど誰も出来なかった。
「恐らく、どちらかの道が傭兵達を捕えた牢獄に通じ、もう片方が真紅の魔法師の元へと通じる道だろう」
 RRの言葉に首肯する。
「真紅の魔法師に遭いまみれる前に、ロンドと合流したいわね」
 しばしの間思案すると、スノウはまた口を開いた。
「ここで赤い髪の傭兵ロンドが来るのを待ちましょう」
「ここでですか?一刻も早く合流した方がよくないですか?」
「私もひとりで行動している赤い髪の傭兵ロンドに早く合流したいとは思います。でも、リーダーの彼女無しで真紅の魔法師と相対するわけにもいきません。ふたつの道のうち、どちらに行けば彼女に会えるかわからない以上、ここを動くわけにはいかないのよ、支援ウィズのアイン」
「だったら、偵察にでも行けばいいじゃねぇか」
 ドーンがフンと鼻を鳴らして口を挟んだ。
「なんなら、俺が行ってやってもいいぜ」
 ニヤリと笑ったドーンを刺すような冷たい視線で一瞥する。
「偵察は敵に見つからないのが第一。貴方にそれが出来るのかしら」
 冷たい視線を向けたままスノウは続けた。
「それに、もし貴方が偵察に行った方が真紅の魔法師がいる道だったら、貴方は戻って来ないでしょう。私は仲間を誰も死なせたくないのよ、氷の魔術師ドーン」
 ドーンはまた忌々しそうにフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「だったら、私が偵察に行くわ。私だったら敵に見つからずに行ってこれるもの」
「そんなことが出来るんですか?」
 アインは目を丸くしてメルティに聞いた。
「まかせといて」
 うふふと笑って答えると、メルティはバトンを高く振り上げた。
「メルティ〜☆パラダ〜〜〜イスッ!!!」
 眩い光に包まれ空中に浮かんでくるくると回るメルティのまぼろしが、視界いっぱいに広がった。眩しさに一瞬目がくらむ。そして、次に視界を取り戻したときには、そこにメルティの姿は無く、代わりに小さな女の子がいた。
 年のころは十歳ぐらいだろうか。ふわりと裾の広がったドレスを着た女の子は、スラリと手足の長い美しいプロポーションのメルティとは、似ても似つかない姿だった。が、しかし、その可愛らしい顔はメルティをそのまま幼くしたようにそっくりだった。
「ひょっとして、メルティさん???」
 アインの質問には答えず、少女はうふふと可愛らしく笑った。
「それが貴女の本当の姿?私より小さいのね」
「うるさーい!黙って見てなさい」
 スノウにあっかんべーをしてから、メルティはギュッと唇を噛み締めた。ぼん!と煙につつまれてドレス姿の少女は消え、今度は代わりに小さな白ウサギがそこにいた。
 スノウの左の眉がちょっとだけ驚いたようにピクリと動いた。
「この姿なら敵に見つからずに偵察ができるわ。私だって役に立つんだから!」
 それだけ言って白いウサギは文字通り脱兎ごとく走って行った。

 

 硬い鎧に槍が弾かれたのを忌々しく思いながら、一旦引いて距離をとる。頭の上で槍を二度、三度、ぐるぐると回す。焦るな、もうあとひと息だと自分に言い聞かせる。
 囚われていた五人の傭兵達は既に解放した。この中身ががらんどうの鎧の化け物を倒せば、その後ろに見える鉄の扉を開けて、別行動をとっている仲間達と合流できるはずだ。
 ロンドはひとつ深呼吸をした。
 落ち着いて目の前の敵に精神を集中する。
 次の瞬間、目にも止まらぬ速さで、鎧の化け物を四方八方から攻撃する。あまりの速さに残像が分身したように見えた。
 再びロンドがその動きを止め、槍の底でドンと地面を叩くと、その瞬間、ガラガラと音を立てて鎧の化け物はくずおれ、そして消え失せた。
 頬に張り付いたほつれ毛を右手の甲で汗と一緒に拭う。
 それから、つかつかと鎧の化け物が消えたところへと歩み寄ると、キラリと光る鍵を拾い上げた。
 これでようやく仲間達と合流できる。そう思って一瞬ほっとする。が、しかし、首を振ってそれを否定する。
 いや、まだだ。仲間達がどこにいるのかわからない。ほっとするのは合流してからだ。そう自分を戒める。
 ロンドは鍵を鉄の扉の鍵穴に差し込んでクルリと回した。
 カチリと施錠が外れる音がした。
 重い扉を力を込めてゆっくりと開くと、扉の向こうに見慣れた仲間達の顔があった。
「ほらね、私の言ったとおりでしょ?この扉、鍵がかかってるし、絶対怪しいと思ったのよ」
 ドレスを着た小さな女の子が得意げに言った。
「アタシを待っていてくれたのか?」
「リーダーの貴女を置いて、先に進む訳には行かないわ、赤い髪の傭兵ロンド」
 いつもの冷たい調子でスノウが答えた。
 感慨深げにロンドは再会を果たした仲間の顔をひとりひとり眺め、その無事を確かめた。
 ケルビーに乗ったスノウとその配下の二頭のユニコーン、寡黙な戦士トミー、ビショップのシップ、氷の魔術師ドーン、支援のアイン、『狂乱の魔術師』RR、そして・・・。そして、ドレス姿の小さな女の子???
「君は誰だ?」
 ロンドは己が疑問を率直に口にした。

 

 

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