【リプレイ風小説 第6.0話 真紅の系譜】

 

ACT.5 解放


 「敵が来たら、戦士のトミーはドラゴンツイスターを、氷の魔術師ドーンはウォーターキャノン、支援ウィズのアインと『狂乱の魔術師』はメテオを撃ち込んで。出来るだけ派手にお願い。私はチルドとコルドで取りこぼしを片付けます。ビショップのシップは回復をお願い」
 スノウがそれぞれのメンバーに指示を飛ばすと、皆うんと頷いた。ひとり、リトルウィッチの少女を除いて。
「私は?今、名前が出て来なかったけど、私は何をすればいいの?」
 メルティが小首をかしげるのを、スノウが冷ややかな目で眺めた。
「貴女は、邪魔にならないようにそのへんにいて」

 

 ロンドの槍が風を切りひょうと鳴って敵を襲う。それを防ごうとした盾をかいくぐり、本来ならば敵の心臓を貫くはずだった。しかし、その鋭い切先は、骸骨戦士のあばらの骨の間をすり抜け、虚しく空を切った。
「チッ」
 思わず舌打ちをする。
 血肉を持たない骸骨戦士には、突き刺す攻撃が主体の槍は、どうにも相性が悪い。
「ならば、こうだ」
 ロンドは長い槍を頭上で振り回し、骸骨戦士を横殴りにした。
 槍の先で殴られた頭蓋骨が乾いた音を立てて砕け散る。
 頭を失った骸骨戦士はそのままニ、三歩よろけ、ガシャリと音を立ててその場にくず折れた。
「手こずらせやがって」
 山となった骸骨戦士の残骸に一瞥くれて毒づくと、それから、鍵を取り出して骸骨戦士が守っていた独房に近づく。
 入り口の鍵穴を確かめて、鍵を差し込む。
 カチリと音がして扉が開いた。
「まずは、ひとり」
 ロンドは乱れて頬についたほつれ毛を直し、確かめるようにつぶやいた。

 

「なによ、あのちびっ子。失礼しちゃうわ!」
「まあまあ、スノウさんも悪気があるわけじゃないんですから。機嫌を直してくださいよ」
 悪気はなくても悪意はあるみたい、と言おうと思って止めにする。
 アインが自分のことを気遣ってなだめてくれているのがわかるから。
 ならば、怒りにまかせて不満を並べ立てるのは大人気ないというものだ。
 理屈は分かっている。分かってはいるが、それでも腹の虫がおさまらなかった。メルティはその怒りを前方に見える一体の人型水棲生物に向かってぶつけた。
「メルティ〜☆ノヴァーーーッ!!!」
 バトンを持った手を真上に上げ、星のエネルギーを召喚する。天上から眩い光のシャワーが人型の水棲生物に降り注ぐ。
「ぐわわわゎゎゎ!」
「やった!」
 水棲生物が発する咆哮を断末魔の叫びと思い歓声を上げる。しかし、すぐにそれが間違いであったことを知る。
 一体と思った人型の水棲生物の背後から、まるで分身したかのように一体、また一体と新たな人型水棲生物が現れ、あれよと言う間に二十体にも増殖したのだ。
「な、なんなのよ!いったい」
 驚愕するメルティを尻目に、炎の精霊ケルビーに乗ったスノウが右手を高々と上げた。
「撃てッ!」
 掛け声とと共に、右手を前方へと振り下ろすと、真っ赤に焼けた隕石が降り注ぎ、圧縮された空気中の水蒸気が塊となって発射され、切り裂かれた空間から這い出した水竜が眩い光を撒き散らして暴れまわった。
 二十体の水棲生物は、究極魔法の集中砲火を浴び、今度こそ本当に断末魔の叫びを上げた。
「コルド、チルド、残った魔物を掃討」
 今度は自分が使役する二体のユニコーンに突撃命令を下す。
 二体の神獣はひと声ヒンと鳴くと、辛うじて未だ立っている残りの人型水棲生物に、止めを刺すべく疾駆していった。
 ユニコーンの鋭い角が最後の水棲生物を屠るのを見届けると、スノウはもう一度冷ややかな視線をメルティに向けた。
「な、なによ!」
 視線にムッとしてメルティが声を上げると、スノウは冷ややかな視線のまま「別に」とひと言つぶやいた。

 

「ロンドさん、すみません」
「ナニ、お互いさまさ」
 ロンドは五つめ、最後の牢に囚われていた傭兵に言った。
 傭兵は見た目にも酷く憔悴していた。囚われてどのような過酷な責め苦を受けたかが伺い知れる。
「しゃべりませんでしたよ。ヤツに関する傭兵ギルドの情報は。ひとことも」
「ああ、わかってる」
 助け出した五人の傭兵が五人とも同じような台詞を言ったのに違和感を感じる。
「(おかしい。作為的なものを感じる)」
 頭の中に響いた声を黙って聞く。
「(あの、天才魔術師シア・ルフトなら、しゃべらなくても頭の中の情報を引き出し、それを隠すために暗示をかけるぐらいのこと、やってのけるかも知れない。例えばあの『真紅の魔法石』を使って)」
 真っ先に思い浮かんだのは、あの娘のことだった。
 もし、真紅の魔法師があの娘のことを知ったのだとしたら。ヤツがどのような行動に出るのか全く見当がつかなかったが、しかし、よくないことが起きる予感がした。
「チクショウ」
 思わず漏れた呪詛の言葉に、憔悴しきった傭兵の顔が歪んだ。
「すみません。自分達が不甲斐ないばかりに」
「いや、そうではない。こっちの話だ。君達はよくやってくれた」
 慌てて取り繕う。
 確かに真紅の魔法師があの娘のことを知った可能性はゼロではない。しかし、そうだとしても、それに対してあれこれ策を練る暇はない。作戦はもう始まっているのだ。
 ロンドは傭兵を安心させるように、努めて笑顔を作った。
「今、アタシの仲間が敵を引き付けている。真紅の魔法師はアタシ達にまかせて、今のうちに脱出するんだ」
「すみません」
 もう一度謝って目を伏せ、それから思い切って目を上げると傭兵はためらい勝ちに口を開いた。
「ヤツは、真紅の魔法師は、最早人間ではありません。魔道に堕ちたヤツは既に人外の化け物です。気をつけてください」
 それにただ「ああ」と答え、それからニコリと笑って更に付け加える。
「忠告ありがとう。だが、大丈夫だ。アタシには飛び切りの仲間がついているから」
 ロンドは、今も陽動のため派手に暴れまわっているであろう、頼もしい仲間のことを思った。
 『秘密ダンジョン』のどこかで炸裂するメテオの爆音が遠くに聞こえた。

 

 

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