【リプレイ風小説 第6.0話 真紅の系譜】

 

ACT.4 陽動作戦


  魔法都市スマグから『空飛ぶ絨毯』を飛ばして3日、ドレム河のほとりには天然に出来た洞窟が点在している。まるで迷路のように入り組んだ洞窟を人は河口ダンジョンと呼んだ。ご多分に漏れず、河口ダンジョンは様々なモンスターの棲み処だった。
 そのうちのひとつ、『河口ダンジョン’ラ’』と呼ばれる大洞窟は、ドレム河の西側に位置していた。
 獰猛な水棲モンスターが闊歩する大洞窟の地下2階、その何も無い壁に向かってロンドは卵大の輝くクリスタルを掲げた。
 一瞬、クリスタルが眩く輝いたかと思うと、何もなかったはずの壁が赤く光り、その中へとロンドは吸い込まれていった。
 ロンドの後を追って、スノウが召喚獣ケルビーに乗ったまま飛び込み、氷の魔術師ドーン、リトルウィッチの少女メルティ、巨漢の戦士トミー、『狂乱の魔術師』RR、支援WIZのアイン、そして最後にビショップのシップと続く。
 目の前が真っ赤になったあと暗転し、上も下も前も後ろもわからないいつもの感覚が襲う。その不安定な感覚に胃がひっくり返り、軽い吐き気とめまいを覚える。
 いつもの『秘密酔い』を感じながら、アインは『真紅の魔法師』のことを考えた。
 百年にひとりと言われた天才ウィザード、シア・ルフト。それ程の男が、何故ウィザードギルドから追放されてまで、己が手で『赤い石』を造ることに固執したのか。
 確かに『赤い石』の伝説は魅力的だ。『赤い石』に魅せられたあまり、滅びの道を歩んだ者も数え切れない。
 しかし、百年にひとりのウィザードならば、少し考えればそれが無謀にして不毛であることが分かりそうなものだが。
 そこまで考えたとき、ふとサイのことを思い出した。
 あの変わり者のメテオWIZも、また、常識では考えられない道へと行ってしまった。
 古文書を読むために『秘密ダンジョン』に残る。
 その決断は常軌を逸していた。
 だが、結局はその熱意に負けて自分はそれを黙認した。
 サイとシア・ルフト。2人のウィザードにいかほどの差があるだろう。いや、実のところ、それを許した自分とも、それ程の差はないのではなかろうか。
 やがて、目に光が戻り、足が地面に着く感覚を取り戻したとき、アインは立っていられない程のめまいを感じ、その場にしゃがみ込んだ。
「大丈夫?アインさん」
「大丈夫です、メルティさん。いつもの『秘密酔い』ですから」
 心配顔のメルティに答えると、アインは2、3度頭を振って立ち上がった。
「『秘密ダンジョン』に入るときに考え事なんてするもんじゃないですね」
 心配かけまいと、笑顔を作る。
 多少足元がふらつくものの許容範囲であることを確認し辺りを見回す。
 『秘密ダンジョン』の中は空気が淀んでいることを除けば、先ほどまでいた『河口ダンジョン’ラ’』と見た目はほとんど変わらなかった。
 出現した場所から右手に巨大な岩があるのが見える。
「えと、ロンドさんは?」
「赤髪の傭兵ロンドなら、あそこでこの『秘密ダンジョン』に先に潜入した傭兵ギルドの傭兵と話してるわ、支援ウィズのアイン」
 スノウの言うように、ロンドは少し離れたところで傭兵とおぼしき女となにやら話している最中だった。
 やがて話が終わると、ロンドは皆のところへと戻ってきた。
「作戦を伝える。皆には敵の正面から突っ込んでもらう。その間にアタシが抜け道から入って、囚われている傭兵ギルドの仲間を助ける。全員助け出したら、皆と合流し、最深部に潜む『真紅の魔法師』を倒す」
「単純だな」
 ロンドの説明に、RRは率直に感想を述べる。
「単純だが、効果的だ」
「ああ。皆には敵の注意を集めてもらうよう、せいぜい派手に暴れてもらうよ」
「そいつは願ったりだな」
 ドーンがフンと鼻を鳴らす。
「アタシが皆と合流するまでの間、そっちの指揮をスノウに取って貰う」
「ちょっと、なんでこんなちびっ子の指揮に従わなきゃならないのよ」
 メルティが不満の声を上げる。
「指揮を取るには素養が必要。媚びることしか知らない女には無理でしょうけど」
「なんですって!?」
「それに私は『おちびさん』でも『ちびっ子』でもない。ビーストテイマーのスノウ」
 メルティとスノウの間に見えない火花が散った。
「いや、えと、あのうメルティさん。この前のハイランド洞窟のときの経験から言って、確かにスノウさんは適任だと思います。皆さんもそう思いますよね」
「俺は暴れられれば、なんだっていいぜ」
 ドーンがフンと鼻を鳴らしながら答え、残るトミー、シップ、RRの3人はアインの言葉にうんと頷いた。
「皆がいいというなら、それに従うわ」
 渋々といった風ではあるが、メルティが同意したのにアインはほっと胸を撫で下ろした。
「決まりだね。頼んだよスノウ、みんな」
「わかったわ、赤髪の傭兵ロンド」
 スノウをはじめとした皆が頷いたのを見届けると、アインが口を開いた。
「それじゃぁ支援をかけます。単独行動をとるロンドさんには特に念入りにね。ね、シップさん」
「そうですね」
 シップがにっこりと笑って答える。
「ああ、頼む、アイン、シップ」
 2人は皆に順番に支援魔法をかけていき、そして最後に飛び切り丁寧にロンドに支援魔法をかけた。
 風の素早さが、炎の力が、聖なる守りが身体中にみなぎるのを感じる。
 そこで、ロンドはもう一度口を開いた。
「それじゃ、ここで暫くお別れだ。右側の岩に触れれば『秘密ダンジョン』の本道にワープする。皆気をつけて」
 言われたように右側の岩に手を触れると、まるで岩に吸い込まれたかのように引っ張られ、気づくと岩の反対側へと出ていた。
 ロンドを除く全員が岩の反対側へとワープしたのを見届けると、頭の中に声がした。
「(あの娘に指揮を取らせて大丈夫?)」
「アインが言ったとおり、ハイランド洞窟でのあの娘のリーダーは見事だった。だから頼んだまでさ」
 首から下げて服の下に隠した石をギュッと掴んで答える。
「(しかし、ここはハイランドではない。あのときとは違う)」
「あの娘が裏切るとでも?」
 ロンドが冷笑する。
「(可能性はゼロじゃない。私達はあの娘の全てを知っているわけではないのだから。あの娘が『真紅の魔法師』側の人間でないという保障はない)」
「アタシは信じるさ。あの娘を」
 ロンドは皆が去った巨大な岩を見つめた。
「仲間だからね」
 口元に笑みが浮かんだ。それは確信に満ちた笑みだった。

 

 

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