【リプレイ風小説 第6.0話 真紅の系譜】

 

ACT.3 密命


 「遅くなってごめんなさい。このダンジョンに来るの初めてなものだから」
 リトルウィッチの少女はそう言ってペコリと頭を下げた。
「大丈夫ですよ。自分達もさっき着いたばかりですから」
「優しいのね」
 アインがお決まりの社交辞令を言うと、少女はうふふと可愛らしく笑った。
「リトルウィッチのメルティです。えっと・・・」
 メルティが唇に人差し指を当てて先を続けられないのを見て取って、やっと初対面の自己紹介がまだなのに気づく。
「自分は、支援WIZのアインです」
 そう名乗ると、リトルウィッチの少女はにっこりと微笑んだ。
「よろしくね、アインさん」
 愛らしい少女にそんな台詞を言われるとどぎまぎする。
「いえいえ、ホントみんなさっき来たばかりで、待ってなんか全然」
「私は随分と待ったわ、支援ウィズのアイン」
 召喚獣・ケルビーに乗ったスノウのひと言でその場が凍りつく。
「スノウさん、そんなあからさまに言わなくても」
「あら、だって本当のことだもの」
 スノウは全く悪びれることなくいつもの冷たい調子で言う。
「随分と待たせたみたいでゴメンなさい。でもね」
 一旦深く頭を下げてメルティは先を続けた。
「私はアインさんの心遣いにお礼を言ったのよ。おちびさんには分からないのかも知れないけれど」
「そう?私にはただ媚びてる風にしか見えなかったわ」
 冷たい風がひゅうと吹いていった。
「それに私はスノウ。貴女みたいな媚び女に『おちびさん』なんて言われたくないわ」
 『媚び女』と言った台詞がリフレインする。戦いとはまた違った緊張感が辺りに漂った。
 メルティとスノウの間で、アインはただおろおろとするばかりだった。
 それゆえ、今回のリーダーである赤い髪の傭兵ロンドが話し始めたとき、アインは心底ほっとした。
「さて、はるばるこの『河口ダンジョン’ラ’』まで皆に集まってもらったわけだけれど、ここの『秘密ダンジョン』の任務はちょっと特殊でね」
「今まで特殊じゃなかった『秘密ダンジョン』なんてあったかよ」
 氷の魔術師ドーンがフンと鼻を鳴らして言った。
「まあまあ、そんなに慌てなくてもいいじゃありませんか。ロンドさんのお話を聞きましょう。全ては神のお導きですよ。ねえトミーさん」
 ビショップのシップに不意に同意を求められ、巨漢の戦士トミーはゆっくりと頷いた。
 ドーンがまた気に入らないといったようにフンと鼻を鳴らす。
 それをロンドは一瞥し先を続けた。
「今回の目的は2つ。ひとつはこの『秘密ダンジョン』に潜入し、捕えられた傭兵ギルドの傭兵達を救出すること」
「傭兵達?」
 RRが鸚鵡返しで聞いたのに、ロンドはああと答えた。
「傭兵達ってことは、ひとりじゃないのか?」
「恥ずかしい話だが傭兵ギルドも人材不足でね。傭兵ギルドの中でも精鋭を先兵隊として送り込んだんだが、逆に捕まっちまった。正直言って、あんた達冒険者の方が傭兵ギルドの隊長クラスよりも腕利きなのが現状さ」
 ひとつため息をついてロンドは続けた。
「捕まった傭兵は5人。こいつらを救出することが目的のひとつ。そしてもうひとつ」
 全員が沈黙してロンドの次の言葉に注目する。
「そしてもうひとつ。『真紅の魔法師』を倒すこと」
「『真紅の魔法師』ですか」
「知っているんですか?アインさん」
 アインがつぶやいたのに、シップが聞いた。
「十年にひとり、いや百年にひとりとも言われた天才ウィザードです。スマグのウィザードギルドでは伝説の人物ですよ。詳しくは知りませんが、十年以上前に異端の研究にのめりこんで、ウィザードギルドを追放されたとか。『真紅の魔法師』というのは追放された後につけられた通り名で、本名は確かシア・ルフトだったかな」
「そうだ」
 ロンドがこくりと頷く。
「アインの言うとおり、天才ウィザード、シア・ルフトを倒すこと。それこそが今回の『秘密ダンジョン』の真の目的だ」
「でも、ウィザードギルドならまだしも、いったいどうして傭兵ギルドが『真紅の魔法師』を討つことになったんです?」
「いや、この件に関しては、ウィザードギルドにも協力を得ている」
「魔法都市スマグのウィザードギルドと砂漠都市アリアンの傭兵ギルド。2つの大組織が手を組んでるってのは、尋常じゃねえな」
 ドーンがフンと鼻を鳴らした。
「ああ。尋常じゃない。それほど事態は切迫している」
「『赤い石』か?」
 そこまで黙って聞いていたRRが口を開いた。皆の注目が一斉に集まる。
「2つの大組織が動くほど切迫した事態となると『赤い石』が絡んでいる以外になにがある」
「ご明察だ」
 ロンドがそう答えると、皆しんと静まり返った。
 遥か昔、天上界から盗まれ、地上に堕ちたという伝説の『赤い石』
 それを手にした者は幸福になり、しかし、それを追い求める者は不幸になる。
 冒険者ならば必ず一度はその噂を耳にし、多くの冒険者がその伝説に魅せられ、そして消えて行った。
 呪われた『赤い石』は冒険者の間では伝説であり、また禁忌でもあった。
「天才ウィザード、シア・ルフトもまた『赤い石』に魅せられたひとりだ。しかし、ヤツは他の者とは違っていた」
「と言うと?」
 先を促すアインに一瞥くれて続ける。
「シア・ルフトは『赤い石』を自らの手で造ることに没頭した。それゆえヤツはスマグから追放され、『真紅の魔法師』と呼ばれるようになった」
「なんと愚かな!神が創り賜うた『赤い石』を、たかが人間の、たかがウィザードが造ろうとは!」
 シップは両の手をしっかりと組み合わせて神に祈った。
「勿論そうだ。『赤い石』を人間が造ることなど出来ない。過去何人かの人間がそれに挑み、その生涯を無為に捧げた。しかし、不幸なことに『真紅の魔法師』シア・ルフトは天才だった」
「まさか、『赤い石』を造るのに成功したんですか?」
 ぎょっとしてアインが聞く。
「いや、そうじゃない」
 ロンドは首を横に振った。
「そうではないが、ヤツはひとつの石を造り出した。強力な魔力の結晶体『真紅の魔法石』。シア・ルフトが造り出した『真紅の魔法石』は、実体の無い伝説の『赤い石』よりも、ある意味危険だ。『真紅の魔法師』を討とうとすれば、恐らくヤツは『真紅の魔法石』を使うだろう」
 そこまで聞いて、ドーンはフンと鼻を鳴らした。
「伝説の天才ウィザード『真紅の魔法師』に『真紅の魔法石』か。おもしろい」
 ニヤリと笑ったドーンの顔は心底嬉しそうだった。

 

 

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