【リプレイ風小説 第6.0話 真紅の系譜】

 

ACT.1 終わりと始まり


  遥か北、大陸の極北に位置するハイランドの地。その北側に横たわるハイランド洞窟は常にひんやりとした空気に包まれている。
 その冷たい空気をビーストテイマーの少女が奏でる鎮魂の笛が震わせる。
 物悲しい笛の調べは、悪魔に取り憑かれた父を自らの手で葬った少女の心そのものを映し出していた。
「(間違いない)」
 赤い髪の傭兵ロンドの頭の中に声が響いた。
「(あの娘が、十三年前、女が連れていた娘に間違いない)」
 ロンドはその声に何も答えず、ただ、黙って少女の笛の音を聞いていた。
「(そして、あの男の娘に)」
「まだ、そうと決まったわけじゃない」
 首から下げ、服の下に隠した石をギュッと掴んで反論する。
「ただの状況証拠に過ぎない」
「(でも、今までに掴んだ情報と一致する)」
 また口を噤む。
「(十三年前、女はハノブからカルスト洞窟へと向かった。女はビーストテイマーだった)」
 ロンドは黙って頭の中に響く声を聞いた。
「(ハイランダーがこの地で狼に襲われた母娘を見つけた時期と符合する。そして、娘は母の形見の本を持っていた。それがあの神獣ユニコーン。つまり母親はビーストテイマーだった)」
「確かに」
 そこまで聞いて再び口を開く。
「確かに、女の足取りとビーストテイマーであることは、あの娘の母親と一致する。だからと言って、あの娘があの男の娘だと断定するのは、短絡的過ぎないか?」
「(そう思う?)」
 投げた問いが質問で返される。
「(組織は随分と時間と人手をかけて十三年前の女の足取りを追った。そしてようやくたどり着いたのがあの娘。もし違っていたとしても、それをきちんと確かめないことには今までの苦労が報われない)」
「それはそうだが、じゃぁどうやって確かめる」
「(そうね・・・)」
 声はしばしの間思案しているようだった。
「(あの娘をあの男に会わせるというのはどう?)」
「なに?」
 思わず聞き返す。
「(そう、それがいい。あの娘をあの男に会わせれば、本当のことがわかるに違いない)」
「しかし、アタシ達はたった今、強力な『秘密ダンジョン』を攻略したばかりだ」
「(大丈夫。あの男がおおよそどこに潜んでいるのかは掴んだけれど、まだ調査が必要なはず。討伐隊を組むのにはもう少し時間がかかる)」
「あの娘を討伐隊のメンバー加えろと?」
「(そう)」
 ロンドは何か考え込むようにしばらく沈黙した。
「(それに)」
 沈黙を破る声がロンドの頭の中で響いた。
「(それに、もしあの娘があの男の娘だとしたら、あの娘が切り札になるかも知れない)」
「馬鹿な!あの娘をあの男を倒すための道具になど出来ない!」
「(それは可能性の問題。そうなるとは限らない)」
 声は続けた。
「(組織はこれ以上あの男を放置することを許さない。あの男が造る、まがい物の赤い石『真紅の魔法石』は危険過ぎる。今度こそあの男を追い詰めてとどめをささなくては。それには手段など選んではいられない)」
「確かに」
 ロンドは言葉を選ぶようにして続けた。
「確かに、手段など選んではいられない。それ程事態が切迫していることはわかっている。しかし」
 ぎゅっと握った拳に力が入る。
「わかってはいるが、やりきれない」
「(あの娘が仲間だから?)」
「ああ」
「(そう)」
 ロンドはまた暫く沈黙した。
 物悲しい笛の音だけが冷たい空気を震わせる。
 そしてまたロンドは重い口を開いた。
「あの娘があの男と無関係ならば問題ない。しかし、もしあの男の娘だとしたら」
「(だとしたら?)」
 声が先を促す。
「もしあの娘があの男の娘だとしたら、あの娘はもう一度父親を殺すことになる」
 ロンドは少女をじっとみつめた。
 ビーストテイマーの少女が奏でる鎮魂の笛。
 それは、これから始まるもうひとつの戦いの前奏曲でもあった。

 

 

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