【リプレイ風小説 第5話 鍵消失】

 

ACT.13 帰還


 目を開けると、そこは洞窟の中だった。
 まだ頭の中に靄がかかったようにぼうっとする。それを振り払おうと二度三度と頭を振る。いったいどうして自分がここにいるのか。必死に記憶をたぐる。
「やはり、ここに戻ってきたか、コソドロ」
 声のした方を見る。暗がりの中に見知った顔のウィザードがひとり立っているのが見えた。
「ああ、メテオのアニキ。オイラどうしてこんなところに」
「お前は『秘密ダンジョン』の中で『黒落ち』したんだ」
「『秘密ダンジョン』?『黒落ち』?」
 キーワードを頼りに、記憶を検索する。
 薄暗い牢獄、オーガども、鍵のかかった扉、トラップ。
 断片的に思い出した場面がようやく一本に繋がった。
「そっか、オイラ、トラップのかかった扉の前でめまいがして、気を失ったんだ」
「そのとき、お前は『黒落ち』した」
 RRが静かに言った。
「『黒落ち』したお前が戻ってくるとしたら、我々が崩壊する『秘密ダンジョン』から帰還したときに出現した『オーガの巣窟』のこの場所に違いないと踏んで、待っていた」
「いったい、あれからどのくらい経ったの?」
「3日だ」
 スニークは息を飲んだ。
「3日って、なんでまたアニキそんなにまでして、わざわざオイラのことを待っててくれたのさ?」
「これを渡すためだ」
 そう言ってRRはズッシリと重い皮袋を放ってよこした。
「傭兵ギルドからの報奨金だ」
「え?だってオイラ最後までいなかったのに」
「いや」
 RRは首を横に振った。
「お前がいなかったら、あそこまで進めなかった。当然受け取る権利がある」
「でも」
「それにお前は金が要るんだろ?ルインドライバーを買うためのな」
 スニークはズッシリと金貨の詰まった皮袋を握り締めて、うんと頷いた。
「わかったよ、アニキ。この金はありがたく受け取っておくよ」
 薄暗がりの中、RRが小さく頷くのが見えた。
「アニキには、でっかい借りが出来ちゃったなぁ。この借りは返すからさ、オイラの力が必要なときには、いつでも声かけてよ」
「そうさせてもらう」
「ところでさ、オイラが『黒落ち』した後、どうなったの?」
 RRは、ナイトが身を挺してトラップを発動させたこと、無事にハンナを救出したこと、解毒剤を探し出して2人の傭兵を正気に戻したことを話して聞かせた。
「そんでそんで?アニキ達はどうやって『秘密ダンジョン』を脱出したのさ?」
「ああ、考えれば答えにはたどり着くものさ」

 

 重苦しい空気が流れていた。
 オフィサークを倒し、ハンナを救出し、2人の傭兵をも正気に戻した。当初の目的以上の成果を上げていた。
 後は『秘密ダンジョン』を脱出し、元の世界へと帰還するだけだ。
 しかし、その方法がわからない。
 ひょっとして、永遠にこの異空間に閉じ込められ、時空の狭間を彷徨いつづけるのではないか?そんな不安が脳裏をよぎる。
「ここにじっとしていても始まらない。行きましょう」
 重苦しさに耐え切れず、ナイトが口を開いた。
「どこへ行くんだい?」
「もう一度探索しにです。まだどこか見落としがあるのかも知れない」
 ロンドの問いに藁をもつかむ気持ちで答える。
「無駄だ」
「え?」
「無駄だと言っている」
「でも」
 RRに言い切られたのに、不満の声を上げる。
「リトルの魔法で我々にも『シーフの目』と同じように見えていた。それでくまなく探索したんだ。トラップも隠し扉も全て見つけた」
「それでも、ひょっとしたらどこかに扉が」
「いや、見落としはない。あるとすれば、それは我々の考え方にだ」
「RRの言うとおりだよ、ナイト」
 ロンドがRRの言葉を引き取る。
「それに、もし、探索している間にトラップが復活したら、身動きできなくなる。今、アタシ達には頼みの綱のシーフがいないんだからね」
「でも」
「それともまた自らトラップを発動させるかい?」
「うっ・・・」
 言葉に詰まったナイトを見つめてロンドは続けた。
「アタシは二度とアンタにあんなマネをさせたくない」
 ナイトは所在無さげにじっと床を見つめた。
「ここは、あのウィザードに任せるさ」
 ロンドはぶつぶつとひとり言を言って考えこんでいるRRを顎で差した。
「ヒントは全て出ているはず。見えているのに見えていないだけ」
 RRはひとり言を繰り返す。
「そうだ、扉は全て見つけた。隠し扉も含めて全て」
 何度も同じ言葉を繰り返し考えをまとめる。
「そうか、ヒントは全て出ていたんだ!」
 不意に思い当たって叫ぶ。
「何かわかったんですか?」
 ナイトの問いかけに、RRは「ああ」と答えた。その場にいた全員が色めきたった。
「行くぞ」
「行くってどこへ」
「出口へだ」
 皆は、RRに従ってその後をぞろぞろとついて行った。
 RRは熊が入っていた檻の中へと入り、押し開いたままになっていた『終末への扉』をくぐって、オフィサークがいた広間へと皆を導いた。
 全員が広間に入ったのを見届けると、RRは話し始めた。
「我々は、隠し扉も含めて全ての扉を見つけた。その中でプレートが掲げてあった扉が3つ」
「『天国への扉』『地獄への扉』それから『終末への扉』ですね」
「ああ」
 ナイトの答えに首肯する。
「『天国への扉』と『地獄への扉』の向こうには何があったか」
「オーガ達が待ち構えていました」
「そう、つまり扉の向こうには死が待っているという、奴らの謎かけだ」
「じゃぁ『終末への扉』は?」
「それだ」
 RRは全員の顔を見回した。
「では『終末』とは何か?」
「『この世の終わり』のことだろ?『最後の審判』が下される」
 そう答えたロンドの横で、ビショップのシップが眉をひそめた。
「最初、自分もそう思っていた。神を気取った奴らが、天国へ行くか、地獄へ落ちるか決めてやるという意味だと。しかし、それだけではなかった」
 RRは扉をパタンと閉めた。
 扉のこちら側にも『終末への扉』と書かれたプレートが掲げられていた。
「『終末』とは、『最後の審判』が下される『この世の終わり』と、もうひとつ」
 ノブを回し、扉を押し開く。
「『秘密ダンジョン』の終わりだ」
 暗がりの中、開いた扉の向こう側に、赤く光る『秘密ダンジョン』の出口が出現していた。
 瞬間、明々と燃えるかがり火がゆらいで暗くなり、それと同時に地鳴りがした。地面がゆれ、壁のあちこちに亀裂が走ってぼろぼろと崩れだす。
 そして、『秘密ダンジョン』の崩壊が始まった。

 

「そんなのオイラだったら、いくら考えてもわかんないよ」
 スニークはお手上げというふうに文字通り両手を上げた。
「そうかな?抜け目のないお前なら、いつかは気がつくんじゃないか?」
「アニキ、買いかぶり過ぎだよ。オイラは勘がいいだけだって」
「そういうことにしておくか」
 薄暗がりの中で目を伏せたRRの口元が笑っているように緩んで見えた。
「そんでさ、メテオのアニキはこれからどうするの?また別の『秘密ダンジョン』にでも行く?」
「そうだな」
 何か考え事をするように、RRは宙を見つめた。
「今回の探索行はいろいろと考えさせられるところがあったからな」
「考えさせられることって?」
「ウィザードの限界と可能性」
 スニークは、ふーんと言って両手を頭の後ろに回して聞いていた。
「剣士が身を挺してトラップを発動させたとき自分はただそれを見ていただけだった」
「でもさ、それって役割分担なんじゃない?オイラは鍵を開け、坊っちゃんは剣で戦い、アニキは魔法で援護するって」
「ああ。しかし、それがウィザードとしてのひとつの限界だ。では、可能性は?」
 ひと呼吸おいて、RRは続けた。
「では、ウィザードの可能性はどこまであるのか?何ができるのか?そいつを試してみるつもりだ」
「ウィザードの可能性ね」
 鸚鵡返しに繰り返して、RRの顔をじっと見る。
「ひょとして、また、あっと言うような、変なこと考えてるんじゃないの?メテオのアニキ」
 スニークが聞いた。
 その質問に、RRはひと言「さてな」と答えただけだった。

 

 

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