【リプレイ風小説 第5話 鍵消失】

 

ACT.11 決断


 リトルウィッチの魔法で得た『シーフの目』の能力で扉は赤く光って見えた。それはトラップが仕掛けられ、施錠されている印だ。
 その扉の前の焦げたように黒い跡を、ナイト、ロンド、メルティ、RRは見つめた。
「『黒落ち』って?」
 ナイトが鸚鵡返しに聞き返す。
「存在が希薄な地に起きる現象だ。地面に焼け焦げたような黒い跡だけを残し『黒落ち』した者の存在が消えてしまう。その者がどこに行ったのか誰も分からない。生きているのか、死んでいるのか」
「そんな・・・」
 ナイトが拳を握り締め、メルティが驚いた表情で口に手を当てた。
「だが、しばらくした後『黒落ち』した者が帰って来たという話しも聞く」
「じゃぁ、このまま待っていれば、コソドロさんも帰ってくるかも」
「いや」
 RRは首を横に振った。
「帰って来るとしても、それがいつだか分からない。一分後か、一時間後か、或いは一日後か。それよりもっとかも知れない」
「そんなには待てない。あの子は、ハンナは弱っている」
 ロンドはスニークが『黒落ち』した跡を見つめて言った。そして、あることを思い出してハッとした。
「そう言えば、ハンナが言っていた。この空間は安定していないと」
「やはりな」
「どういうことです?」
 ナイトが聞き返す。
「明かりがときどきゆらめいていた。空気の流れのないはずの『秘密ダンジョン』の中でな。この『秘密ダンジョン』の存在が希薄な証拠だ」
「じゃあ、どうして教えてくれなかったんですか!」
 ナイトがRRにくってかかった。
「無理を言うな。『黒落ち』の可能性を教えたところで、取るべき対策はない。皆を悪戯に不安にさせるだけだ」
 そう言われてナイトは黙ってしまった。
「それに、誰もが『黒落ち』するわけじゃない。特に感覚が鋭い者、シーフのように第六感が働く者が『黒落ち』しやすいと言われるが、唯の通説だ。信憑性はない」
 皆うつむいて、黙ってRRの話を聞いていた。
「今、思うと、コソドロには予兆があった。あいつのシーフの技は一流だ。自らトラップの解除に失敗したところを今までに見たことが無い。それが、今日に限って失敗した。コソドロには『黒落ち』する素養と予兆があった。それだけだ。誰のせいでもない」
 うつむいたまま、ナイトはわかりましたとつぶやいた。
「じゃぁ、これからどうすればいいんですか?この扉の向こうに、ハンナさんが待っているって言うのに。シーフなしでどうしたらいいんです」
 皆、一様に口をつぐんだ。重苦しい沈黙が4人の間に流れた。
「ひとつだけ」
 その沈黙を破ったのはRRだった。
「ひとつだけ方法がある」
「なんです?」
「トラップを発動させる」
 皆驚いてRRを見た。
「体力に自信のある者が扉に触れてトラップを発動させる。鍵はその後で叩き壊す」
「ちょっと待ってください。そのトラップを発動させた人はどうなるんですか」
 ナイトの顔を見つめて、RRが口を開いた。
「耐えるしかない」
「無茶だ!」
 ナイトは首を横に振った。
「そんな無茶なことは出来ない」
「待ちな」
 ロンドがナイトの言葉を遮る。
「その役、アタシがやるよ」
「ロンドさん!」
 驚いてロンドの顔を見る。
「あの子は、ハンナはアタシの妹だからアタシが助ける。それに傭兵暮らしで体力には自信があるしね」
 そう言ってロンドは笑って見せた。
「そうと決まったらアンタ達は下がってな。とばっちり受けてケガしちゃ、洒落にならないからね」
 ロンドは扉の前に仁王立ちになって呼吸を整えた。
「ほら、3人とも下がって」
 そう言ったロンドの肩をナイトが掴んだ。
「ナイト、下がってなって・・・」
 振り向いたところを、ナイトの拳がミゾオチに入って一瞬息が止まった。ロンドの身体がくの字に曲がったところをすかさず担ぎ上げて、後ろに放り投げる。ロンドは硬い床に背中をしたたか打ち付けた。
「ナイト、なにするんだい!」
「僕がトラップを発動させます」
「その役はアタシがやるって言ったろ!」
「僕、カッコよくてキレイなロンドさんが、ズタボロになるところ見たくないんです」
「バカ!こんなときに何言ってるんだい」
 ロンドの顔に朱がさした。
「それに」
 ナイトは皆の方を見てニッコリと笑った。
「それに、僕がリーダーですから」
 そして、ナイトは扉に触れた。
 瞬時に『コア』がそれを感知し、トラップが発動した。
 爆発に吹き飛ばされ、反対側の壁に激突して跳ね返り、ナイトは前のめりに床に倒れた。
「ナイト!」
 もうもうと立ち込める爆煙の中、ロンドは駆け寄ってナイトを抱き起こした。平手で頬を2、3度叩く。しかし、ナイトは目を開けなかった。
 急いで左の胸に耳を当てて心音を聞くと、弱々しいが確かにトクトクと脈打っているのが聞こえた。
 ロンドはベルトポーチから赤い『ヒーリングポーション』が入った小瓶を取り出して中身を口に含み、それからナイトの口に自分の口を押し当てた。赤い液体を口移しでナイトの口に流し込む。ナイトの喉が動いてゴクリと飲み込んだ。
「ナイト!」
 もう一度名前を呼ぶと、ナイトがうっすらと目を開けた。
「なんとか・・・、耐えたみたいです」
「無茶しやがって」
 ナイトはフッと笑って言った。
「リーダーですから」

 

 

<<前へ                        <戻る>                     次へ>>