【リプレイ風小説 第5話 鍵消失】

 

ACT.10 ゆらぎ


「なんでお宝を探しに行ったのに、代わりに敵なんか見つけてくるんですか!」
 兵士の刀を盾で受け流して、ナイトが叫んだ。
「ホント、世話がやけるシーフさんね」
 もうひとりの兵士の周りにウサギを遊ばせて、メルティがうふふと笑った。
「オイラだって知らないよ。お宝どころかなんもないのに、なんで兵士なんかいたのかわかんないよ」
「余計な仕事を増やさないで下さい」
 ナイトが右手のソードで斬りつけようとしたときだった。
「待てッ!」
「え!?」
 声に反応して、すんでのところでソードの軌道を変える。切先が兵士の目の前をかすめた。
「そいつらは敵じゃない。傭兵だ」
「なんですって?」
 もう一度兵士の刀を盾で受け止めて、ナイトはロンドの方を振り向いた。
「傭兵って?」
「その2人はハンナと一緒にここに潜入した傭兵ギルドの傭兵だ」
「じゃ、なんだって攻撃してくるんですか」
 激しく打ち据えられる刀をことごとく盾で防ぎながら聞き返す。
「こいつら、様子が変だよ。目が正気じゃない」
 スニークの言うとおりだった。良く見ると、目は血走り、口元から泡を吹いている。
「これって、魔法で操られてるとかですか!?」
「いや、おそらく薬だ」
 RRがナイトに答えた。
「兎に角、傷つけないで」
「そんなこと言っても・・・」
 そんなことを言ってもいつまでも防ぎきれるものではない。一瞬の油断が致命傷となり得る。それほど狂気に満ちた傭兵の刀には殺気がこもっていた。
「コソドロ!」
 RRがスニークを呼んで、目配せをする。それにうんと頷くと、スニークはかつてナメクジモンスターが入っていた檻の扉を大きく開いた。
「坊ちゃん、こっち!」
 傭兵の刀を盾で防ぐナイトに叫ぶ。
「檻の中に誘い込むんだ!」
 RRが叫んだ。
 ナイトは小さく首肯すると、傭兵の攻撃をときにはかわし、ときには受け流しながら、檻の中へと移動した。
 ナイトが傭兵を誘い込んで檻の真ん中まで移動したのを見届けると、RRがまた叫んだ。
「よし、次はリトルだ!」
「まかせて」
 ウィンクして答えると、メルティはバトンを振る手を止めて檻の中へと駆け込んだ。途端に傭兵の周りを跳び回っていたウサギが消滅する。すると、動けるようになった傭兵はメルティを追いかけた。傭兵が檻の真ん中まで来ると、メルティはまたバトンを振って、傭兵の周りでウサギを遊ばせた。
「ナイスだよ、不思議ちゃん!」
 メルティはスニークにウィンクした。
「2人とも、走って檻から出て奴らを閉じ込めるんだ」
「オイラが声掛けるから1、2の3で走って檻から出て!いい?タイミング合わせてよ」
「いいわよ」
「わかりました」
 2人が口々に答えた。
「2人が檻から出たら扉を閉めるんだ」
「わかったよメテオのアニキ!そしたら、傭兵達が出ないように扉を押さえてよ」
 巨漢のトミーと、ウルフマンのバイト、ビショップのシップがうんと頷いた。
「みんないいか?コソドロ!カウントだ」
「ガッテン!いくよ!1、2の3!」
 スニークのカウントとともに、ナイトとメルティは一斉に扉に向かって駆け出した。それを2人の傭兵が追いかけてくる。
「メルティさん、先に出てください」
 そう言うと、ナイトは檻の扉を背にして盾を構えた。傭兵が近づいてくる。
「坊ちゃん!早く!」
「今、行きます」
 メルティが檻の外に出たのを見届けると、ナイトは背を向けて、檻の外へと突進した。傭兵の刀が振り向いたナイトの背中をかすめた。
「今だ!」
 ナイトが檻から飛び出た直後、スニークがバタンと扉を閉めた。全速力でナイトを追いかけていた傭兵が扉に激突する。一瞬、開きかけたが、トミー、バイト、シップが3人がかりで押さえ込んだ。
「ビンゴ!」
 叫んでパチンと指を鳴らす。
「うまく行きましたね」
 ナイトが息をはずませ、メルティがうふふと笑った。
「みんな、すまなかった」
「ナニ言ってるのさ。ロンド姉さんのお仲間ってことは、オイラ達の仲間ってのと同じでしょ。仲間を助けるのは当たり前じゃん」
 スニークの言葉に皆が頷いた。
「それでもアタシは礼を言いたい。ありがとう」
 それにスニークは照れたように頭をかいた。
「でも、閉じ込めるのには成功したけど、この2人の傭兵さん、どうするんです?いつまでも閉じ込めておく訳にもいかないでしょう?」
「それなら、おそらくなんとかなる」
 ナイトの疑問にRRが答えた。
「あ、メテオのアニキも気づいてたんだ」
「ああ」
 振り向いたスニークにRRが頷いて見せた。
「気づいたって、なんにです?」
「『地獄への扉』の向こう側に、見張りの詰め所があっただろ?」
「ええ、ありましたね」
 RRに言われて、ナイトはそんな部屋があったことを思い出した。
「それがどうかしたんですか」
「その詰め所の机のところにさ、あったんだよ」
「え?ナニがですか?コソドロさん」
 ナイトは訳がわからず、今度はスニークに聞き返した。
「鈍いなぁ、坊ちゃんは。確か、詰め所の机のところに、ガラクタと一緒にあったんだよ、解毒剤が」
 そこまで言われて、ナイトはあっと声を上げた。
「じゃぁ、そこまで戻って解毒剤を取ってくれば、傭兵さんを正気に戻せるってことですね」
「そう言うことだ」
 やっと正解にたどり着いたナイトにRRが答えた。
「そんじゃ、ハンナちゃんを救出して、その足で解毒剤を取ってきますか」
 そう言って、スニークは牢の方を見た。正気を失った2人の傭兵が、飽きることなく体当たりする度に、扉が激しく振動していた。
「こりゃ、やっぱ3人がかりで扉を押さえてないとヤバイね」
「そのようですね」
 ナイトもその様子を見て実感する。
「トミーさん、バイトさん、シップさんにはこのまま扉を押さえていただいて、残った5人で行きましょう。いいですか?」
 ナイトの問いかけに、全員がうんと頷いた。
「では、行きましょう」
 ナイトを先頭に、スニーク、ロンド、メルティ、そしてRRの5人は来た道を戻って、ハンナが囚われている牢を目指して進んだ。
「あーあ、やっぱりここだけ復活しているよ」
 来たときにスニークが特別製だと言った扉の前まで来ると、『シーフの目』に扉が赤く光って見えた。
「コソドロさん、お願いします」
「オッケー。皆、危ないから下がっててね。ここのトラップだけはマジやばいから」
 そう言って、スニークが扉の前に立ったそのときだった。
 明々と照らしていたかがり火が、また大きくゆらいだかと思うと、一瞬、辺りが真っ暗になった。それも一瞬で、かがり火はすぐに元にもどり、また辺りを明るく照らした。
 しかし、そのとき異変が起きていた。
 扉の前でスニークが突っ立ったまま硬直していた。肌は血の気を失い真っ青だった。
「コソドロさん?」
 ナイトがスニークの肩に手をかけようとすると、その手が肩をすり抜けた。と、同時に、スニークの姿がスーッと消えた。
「コソドロさん!」
 慌てて叫んだが、どこからも返事はなかった。
 スニークが立っていた位置に、焼け焦げたように黒い跡が残っていた。
「一体、ナニが?」
 動揺するナイトにRRが答えた。
「『黒落ち』だ」

 

 

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