【リプレイ風小説 第5話 鍵消失】

 

ACT.9 終末への扉


 『終末への扉』を押し開けると、そこは大きな広間になっていた。四方の高い位置に設置されたかがり火が明るく室内を照らしていた。
 侵入者に気づいたオーガどもが、一斉に襲い掛かり、あっという間に敵味方が入り乱れた乱戦となった。
 バイトのツメがオーガの肉を裂き、トミーの大剣が骨を叩きつぶした。
 棍棒の一撃を盾で受け止めてくるりと体をかわしナイトはオーガの腹にソードを叩き込んだ。
「オフィサーク!」
 目の前のオーガに槍の切先を向けたまま、広間の中央にいるひと際大きな体躯のオーガに向かって、ロンドが叫んだ。
「なんだ、お前は?」
 オフィサークはロンドを眺めた。
「その赤い髪、お前あの女に似ている」
 襲い掛かるオーガの棍棒を華麗なステップでかわし、体制が崩れたところを心臓目掛けて槍を叩き込む。深々と刺さった槍をぐいと引き抜くと、オーガの胸にぽっかりと空いた穴から噴水のように鮮血が噴き出した。
「オフィサーク、お前を殺す!」
「この無敵の俺様を殺すだと?」
 オフィサークは心底おかしそうに笑った。
「出来るものなら、やってみろ!お前も捕まえて可愛がってやる。あの女のようにな」
 そう言うと、いやらしい笑い声を上げた。
「貴様!」
 赤い髪を振り乱し、ロンドはオフィサーク目掛けて槍を繰り出した。それを全く避けもせず、まともに胸に受け止める。深々と刺さった槍には、しかし、一滴の血もついていなかった。
「俺様は無敵と言っただろう」
 刺さった槍を掴み力任せに引き抜くと、ロンドごと放り投げた。
 槍が刺さった傷跡は見る間に塞がり、すっかり元に戻ってしまった。
「ロンドさん!影を!」
「わかっている」
 オーガの棍棒を盾で受け流しながら叫んだナイトに、苛立たしげに答える。
 影を踏んで攻撃する以外、オフィサークを倒すことはできないと言ったハンナの言葉を反芻する。
 ロンドはオフィサークの影を探した。
 そして。
 そして、ロンドは愕然とした。
 影が無かった。
 四方の高い位置に設置されたかがり火が、お互いの影を相殺し、オフィサークの足元に薄く小さな影があるだけだった。
「影が、どうしたって?」
 オフィサークがいやらしく笑いながら、ロンドににじり寄った。
「ロンド姉さん!」
 スニークが叫んだのと同時にオフィサークの巨大な棍棒がロンド目掛けて振り下ろされた。咄嗟にオフィサークとロンドの間に割り込んだナイトの盾が、それを正面から受け止めた。
 盾を構えた左腕がミシリと音を立てた。
「ナイト、あんた・・・」
 痛みをこらえて、背中越しにナイトが言う。
「リーダーですから」
 ナイトは盾で、オフィサークを押し返した。
「生意気な小僧が!くらえ!」
 オフィサークが再び棍棒を振り上げた。が、しかし、それは振り下ろされることはなかった。
 オフィサークの周りを数羽のウサギが跳び回っていた。
「ナイスだよ、不思議ちゃん!」
 バトンを振ってウサギを操りながら、メルティがスニークにウィンクを返した。
「なんだ、こりゃ?身体が動かねぇ」
 自分を中心にして周りをぴょんぴょん跳び回るウサギを、オフィサークは不思議そうに目で追った。
「援護する」
 RRが二人の横に立って杖を構えた。
「しかし、ヤツは無敵。魔法も効かないはず」
「いいから武器を構えろ、とどめは任せた」
 訳が分からなかったが、二人は言われたとおりに各々ソードと槍を構えた。それを見届けると、RRは小さく頷いた。
 呪文を唱え、杖を振り上げる。大量の『心の力』が振り上げた杖の先からほとばしり、空中に燃え盛る隕石を召喚する。
 それを見てオフィサークはにやりと笑った。
「生憎だな魔術師。俺様にはメテオも効かねえよ」
「そうか。それは残念だ」
 RRは、眉ひとつ動かさず言ってのけると、杖を振り下ろした。
 その動作に合わせて、燃え盛る隕石がキーンという音を立てて落下する。そして、オフィサークを通り越し、その真後ろで爆発した。
 最終魔法メテオのおびただしい熱と、爆音、爆風、そして眩い閃光が、オフィサークの真後ろで発生し、目の前にくっきりと長い影を作った。
 ナイトがオフィサークの影をドンと踏みしめた。
 低く構えたソードの切先が右の脇腹にささり鮮血がほとばしる。
 間髪入れず、ロンドも影を踏んで槍を左胸に突き刺した。
「馬鹿な、無敵の俺様が・・・」
 そこまで言うのがやっとだった。
 オフィサークは言葉の代わりに大量の血を吐き出し、がっくりと膝からくず折れた。

 

 あとは簡単だった。
 オフィサークを倒され、意気消沈したオーガどもを殲滅するのに、さほど時間はかからなかった。
「やってくれ、ナイト」
「は、はい」
 戸惑いながら返事をして、ナイトは思いっきりソードを振り下ろした。
 骨を絶つときの嫌な音がして、切り落とされたオフィサークの左手が転がった。
「礼を言うよ、ナイト。アタシの槍じゃ切ることは出来ないからね」
「いえ、礼には及びませんよ」
 ナイトは引きつった笑顔で笑って見せた。
「でも、これでハンナさんを牢から出すことが出来るんですよね」
「ああ」
 オフィサークの左手首を布でくるみながら、ロンドは首肯した。
「そんじゃぁさ、とっとと行こうよ」
「そうですね。行きましょう」
 ナイトがスニークに同意する。
 一行はナイトを先頭にして、ハンナを救い出すため来た道をたどって行った。
 『終末への扉』を抜け、熊がいた牢を出たときだった。
「坊ちゃん。チョットだけ向こう側見てみない?」
「向こう側って?」
「ほら、まだこっちの方ってさ、探索してないじゃん」
 ナイトはスニークが指し示す方を見て、ああと言った。
「確かに探索はしてないですけれど、オフィサークは倒したんだし、後はハンナさんを救出するだけですから、放っておいても問題ないじゃないですか」
「でもさ、ほら、見落としてるかも知れないじゃん」
「ナニをですか?」
「えと、お宝とか、お宝とか、お宝・・・」
「わかりましたよ」
 ナイトは呆れた顔をしてチラリとロンドへ視線を向けた。
「チョットのぞくだけですよ。また檻とかあっても探索しませんからね」
「わかってるって。探索はハンナちゃんを助けてからでいいからさ」
 スニークは、まだ探索していない側の通路へと進んだ。
 通路はすぐに終わり、広間へと続いていた。そこで、スニークはチョットだけ広間を覗いてみた。
 がらんとした広間には何も無く、ただ、2人の人間の兵士がいるだけだった。見つからないうちに退散しようとしたが、既に遅かった。
 2人の兵士が猛然と斬りかかって来た。 

 

 

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