【リプレイ風小説 第5話 鍵消失】

 

ACT.8 予兆


 二体の巨大なナメクジのようなモンスターがゆっくりと檻の中から出てきた。
 そのうちの一体の口からひと筋の光線が発せられた。それが巨漢の戦士トミーの右の肩口に命中したかと思うと、まるでカミソリのような鋭い刃物で切りつけたように、そこから鮮血が噴き出した。
 普段から寡黙なトミーが、思わずウッと声を上げた。
「うへ!あんなの喰らったら、オイラ死んじゃうよ!」
 スニークが言ったのと、シップが癒しの呪文を唱えたのとが同時だった。
 『フルヒーリング』の呪文の効果が傷口をふさぎ、じわじわと体力を回復させる。
 ナメクジモンスターの緩慢な動きに決して油断していたわけではなかったが、全員に緊張が走った。
「みなさん、光線に気をつけて!」
 ナイトが叫んだ。しかし、気をつけてと言われても、光線を発せられたら避けようがない。ならば、とるべき行動はひとつ。やられる前にやるしかない。
 ウルフマンのバイトがナメクジモンスターの一体に瞬時に体当たりをお見舞いし、鋭いツメで表面が粘液でぬめつく身体を引き裂いた。青い血が飛び散りあっという間に辺りが青く染まる。
 もう一体のナメクジモンスターの周りには、メルティが振るバトンに合わせて数羽のウサギがぴょんぴょんと跳び回っていた。そこへナイトがソードを振り下ろした。
 そこまでだった。後は、あっけないくらいに一方的にナメクジモンスターを倒し、戦闘は終了した。
「いったいこの『秘密ダンジョン』には、いくつ牢屋があるのさ」
「まぁ、そう言わないで。ここが仕掛けだらけだってことは、コソドロさんもわかってるじゃないですか。牢獄の中にオフィサークの居場所へ行くための鍵が隠されているかも知れないんですから、開けてみるしかないでしょう?」
 ナイトがスニークをなだめるように言った。
「そうなんだけどさ。いちいち牢屋のトラップを解除して、鍵を開けるこっちの身にもなって欲しいよ」
 まだ、ぶつぶつ文句を言ってはいたが、それが本心ではないことを皆わかっていた。トラップを解除し鍵を開けることは、唯一シーフにしか出来ない特殊技能であり、独壇場であり、腕の見せ所なのだ。
「そんで、この熊ちゃんの檻を開けたら、ここいらへんの牢屋は全部開けたことになるのかな」
「そうですね。まだ向こう側にも通路は続いてたみたいですけれど、こっち側の区画ではこの檻が最後ですね」
「それにさ、皆にも見えてるんだろうけど、この檻の中にあからさまに怪しい隠し扉があるもんね。そう言った意味でもこの檻が最後かな」
「そうですね」
 確かに熊が入った牢屋の中に、隠し扉があるのが、『シーフの目』で赤く光って見えていた。
「コソドロさん、トラップの解除をお願いします」
「おっけー」
 スニークはしゃがみ込んで、牢屋の扉を慎重に調べた。牢屋の中の熊がよだれを垂らして吼えた。
「静かにしてよ、熊ちゃん。気が散るなぁ」
 ぶつぶつと文句を言いながら、トラップ解除専用のダガーを取り出す。ダガーの薄い刃を扉の隙間に差し込んだときだった。
 明々と焚かれたかがり火が、また一瞬ゆらめき、次の瞬間、めまいがした。
 あっと思ったときは遅かった。
 差し込んだダガーに『コア』が反応し、トラップが発動した。
 牢の扉から火柱が走り、スニークは吹き飛ばされて反対側の壁に激突した。
「スニーク!」
「コソドロ!」
「コソドロさん!」
 皆が一斉にスニークを呼んだ。
「へへ。しくっちゃった」
 スニークが口から血を吐き出した。
 すぐさま、RRの『アースヒール』の呪文がとんで、スニークの傷を癒した。
「ありがとう、メテオのアニキ」
「大丈夫か?」
「うん。おかげさまでね」
 口元についた血を拭ってRRに答えると、ダガーをベルトに収めて、代わりに先が曲がった針金を取り出した。
「今、鍵を開けるから、もうちょっと待っててよ」
「大丈夫なのか?」
 もう一度RRが聞いた。
「心配性だなあ、メテオのアニキは。さっきはチョイと手元が狂っただけだってば」
「そうか」
「うん。任せておいてよ」
 スニークは第六感を研ぎ澄ませ、開錠の作業に取り掛かった。
 その背中を見ながら、RRはいやな予感を感じた。高い位置に焚かれたかがり火を見上げる。さっきのゆらぎはなんだったのだろうか。
「ビンゴ!」
 指をパチンと鳴らすと、スニークはまたナイトと体を入れ替えた。
「では、開けます」
 ナイトが扉を開けると、充分に餌を与えられていなかったせいか、凶暴化した熊が襲い掛かってきた。強烈な前足の一撃を盾で受け流し、ソードで斬りつける。怯んだところにロンドの槍が追い討ちをかけ、後は、トミーとバイトがなだれ込んでとどめを刺した。
 それから、熊の死体を牢屋から引きずり出して、代わりに全員で中に入り、赤く光って見える隠し扉の前に集まった。
「ねえねえ、これ見てよ」
 皆が一斉にスニークが指差すところを見る。巧妙に偽装され、『シーフの目』で赤く光っていなければ、壁にしか見えない扉に、プレートがかかっていた。
 プレートには『終末への扉』と書かれていた。
「『地獄への扉』『天国への扉』の次は『終末への扉』か。いよいよ最後の審判ってわけ?」
「神への冒涜です!」
「その神様にでもなったつもりなんだろうさ。ふざけやがって」
 シップが憤慨して叫び、ロンドが毒づいた。
「その無敵の神様に、一泡吹かせてやろう」
 RRの言葉に皆がうんと頷いた。
 ナイトが『終末への扉』を勢い良く押し開けた。

 

 

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