【リプレイ風小説 第5話 鍵消失】

 

ACT.6 天国への扉


 小部屋の中は、机と椅子が一脚あるだけで、あとはがらんとしていた。松明の明かりが室内を赤く照らし、冒険者達の長い影を作っていた。
「やっぱりさっきの部屋じゃないの?」
 スニークがあきらめたように言った。
 『地獄への扉』を入って一行は次々と牢を開けてモンスターを倒し、中を探索したが、何の手掛かりも得られずにいた。
 牢の他には、看守の詰め所と思しき部屋がひとつ。それから今、一行が訪れた小部屋がひとつあるきりであった。
「さっきの看守の部屋にはさ、机とか本棚とかいろいろあったじゃん。机の上とか引き出しの中とかなんだかゴチャゴチャとあったしさ。オイラ、あの部屋が怪しいと思うけどな」
「そうですね。ここまで何にもないと、探しようがないですよね」
 ナイトがスニークに同意を示し、小部屋を後にしようとしたときだった。
「いや、ちょっと待て」
「なにさ、メテオのアニキ」
 引き止められて、スニークは訝しげな表情をRRに向けた。
「気づかないか?」
「なににさ」
「この部屋の明かり、妙に赤い」
 言われてみれば、小部屋の中の明かりの色は、他と比べて赤かった。
「コソドロ、床を見てみろ」
 RRが指し示す方を見て、スニークは思わずあっと声を上げた。
 そこには机を引きずった跡が部屋の中を明々と照らす松明の下まで続いていた。
「ハンナさんからのヒントは『あかりをたおせ』でしたね」
 ナイトの言葉にうんと頷くと、スニークは机を引きずって、松明の下まで移動させた。それから、机の上に飛び乗って松明に手を伸ばした。
 松明を掴んで、大仕掛けの装置のレバーを引くように手前に倒す。すると、ガコンと音がして続いてギギギと歯車がきしむ音が聞こえた。
 スニークが手を離すと、松明はばね仕掛けのようにまた元の位置に戻った。
 先ほどまで、妙に赤かった松明の明かりが、今度は青みがかった色に変わっていた。
「ハンナさんのヒントは、この松明のことでしょうか」
「それは、『天国への扉』に戻ってみればわかることだ」
 ナイトの問いかけにRRが答えると、全員がうんと頷いた。

 

「ビンゴ!」
 スニークがパチンと指を鳴らした。
 思ったとおり、『天国への扉』のカギは開いていた。それが『シーフの目』ではっきりと見て取れた。
「いよいよですね」
 ナイトが大きく深呼吸をした。
「さっきみたいに飛び込む前に、支援魔法をかけさせていただきますよ」
 そう言ってニコリと笑うと、シップはひとりづつ仲間全員に祝福の呪文を唱えた。聖なる力が身体に宿り、体力がみなぎってくるのを感じる。
 それと同時にRRが『ファイヤーエンチャント』の呪文をかけていった。ナイトのソードに、ロンドの槍に、トミーの大剣に、そしてバイトのツメに炎の魔力が宿っていく。
 シップとRRの支援魔法が皆に行き渡ると、ナイトは全員を見回した。
「行きますよ。準備はいいですか」
 全員がうんと頷いたのを見届けて、ナイトは『天国への扉』を押し開いた。
 扉の向こうは、ガランと開けた駄々広い空間だった。『地獄への扉』の牢獄が人工的に作られた空間であったのに対し、こちらは天然の洞窟に人の手を加えたものだった。
 地面に丸くぽっかりと空いた大空洞に沿って外側の崖にぐるりと取り囲んで人間が2人横に並ぶといっぱいになるほどの道が続いている。それが『天国への扉』から左右に続いていた。崖の下を覗いて見ると魂を吸い取られそうなほど深かった。おそらく地の果てまで続いているに違いない。
 そして、空洞の真ん中には海の真ん中に浮かぶ浮島のような陸があった。そこに頑丈な鉄の柵で囲まれた牢獄があるのが見えた。どうやらあの牢獄へは、『天国への扉』とは反対側に位置するつり橋を渡って行くらしい。
 他には、右手の壁に頑丈な扉があるのが見えた。『シーフの目』が扉にトラップと鍵がかかっていることを知らせて赤く光っている。
「見張りがいますね」
「ああ。タダじゃ通してくれないってわけさ」
 ナイトの言うとおり、右から三体、左から三体のオーガが巨大な棍棒を手に近づいてくるのが見えた。
「僕とロンドさんが左を片付けます。トミーさんとバイトさんは右をお願いします」
 ナイトの指示に4人が一斉に左右に分かれた。
「そんで、オイラ達はどっちに行けばいいのかね。全く坊ちゃんの指示ってば中途半端なんだから」
「それは我々の判断で、戦況が危ない方へ支援をしに行きましょう」
 シップが呆れたように言うスニークに答えた。
「ま、いいけどさ。オイラは戦闘では役立たずの非戦闘員だもん」
 それにはシップは苦笑で応えるしかなかった。
 そのときロンドの叫び声が洞窟に響いた。
「ハンナ!」
 言うが早いかオーガの棍棒を身を翻して避け、赤い髪をなびかせてつり橋に向かって疾駆していた。
 残されたナイトは三体のオーガを相手に防戦一方であった。
「一体、ロンド姉さんどうしちゃったのさ」
「どうやら、あの牢獄の中に目的のハンナがいるようだな」
 RRは顎でしゃくって真ん中にある牢獄を指した。良く見ると中に人のような姿が見えた。
「傭兵ギルドのお仲間を見つけて焦っちゃったのかね。ロンド姉さんもあわてん坊だな。シーフなしじゃ、鍵が開けられないの分かってるはずなのにさ」
 スニークは両手を天上に向けて肩をすくめて見せた。
「オイラ、ちょっくらロンド姉さんのとこに行くから、アニキ達援護してよ」
 そう言うとナイトが孤軍奮闘している左側に向かって駆け出した。RR、シップ、メルティもそれに続いた。

 

 

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