【リプレイ風小説 第5話 鍵消失】

 

ACT.5 記憶


 巨大蜘蛛の檻の向かい側の檻には、大きな亀の化け物が入っていた。一行はこれを難なく仕留めたあと、檻の中をくまなく調べたが、最初の巨大蜘蛛の檻にも化け亀の檻にもなんの手掛かりも見つけることが出来なかった。
「ちぇ、またハズレだよ」
「腐らないで、コソドロさん。まだ2つ目じゃないですか」
「そうだけどさ」
 スニークが漏らした不平にナイトが生真面目に答える。
「檻はまだまだあるみたいですよ、がんばって」
「はいはいっと」
 気の無い返事をすると、スニークは3つ目の檻へと歩を進めた。

 

「ビンゴ!」
 手際よくトラップと鍵をはずすと、パチンと指を鳴らす。それからスニークは檻の入り口の前から退いて、ナイトと場所を入れ替わった。
「今度のモンスターは、ちっちゃくて弱そうだね」
 スニークは檻の中にいる、猫ぐらいの大きさのナマコのような白い蟲を見て言った。確かに見た目には先ほどの巨大蜘蛛や亀の化け物に比べれば遥かに組し易そうに見えた。
「油断は禁物ですよ。扉を開けたら僕が飛び込んで、一気にかたをつけます」
 ナイトはひとつ深呼吸をすると、入り口の取っ手に手をかけた。
「開けます、1、2、3!」
 3カウントと共に扉を開けると、ナイトは檻の中へと飛び込んで、一直線に蟲目掛けてソードを振り下ろした。ソードの切先が確実に貫いたと思ったところを蟲は信じられないような素早さでかわした。
「この!」
 返す刀でもう一度切りつけるが、これも紙一重でかわされ、蟲は今度はナイトの死角に回った。
「く、どこに」
「坊ちゃん、後ろ!」
 スニークが叫んだのと、ナイトが振り向いたのと、そして蟲が体当たりしたのとが同時だった。小さな身体に似合わず蟲の体当たりは強烈で、ナイトはその場に尻もちをついた。
「このー!」
 ソードを杖代わりに床について立ち上がろうとしたとき、ナイトは最初白かった蟲の色が鮮やかなピンク色に変わっているのに気がついた。
「これは・・・」
 これはまるでと言いかけて、息を飲んだ。忌まわしい記憶が蘇る。蟲が発した甲高い耳障りな音がまたその忌まわしい記憶を鮮明にした。
 耳障りな音に呼応して石畳になった床の隙間から次々と地蟲が這い出し、墨汁を水面に垂らしたように真っ黒に広がった。あっという間にナイトの身体に取り付いて自由を奪い、肌を裂き肉に喰らいつく。
「なにこれ、まるでクリーパーじゃん」
 スニークが叫んだ。
「ああ、あの蟲はクリーパーの幼生だ」
 RRは答えて、更に続ける。
「このままだとナイトがワーム(地蟲)に喰われる」
「どうすりゃいいのさ、メテオのアニキ」
「やられる前にクリーパーの幼生を倒すんだ。そうすればワームもおさまる」
「そんなこと言ったって、ワームだらけで近づけないよ」
「ああ、だからナイトが倒すしかない。それまで回復し続けるんだ」
 RRの言葉にビショップのシップがうんと頷き、回復の呪文をナイトにかけた。
 そのときだった。
「うあぁぁぁ!」
 若い剣士が叫び声を上げた。
「みんなが・・・みんなが死ぬ!」
 意味不明な言葉を発しナイトは狂ったように滅茶苦茶にソードを振り回した。それはいつもの流れるような動作ではなく、力任せのあがきだった。
「マズイよ!坊ちゃん、あのときみたいに逝っちゃってるよ!」
 あの『蟲の洞窟』の『秘密ダンジョン』で最凶最悪の蟲『クリーパー』に目の前で次々と仲間を殺されたとき、ナイトはパニックに陥った。そのときと同じ状況だった。
「クリぃぃぃパぁぁぁあ!」
 ナイトが最凶最悪の蟲の名を絶叫する。
「全く、世話の焼ける子だね」
 ひとつため息をつくと赤い髪の傭兵ロンドは、槍を正面に向け身体を沈めて低く構えた。
「ロンド姉さん、何するつもりさ」
「突っ切るんだよ」
 短く答えると、ロンドは地面を蹴って一気にワームの中に突っ込んだ。一瞬で間合いを詰めてナイトの目の前へと移動する。それから、狂ったように振り回すソードを槍で受け流し、ナイトの頬を平手でピシャリとはりとばした。
 一瞬でナイトの動きが止まる。
「前になにがあったか知らないけどね、しっかりしな!あんたリーダーだろ!」
「ロンド・・・さん」
 ナイトはロンドの顔を見つめた。その目にじわりと涙が滲んだ。
「クリーパーの幼生は、あんたが倒しな。キッチリ片をつけるんだ。この命、あんたに預けたよ」
「は、はい!」
 返事を返すと、ナイトはソードを構えた。
 その目からは既に狂気の色は消えていた。

 

「ねぇ、不思議ちゃん。あの兎の術でさ、坊ちゃんに応援できないの?」
「無理よ、シーフさん。あんなに動きが速くちゃ、魔法をかける前に逃げられちゃうもの」
 スニークの問いかけに、メルティが残念そうに答えた。
「そっか、もう少しゆっくり動いてくれたら仕留められるのに。ってあれ?」
 そこまで言ってスニークは首を捻った。確かこの台詞は以前にも言ったことがある。
 それから何か思いついたように鞄の中をひっかき回し、一本の短剣を取り出した。
「あった!これこれ!あのときもコイツ使ったんだ」
 しっかりとした作りの短剣はその刃に魔法の冷気を帯びていた。
 スニークは魔法の短剣を構え、第六感を研ぎ澄ました。

 

 ナイトの放った必殺の一撃は、またもや空を斬った。これで何回目だろう。
 動きの素早いクリーパーの幼生をとらえるのは唯でさえ難しい。更に今はワームの中に紛れ込んでいて目で捉えるのでさえ困難なのだ。
 しかし、だからと言ってこれであきらめるワケにはいかない。自分に命を預けると言ってくれたロンドのためにも。
 自分自身に落ち着くように言い聞かせる。顔の上を地蟲が這いずり回るのもお構いなしに集中する。もう一度一撃必殺の構えで神経を研ぎ澄ます。
 もう少し、あと一歩間合いに入れば捉えることが出来る。
 極度の緊張に掌が汗ばみ、ソードを取り落とさないよう柄を握る手に力が入る。
 あと半歩。
 ワームに紛れて、クリーパーの幼生が近づいてくる。
 今だ!ナイトは必殺の一撃を放った。
 クリーパーの幼生がソードを回避しようとする。が、なぜかスローモーションのようなゆっくりとした動きにしかならなかった。まるで全身が凍てついているように。
 そこをソードの一撃が捉え、クリーパーの幼生の頭部を切り落とした。
「ビンゴ!」
 スニークが指をパチンと鳴らした。
 切り落とした頭部が床を転がり、残った胴体が緑色の体液を床に振りまきながらのたうちまわった。しかし、それも束の間で、やがてクリーパーの幼生は永遠に沈黙した。

 

 

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