【リプレイ風小説 第5話 鍵消失】

 

ACT.4 最終魔法


 ダガーの薄い刃を扉の隙間に差し込み、それを慎重かつ微妙に上下に動かす。研ぎ澄まされた感覚と第六感が、刃先がトラップの『コア(核)』に到達したことをスニークに知らせた。いつもの癖で、下の唇をギュッと噛む。意を決して一気に刃先を押し込んで『コア』を破壊すると、それと同時に扉の表面を青白い炎が走った。
「ビンゴ!」
 スニークはパチンと指を鳴らした。
 3体のオーガを前に圧倒的な勝利を収めた一行の行く手に、また頑丈な扉が立ちはだかっていた。一行は更に前進すべく、スニークが扉に施されたトラップと鍵の解除を試みていた。
 ここはシーフの独壇場だ。
 トラップは解除し、残るは鍵の開錠だけである。スニークは先がカギ状に曲がった針金を鍵穴に差し込んでゆっくりと回した。カチリと音がした。
「おっけー。トラップも鍵もはずしたよ」
「ご苦労様です、コソドロさん」
 ナイトはねぎらいの言葉をかけると、スニークと入れ替わって扉の前に立った。
「では、開けますね」
 そう言って、ナイトは扉を押し開いた。
 扉を開くと高い位置にあるかがり火が左に向かって伸びる廊下を照らし出した。その両側には鉄の柵で仕切られた牢獄が続いていた。見ると、牢獄はひとつひとつ仕切られた独房になっており、薄暗い中で何か生き物が蠢いていた。
「これはいったい?」
 そこまで言って、ナイトは言葉を失った。
「実験場さ」
 ロンドが短く答えた。
「実験場?」
「ああ。この獄の中のモンスター達は、実験のために集められた、被検体さ」
 ナイトの問いかけにもう一度ロンドが答えた。
「オーガの頭領が実験などするようには思えないな」
 ロンドは振り向いてRRを見た。
「確かにあんたの言う通り、実験をしていたのはオフィサークじゃない。オフィサークはこの実験場の守人であり、被検体のひとつに過ぎない」
「では、ここの真の主は誰なんだ?」
「それは、あんたの知るべきことじゃない」
 ロンドは真っ直ぐにRRの目を見て答えた。
「まぁまぁ、いいじゃないの、そんなのどうだってさ。今回はハンナちゃんを救出するのが目的なんだから」
 ちょっぴり険悪になった空気をスニークの軽口が緩ませる。
「そんでさ、この檻開ける?バッチリ、トラップも鍵もかかってるけど」
「そうですね。どうしましょうか」
 そう言って、ナイトは乞うような視線をロンドに向けた。
「ハンナがどこに手掛かりを残しているか分からない以上、片っ端から開けていく他ないね」
「そうですよね。さっきの『あかりをたおせ』だって何のことだか分からないわけだし。コソドロさん、開けてください」
「おっけー」
 ナイトの指示に従って、スニークは今入ってきた扉の正面に位置する牢獄の扉に仕掛けられたトラップを解除しようと近づいた。
 薄暗い牢獄の中で、赤く光る八つの目がスニークを見ていた。そのシルエットは8本の足を持つ巨大な蜘蛛に他ならなかった。
「本当に開ける?」
「開けて下さい」
 スニークの問いにナイトが即答する。
「扉は開けるけどさ、あとは頼んだよ、坊ちゃん。オイラは非戦闘員だからね」
「任せてください」
 そのやりとりの後、暫く沈黙が続いた。それから一瞬、青白い炎が牢獄の扉に走り、直後にカチリという音がした。
「おっけー。解除終了」
 それからまたスニークはナイトと場所を入れ替わった。
「扉を開けたら、突入して一気にやっつけましょう。自分が中に入ったら、ロンドさん、トミーさん、バイトさんも続いてください。いいですね」
 ナイトの言葉に皆がうんと頷いた。
「では、開けます。1、2、3!」
 掛け声と共に牢獄の扉を開くと、ナイトは中に飛び込んだ。それに続いて、ロンド、トミー、バイトの3人が牢獄の中へと入って行った。
 ナイトは巨大蜘蛛の柔らかな腹部目掛けてソードの切先を突き刺した。ズブリと根元まで突き刺さり巨大蜘蛛はギーと耳障りな声を上げた。それとほぼ同時にロンドの槍が、トミーの大剣が、そしてバイトの爪が巨大蜘蛛を引き裂いた。
 巨大蜘蛛の緑色の体液が牢獄の中一面に飛び散り、中に入った4人全員がその返り血を浴びる。そのとき4人は苦痛に悲鳴を上げて攻撃の手を止めた。
 緑色の体液を浴びたところから煙が立ち昇っていた。慌てて体液を振り払おうとするが、べっとりと付着した体液は、なかなか振り払うことができなかった。その間も付着したところから煙が立ち上り、まるで蟲が青い葉を貪るような勢いで4人の身体を溶かしていった。
「まずい、酸だ!」
 咄嗟にRRが叫ぶ。
「酸って、どういうことさ、WIZのアニキ」
 スニークが尋ねる。
「ヤツの体液は強酸だ。武器で傷つけて返り血を浴びればヤツを倒す前にこっちがやられる」
「じゃぁ、どうすればいいのさ?」
「焼き尽くす」
 ひと言返すとRRは牢獄の中に飛び込んだ。
 その直後だった。
 牢獄の中は巨大蜘蛛が放った真っ白な糸でいっぱいになった。粘性のある糸はRR達の身体に絡みついて強く締め付けた。締め付けが序々に強くなり、身体の自由と共に体力を奪っていく。
「ヤバイよこれ、皆やられちゃうよ」
「大丈夫です。自分がさせません!」
 すかさずシップが呪文を唱えた。全員の身体に生命の力がみなぎり、じわじわとダメージを癒して行く。
「私が時間をかせぐわ」
 ウィンクすると、メルティはリズミカルにバトンを振り回した。それに合わせて出現した白兎が巨大な蜘蛛の周りを跳び回った。
 RRは必死に杖を振り上げて呪文を唱えようとしたが、もがけばもがくほどに蜘蛛の糸が身体を締め付け体力を奪れた。その度にシップの呪文が癒していく。
 しばらく膠着状態が続いた後、トミーが力任せに振り回した大剣がRRに絡みついた蜘蛛の糸を引きちぎった。
「魔法を」
 野太い低い声でトミーが告げる。
「すまない」
 RRが言うと、戦士は首を横に振った。
「礼、まだ早い。頼む」
 それに答えて今度は無言で首肯すると、RRは杖を振り上げて呪文を唱えた。
 大量の『心の力』が杖の先に集まり、それが空中高く放たれたかと思うと、炎に包まれた隕石が出現した。キーンという落下音を上げ巨大蜘蛛に命中し爆発が起こった。眩い閃光が視界を奪い真っ白な闇と化す。地面が振動し、辺りは凄まじい熱に包まれて爆風が吹き荒れた。
 RRはその強力な呪文を立て続けに3回唱えた。
 真っ白な闇の中、爆音に紛れて、巨大蜘蛛のギーという断末魔の声が聞こえた。それと同時に身体に絡みついていた蜘蛛の糸も消え、RRは支えを失ったかのようにその場にがっくりと膝をついた。
「大丈夫ですか!」
 ナイトがRRに駆け寄る。
「心配ない。『心の力』を使いすぎただけだ」
 そう言うとRRは、ベルトポーチから青い液体の入った小瓶を取り出して、一気に飲み干した。気分が高揚し頭の中が躁状態になる。RRはそれを3本立て続けに飲んで、ひと息ついた。
「もう大丈夫だ」
 立ち上がって皆に向かって言う。
「すげーや、アニキ。今の『メテオ』でしょ?」
「ああ」
 スニークにひと言答えてから、少し間をおいて続ける。
「実戦で使ったのは今のが始めてだ。まだまだ課題があるようだ」
 ウイザードの最終魔法『メテオシャワー』、通称『メテオ』はその強大な威力と引き換えに、大量の『心の力』を消費する。現に今も、『心の力』を消費し過ぎて、立っていられなくなってしまった。そこを敵に襲われたらひとたまりもない。
 RRは『メテオ』の使用には細心の注意が必要だと痛感した。
「でもさ、やっぱすげーよアニキ。今度からアニキのことは『メテオのアニキ』って呼ぶことにするよ」
「好きにしろ」
 スニークの軽口にRRはぶっきら棒に答えた。

 

 

<<前へ                        <戻る>                     次へ>>