【リプレイ風小説 第5話 鍵消失】

 

ACT.2 シーフの目


 古都ブルネンシュティングから歩いて2日、あの最凶最悪な蟲『クリーパー』が棲む『蟲の洞窟』から見てバヘル大河を渡った北側に『オーガの巣窟』はあった。名前が示す通り、洞窟にはオーガ達が群を成して棲みついてた。古都から丁度よい距離であることも手伝って、多少腕に自信のついた冒険者達が徒党を組んでオーガ退治に来ることもままあった。その『オーガの巣窟』の奥深くに隠された異空間『秘密ダンジョン』へと冒険者達は潜入した。
 剣士のナイトをリーダーに、赤い髪の傭兵ロンド、巨漢の戦士トミー、牙と爪で戦うウルフマンのバイト、皆からコソドロと呼ばれるシーフのスニーク、ビショップのシップ、謎の少女リトルウィッチのメルティ、それとウィザードのRRの8人だ。
「どうした、コソドロ。『秘密酔い』か?」
 RRが足元をふらつかせているスニークに向かって声を掛けた。
「いや、なんでもないよ」
 スニークは頭をひと振りして答えた。
 『秘密ダンジョン』の入り口を通って、こちら側に出たとき、一瞬、かがり火がゆらめいたような気がした。そのときにめまいがしたが、一時的なものだった。
 それが『秘密ダンジョン』に入るときのあの奇妙な感覚によって生じる『秘密酔い』なのかどうかはわからない。そんなことは今まで一度もなかったのだから。
 しかし、今はもう大丈夫だ。多分気のせいなのだろうと思いながら辺りを伺う。
「ここって洞窟じゃないんだ」
 回りを見渡すと、成る程スニークの言うとおり壁も床も全て石造りの人工物だった。巨漢のトミーが手を伸ばしても届かない壁の高い位置にかがり火が焚かれ、辺りを照らしていた。先ほどまでいた『オーガの巣窟』のように自然に出来た洞窟とは異なる様相だ。
「見てください。鍵のかかった扉が2つあります!」
 ナイトが言うように、8人が潜入した横に長い四角い広間の、正面にひとつ、向かって左側にひとつ、鉄で補強した木製の頑丈な扉があった。
「いや、確かに両方とも鍵がかかってるけどさ。オイラの『シーフの目』なら鍵やトラップが『見える』んだけど、素人が勝手に判断しちゃぁ困るなぁ、坊ちゃん」
「はぁ、すみません」
 申し訳なさそうに言ったものの、ナイトは更に台詞を続けた。
「でも、わかるって言うか、見えるって言うか。そのう、扉が赤く光って見えたんで、鍵がかかってるんだってピンときたんです」
「赤く光って見えるって?」
 スニークはナイトの言葉を鸚鵡返しに繰り返して目を丸くした。
「そりゃオイラと同じ『シーフの目』だよ」
「そうなんですか?」
「うん」
「アタシにも見えるよ」
「えぇ?」
 ロンドの言葉が、混乱する2人に更に追い討ちをかけた。
「トミー、あんたはどうだい?」
 その問いかけに、巨漢の戦士は低い野太い声でひと言「見える」と答えた。それに同意して、他の者もうんうんと首を縦に振る。
「どういうことよ?シーフの修行もしてないのに全員に『見える』ってこと?」
 スニークは盛大にクエスチョンマークを振りまいた。
「お前の仕業だろ、リトル」
 RRの言葉に、メルティはうふふと笑った。
「応援よ」
 ひと言言ってウィンクを返すと、またうふふと笑う。
「スゴイです、メルティさん!スゴイ応援です!」
「でも、私の応援は『見える』ようにするだけ。鍵もトラップも取り除くことはできないのよ」
「それでもスゴイです!見えていればうっかりトラップにひっかかることも無くなりますから!」
 興奮気味のナイトを尻目にスニークは口を尖らせた。
「なんでぇなんでぇ。『見える』からって、解除出来なきゃ意味ないじゃん」
「うん。だからこの先はシーフさんよろしくね」
 そう言うとウィンクしてついでに投げキッスを投げた。
「お嬢様かと思ったら、とんだ不思議ちゃんだよ」
 スニークのぼやきに、メルティはうふふと笑った。
「そんで、正面と左、どっちに行くのさ?坊ちゃん」
「あ、はい。えーと」
 言いよどむとナイトはロンドの方にチラリと視線を向けた。
「好きにしな。あんたがリーダーなんだから」
「は、はい」
 返事をしてからまた逡巡し、もう一度口を開く。
「じゃぁ、正面の扉から行きます」
「おっけー」
 一行は正面の扉の前に集まった。扉には金属製のプレートがはめられ、そこに『天国への扉』と書かれていた。
「『天国への扉』ってどういう意味でしょう?」
「わかんないけど、なんかお宝の匂いがしそうだね」
「兎に角、鍵を開けて下さい。話はそれからです」
「おっけーって、こりゃ無理だわ」
「え?」
 困惑して聞き返す。
「無理ってどういうことです?」
「いや、鍵はかかってるんだけどさ、鍵穴が無いんだよね」
 確かに頑丈な扉には鍵穴がなかった。いやそれどころか取っ手さえもなかった。
「このタイプの扉ってさ、無理矢理開けようとしても絶対に開かないようになってるんだよね。どっかにこれを開くための仕掛があるはずなんだけど」
 引くための取っ手がないのでナイトは試しに押してみた。確かにスニークの言ったとおり、『天国への扉』はビクともしなかった。
「どこかに仕掛けがあるって、左側の扉の向こうですかね」
「この部屋にそれらしきものが無いとすると、そういうことになるな」
 ナイトの質問に対してRRが答えた。
「じゃぁ、もうひとつの扉へ行きましょう」
「チョット待って」
 『天国への扉』の前を立ち去ろうとするのを呼び止めると、スニークはその場にしゃがみこんだ。
「どうした?コソドロ」
「いやさ、扉のここんとこに、なんか書いてあるみたいなんだよ、WIZのアニキ」
「ナニ?」
 RRも同じようにしゃがみこんで覗き込むと、扉の右下のギリギリ床に近いところに、ナイフか何か鋭いものでひっかいた跡が見えた。スニークが指にツバをつけてこすると、傷跡は確かに文字だった。それをゆっくりと読み上げる。
「あ・か・り・を・た・お・せ」
「『あかりをたおせ』ですか」
 スニークが読み上げた言葉をナイトが繰り返す。
「『あかりをつけろ』とか『あかりをけせ』ならわかりますけど、『あかりをたおせ』ってどういうことでしょう?」
「わかんないけど、この扉を開けるための仕掛のヒントなんじゃないかなぁ」
「おそらくね」
 ロンドが答えた。
「ハンナが残してくれたヒントだろうさ」
「ああ」
 それにRRが同意する。
「あかりってさ、ここのかがり火のことかな?」
「それはないだろうさ。ハンナの背丈はアタシと同じくらいだからね。あんな高いところには届きゃしないさ」
「そっか」
 ロンドの言うとおり、かがり火はオーガでさえ手の届かないぐらい高い位置でこの世の理を無視して永遠に燃え続けていた。これでは倒すどころか触れることさえ叶わない。
「やはり、もうひとつの扉に先に行かないことには始まらないらしいな」
「そうだね。んじゃ、さっさと行きますか」
 RRに同意するとスニークは立ち上がって左手の扉の方へと踵を返した。その後を残るメンバーはぞろぞろと着いて行った。
 左側の扉も正面の扉と同じように頑丈な造りであったが、但し、今度はちゃんと取っ手も鍵穴もついていた。
 金属製のプレートがはめ込まれているのも同じで、しかし、書かれている文字は違っていた。
 そこには『地獄への扉』と書かれていた。

 

 

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