【リプレイ風小説 第5話 鍵消失】

 

ACT.1 潜入


  
追い詰められていた。
 周りを敵に囲まれ、脱出することは最早不可能だった。
 一緒に潜入した2人の仲間は既に捕らえられ、残るは自分ひとり。誰かが助けに来るような都合のよいことなどあるはずもない。
 命がけで手掛かりを集め、情報を整理し、やっと弱点を見つけたというのに。それを誰かに知らせる術がないとは。口惜しさに臍を噛む。
 ネズミかと思ったら可愛いウサギだったかと言ったヤツの台詞にハラワタが煮えくり返る。女だからと甘く見られることに我慢がならない。だからと言って今は甘んじて受けるしかない。
 さて、どうしたものかと言ってヤツは思案していた。どうせどうやって殺そうかと考えているのだろう。吐き気がする。
 そこへアイツがお伺いを立てるように言った。殺すのだったら自分にくれないかと。
 ヤツはアタシとアイツを見比べて、サディスティックな笑みを浮かべる。
 それもまた一興。存分に楽しむがいい。但し、絶対に逃がすなと言い置く。
 分かっていると答えてからアイツはアタシを見て、いやらしく笑った。
 それからアタシは囚われ人となった。

 

「私はリトルウィッチのメルティ。よろしくね」
 8人目のメンバーはそう言ってウィンクをした。年若い剣士のナイトは一瞬リトルウィッチの少女に見とれた。
「ナニ赤くなってるのさ、坊ちゃん」
「いえ、そんな、赤くなってなんかいないです」
 スニークの言葉にしどろもどろで答える。
「どうだかね。リーダーなんだからしっかりしてよ」
「あ、はい」
 2人のやりとりに、メルティがうふふと笑った。それにまたナイトが顔を赤くする。
「全員が揃ったところで、今度の『秘密ダンジョン』の確認をして欲しいものだな」
「は、はい」
 ウィザードのRRに言われてナイトは努めて顔を引き締めた。
「この『オーガの巣窟』にある『秘密ダンジョン』に、オフィサークというオーガの頭領が棲んでいます。今回の我々の使命は、オフィサークに捕らえられているハンナという女性の救出が任務です」
 ここまでひと息で言って、ナイトはチラリと赤い髪の傭兵ロンドへ視線を送った。それに応えてロンドは小さくうなずく。
「女性を虜にするとは、まさに神をも恐れぬ大罪ですね」
 ビショップのシップが不快感を露わにする。
「ハンナは腕のいい傭兵でね、ある調査のためにオフィサークの隠れ家の『秘密ダンジョン』に潜入したんだけど、下手を打って捕まったらしい。最後に報告があってからもう10日も『傭兵ギルド』に連絡がないのさ」
「そんなに連絡が取れないとなると、既に殺されているんじゃないのか?」
 ロンドの説明に対してRRが問いかける。
「まぁね」
 ひと言返すロンドの表情が曇った。
「その可能性もあるけど、それならハンナが何らかの手掛かりを残しているはずさ。傭兵ってのはそういうもんだからね。最悪でもその手掛かりを持ち帰るのが今回の仕事さ」
「そういうことなんですよ、皆さん」
 ロンドの言葉をナイトが引き取った
「それで義憤に駆られた坊ちゃんが、リーダーを買って出たってワケか」
「はい!」
 胸を張って返事をする。
「そのハンナちゃんって美人なの?」
「それは・・・」
 困惑した視線をロンドに向ける。
「まぁ、器量よしだね。10人のうち8人が振り返るって程のね」
「ははぁん」
 スニークはニヤニヤと笑ってナイトを見た。
「な、なんですか?」
「いや、なんでもないよ」
「兎に角、『秘密ダンジョン』の中には、屈強なオーガがごろごろいるんです。おまけにトラップもわんさかあるんです」
 スニークのニヤニヤ笑いを振り払うように言葉を続ける。
「トラップはコソドロさんにお任せします。オーガは自分とロンドさん、戦士のトミーさんと、ウルフマンのバイトさんでなんとかします。ビショップのシップさんとウィザードのRRさんは後方支援をお願いします」
 ナイトの台詞に全員が頷いた。ひとりを除いて。
「私は?」
 メルティが小首をかしげる。
「今、名前が出てこなかったけど、私は何をすればいいのかしら」
「えっと・・・」
 ナイトは困惑していた。正直、リトルウィッチの能力というものをナイトは全く知らなかった。
「可愛いから、後ろで応援してればいいんじゃないの?」
「それいいわね。じゃぁ私はみんなの応援してます」
 メルティはうふふと笑った。
 スニークとメルティとの冗談ともつかないこのやり取りにナイトはすっかり困り果てて、助けを請うような視線をロンドに送った。
「『秘密ダンジョン』に入ればそれなりに働くさ。これまで皆、死線を潜り抜けて来たんだからね」
「そうですよね」
 ロンドの台詞に安堵の表情を浮かべる。
「じゃぁ、『秘密ダンジョン』の入り口を開きます」
 そう言うと、ナイトは卵大の輝くクリスタル、『秘密ダンジョン』の入り口を開く唯一の鍵である『ポータル・クリスタル』を洞窟の壁に向かって掲げた。
 何も無いはずの壁に赤い光が現れ、その中へとナイトの身体が吸い込まれて行く。
 それに続いて、ロンド、トミー、バイト、メルティが次々に飛び込んで行った。
「しっかし、坊ちゃんあんなんで大丈夫なのかなぁ?WIZのアニキ」
「何がだ?」
 スニークの問いに入り口に飛び込もうとしたRRがぶっきら棒に返す。
「いやさ、何かというと坊ちゃん、ロンド姉さんの方ばかり見てたじゃん。どうやら今回の仕事の依頼元は『傭兵ギルド』で傭兵のロンド姉さんは事情通らしいけどさ。あんなんでリーダーが務まるのかなぁと」
「さてな」
 否定とも肯定とも言えない曖昧な返事を返す。
「少年は経験を積んで成長して行くのです。これも神の試練というものですよ、コソドロさん」
 シップが口を挟んで微笑んだ。
「まぁ、今回は『蟲の洞窟』のときみたいなことはないと思うけどさ」
「考えていても始まらない。やるだけだ。そうだろ?コソドロ」
「結局はそうなんだけどね」
 RRの言葉にスニークは同意した。結局はやってみるしかないのだ。
「そんじゃ行きますか」
 一抹の不安を抱えながらも、スニークは意を決して『秘密ダンジョン』の入り口へと飛び込んだ。

 

 

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