【リプレイ風小説 第4話 鎮魂歌】

 

ACT.12 鎮魂歌


遥か北、大陸の北の端に位置する偏狭の地ハイランドの北端に横たわる『ハイランド洞窟』は、常にひんやりとした空気に包まれていた。
一行は『秘密ダンジョン』からそのハイランド洞窟へと帰還していた。
「これからどうするんです?」
スノウに向かってアインが聞いた。
「この『秘密ダンジョン』は無事にクリアしたし、もう貴女の『事情』は終わったんでしょう?」
「そうね」
スノウは宙を見つめた。

 

彫像のある広場で待ち伏せしていた5人の悪魔を倒したあと、一行は『力の種』が入った壺をかかえて、『番人』のところまで運んで行った。
『力の種』を引き渡すと、『番人』は感謝の言葉を述べ、全員に報酬を渡した。
「貴方に聞きたいことがあります。キャプテン・イント」
スノウは問いかけた。
「(私の知っていることなら、なんでも答えよう)」
「本当になんでも答えてくれますね。約束ですよ」
「(よかろう。約束しよう)」
『番人』のハイランダーを見つめるスノウの目は真剣そのものだった。
「では、教えてください。キャプテン・ハートは自分にとって最も価値あるものを得るために悪魔と契約したと言ったわ。私利私欲のために部族を裏切ったと」
スノウを見つめるハイランダーの目も真剣だった。
「キャプテン・ハートは、何を得るために部族を裏切って悪魔と契約したの?」
答えを求めるスノウの目が突き刺さるようだった。
「(お前もうすうす気づいているのではないのか?スノウよ)」
しばらく沈黙が続いたあと、スノウはもう一度口を開いた。
「教えてください。キャプテン・ハートは、父は何を求めたのか」
『番人』は、わかったと言って、話を続けた。
「(我等ハイランダーにとっては少し前、短い命を生きるお前達人間にとってはひと昔前の話だ。キャプテン・ハートは悪魔の襲撃に備えて、このハイランドの地を見回っていた。その途中、狼の群に襲われた人間の母子を見つけた。母親は既に狼に喰われ絶命していたが、母親が命を賭して守ったおかげで子供は生きていた。しかし、救い出すときに不注意で子供の足をつぶしてしまった)」
『番人』は続けた。
「(キャプテン・ハートは最も慈悲深きハイランダーだ。それゆえ、責任を感じていた。子供の足をつぶしてしまったことに。キャプテン・ハートは子供を連れ帰り自分の娘として育てることにした。我等は雪のように白い人間の子供を『小さなスノウ』と呼んで愛しんだ。我等は時間をかけて部族に伝わる秘術や様々な薬草を試してみたが、足は治らなかった。生涯歩くことは出来ないだろうと誰もが思った。しかし、キャプテン・ハートは諦めなかった。そして)」
『番人』の目がじっとスノウを見つめた。
「(そして、キャプテン・ハートは悪魔に望んだ。娘の足を治してくれと)」
スノウの目が『番人』の目を見つめ返していた。その目は最早、あの冷たい目ではなかった。
「(悪魔はその見返りとして『心』を要求した。キャプテン・ハートは考えた。自分が部族を裏切って悪魔と契約したとしても『心』を失えば、痛みを感じることはないだろうと。キャプテン・ハートはその要求に応じ、契約は成立した。しかし」
ゴクリと誰かがつばを飲み込む音が聞こえた。
「しかし、その考えは甘かった。悪魔は『心』を奪って何も感じなくする代わりに、キャプテン・ハートの『心』に棲みついた。そして『心』を痛めつけた。『心』を痛めつけ、疲弊させ、屈服させるために。そうしておいて鍵を使わせるつもりだったのだろう。力では我等に及ばない悪魔の考えそうな姑息な手段だ)」
ひとつ言葉を切ってから、付け加える。
「(お前は父を救ったのだ。生きている限り永遠に続く苦しみから解放したのだよ、スノウよ)」
またしばらく沈黙が続いた。
「もうひとつだけ」
沈黙を破ったのはスノウだった。
「もうひとつだけ教えて、キャプテン・イント」
「(なんだ?)」
「貴方はハイランダーは死ぬと『力の種』になると言ったわ。人間のように屍をさらさないと。ならば、なぜ父は、3人のハイランダー隊長は『力の種』にならなかったの?」
「(裏切り者だからだ)」
即答だった。
「(いかなる理由があろうと、部族を裏切った者は『力の種』にならない。『力の種』となって称えられ鎮魂されることはない。それが掟だ)」
スノウは、「そう」とだけ言って黙ってしまった。
「(おしゃべりが過ぎたようだ。そろそろ行かねばならん。他の悪魔に気づかれぬうちに、『力の種』を安全な場所に移さなければ)」
『番人』のハイランダーは、全員を見回した。
「(人間達よ。スノウとその仲間達よ。ありがとう。私は行く。お前達も元の場所に帰るがいい)」
スノウに目を移し、それからもう一度全員を見回す。
「(さらばだ)」
別れの言葉が頭の中に響いた。それが、キャプテン・イントの最後の言葉だった。

 

スノウは暫くの間、何か考え込んでいるようだった。それからおもむろに笛を取り出すと吹き始めた。
もの悲しい短調の調べが、ハイランドの大洞窟に響いてこだまする。
スノウの目から涙がひと筋流れた。その涙を拭うこともなくスノウは笛を吹き続けた。
それは、部族を裏切り『力の種』とならなかった父への鎮魂歌だった。

 

 

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