【リプレイ風小説 第4話 鎮魂歌】

 

ACT.11 力の種


「コルド!チルド!」
スノウは叫んだ。それは悲鳴に近い叫びだった。
「止まれ!迂闊に近づくな!」
RRの声はしかしスノウの耳には届いていなかった。召喚獣ケルビーを駆ってハイランダー隊長の目の前に転がる本を一直線に目指していた。まるで他の何物をも見えないかのように。
「スノウ、来るぞ!」
RRがもう一度叫んだ。
ゴーンがハイランダー隊長の攻撃を食い止めようとしたがそれも叶わず、無防備に近寄るケルビーを強大なパンチが襲った。
直撃だった。
パンチを受けた衝撃でスノウは乗っていたケルビーから転がり落ちた。丁度目の前に2冊の本が転がっていた。スノウはそれを拾って胸に抱え込む。
「ママ」とつぶやいたスノウの声がハイランダー隊長の放った雷の音にかき消された。
強大なパンチが主の命令を失った召喚獣にもう一度命中する。ダメージを受け過ぎた炎の精霊はこれ以上この世界に実体化することができず、元の世界へと帰ってしまった。
「ケルビーまで」
スノウは自失していた。胸に2冊の本を抱えたまま、地面にへたりこんでいた。
RRの唱えたメテオがハイランダー隊長に命中し更なる追撃を防ぐ。
「スノウ、ぼやぼやするな!」
「でも、私にはもう」
「仲間を見捨ててでも攻略すると言ったお前の決意はそんなものか!」
返事に詰まったスノウにさらに畳み掛ける。
「お前は何も出来ない『小さな』スノウか?」
「違うわ」
スノウは幼子のように左右に首を振った。
「私はもう『小さな』スノウなんかじゃない」
本を抱える腕に力が入る。
「ひとりじゃ歩くことさえ出来なかった、あの頃の私じゃない!」
「ならばやってみろ!最後のハイランダー隊長はお前が倒すんだろ!?」
ハイランダー隊長の足がスノウを踏み潰そうとした。それを、間一髪、地面を転げてかわす。
「倒すわ」
土ぼこりにまみれてもなおその肌は白く、その目は青かった。
「コルドとチルドを本にされても、キャプテン・ハートは私が倒します」
キッパリと言うと、スノウは己が2本の足で立ち上がってハイランダー隊長を睨んだ。その目にはあの青い炎が戻っていた。
「『狂乱の魔術師』、ネクロマンサーのゴーン、時間を稼いで」
その声はいつもの威厳を持ったスノウの声だった。

 

合計3発のメテオを撃ち込んだ。相応のダメージが蓄積しているはずだったが、なお、ハイランダー隊長は立っていた。
「オラひとりじゃ、いつまでももたないだーよ!」
攻撃を捨て、防御に徹して時間を稼いでいたゴーンが叫んだ。
「もう少し、食い止めて」
そう言うとスノウは笛を吹き続けた。笛の音に呼応して2体の召喚獣、風の精霊と水の精霊が召喚される。
「ウェンディー、スウェルファー、突撃」
新たに召喚した2体の召喚獣に向かって命令すると、今度は自分が的にならないようにジグザグに走った。走りながらながら笛を吹く。普段ならば、炎の精霊ケルビーに命じていることを今は自分の足でやるしかない。スノウは慣れない足取りで必死に走り続けた。

 

風の精霊が放った術がカマイタチとなって皮を切り裂き、水の精霊の放った魔法の泡が弾けて身体を凍てつかせる。
反撃しろと悪魔は命じたが、しかし、キャプテン・ハートは動かなかった。いや、動けないでいた。攻撃を受けても、もうどうでもよかった。
その目はビーストテイマーの少女の走る姿に釘付けになっていた。
悪魔は慌てた。このままでは道連れになってしまう。キャプテン・ハートの背中から抜け出そうともがく。しかし、腰の辺りまで抜け出したとき、なぜかそれ以上抜けなくなってしまった。
キャプテン・ハートは石化していた。未だ体内に残った悪魔の下半身も一緒に。
背中で身動きできなくなった悪魔に、2体の召喚獣が迫った。
「(やめろ!つながったままで私を殺せば、お前の父親も死ぬぞ!)」
悪魔の声が頭の中に響いた。
スノウは冷たい視線を悪魔に向けた。
「構わないわ。それが私の目的なんだから」
そう答えると、2体の召喚獣に突撃命令を下した。

 

スノウは砕けたハイランダー隊長の欠片の中から、金色に光る鍵を拾い上げた。しばらくの間、石化して砕けた遺骸を見つめる。
「これで鍵は4つ揃いましたね。あとは、彫像の中から力の種を取り出して『番人』に渡すだけですね」
アインの言葉に「ええ」と答えると、スノウはRRに視線を向けた。
「もう一度答えて、『狂乱の魔術師』」
「何だ?」
いつものようにぶっきら棒な言い方で応える。
「確かに、私はこの手でキャプテン・ハートを倒すことが目的だったわ。でもそれは私の勝手な事情であなた達には関係のない話。この『秘密ダンジョン』を攻略するためなら誰が倒しても構わなかった。実際、貴方のメテオなら、悪魔もろともキャプテン・ハートを倒せたはずよ。なのに貴方は私を見捨てなかった。時間を稼いで私に討たせてくれた」
スノウは真っ直ぐにRRの目を見た。
「貴方、本当に仲間を見捨てて『秘密ダンジョン』に置き去りにしたの?」
この問いにRRは「さてな」と答えただけで、あとは何も言わなかった。

 

『秘密ダンジョン』の洞窟の真ん中に広がる大きな広場に彫像はあった。RR、トミー、ロンド、スノウの4人はそれぞれ手にした金色の鍵を彫像の台座にある鍵穴に差し込んだ。
右回りに鍵を回すとカチリと音がした。
4つの鍵全てを回すと台座が持ち上がり、その下に蓋のついた大きな壺が入っていた。蓋をとって中をあらためると、中には宝石のような紅い結晶がびっしりと詰まっていた。
「『力の種』に間違いないわ」
一同がほっとしたときだった。洞窟の中を甲高い悪魔の笑い声が響いた。
彫像を中心にして5つの方向からそれぞれひとりづつ、計5人の悪魔が暗がりから姿を見せた。
「(ご苦労だったね、人間。我等が開けられなかった鍵をよくぞ開けてくれた。礼を言うよ)」
そう言うと、いっそう高らかに笑い声を上げた。
「(『力の種』は我等の物。さっさとこっちによこしな)」
言い終わらないうちに、メテオの閃光が辺りを包んだ。閃光と爆風に乗って、トミー、ゴーン、ロンド、ドランクと2体の召喚獣が悪魔にとりつく。
「悪魔に碧い笛を吹かせないで。たたみかけて」
スノウの指示が洞窟に響いた。

 

 

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