【リプレイ風小説 第4話 鎮魂歌】

 

ACT.10 悪魔の緋(あか)い笛


3つめの鍵を手に入れて、一行は右手の奥から手前へと薄暗い洞窟を移動していた。途中、数体の『狂ったハイランダー』や狼に遭遇し、危うく命を落としそうになる場面もあったが、スノウの的確な指示によって全員でこれを殲滅した。
「最後のハイランダー隊長は、私が倒します」
歩きながらアインは、スノウの宣言を頭の中で反芻した。その言葉には有無を言わせぬ迫力があった。いや、決意と言った方がいいかも知れない。
スノウは優秀なリーダーだ。瞬時に状況を判断し対策を立て的確な指示を出す。普段から神獣や召喚獣を使役しているため、パーティーのリーダーには向いているのかも知れない。そのスノウが自ら言うのだ。勝算はあるのだろう。
しかし。
『秘密ダンジョン』の攻略を最優先すると言ったスノウの初めての自己主張に戸惑いも感じる。
スノウの事情は分からない。本人が語らない以上それを知る術をアインは知らない。恐らくスノウの初めての自己主張はそれに起因するものに違いない。一体いかな事情があるというのだろう?
ここまで考えて、アインは考えるのを止めにした。
どの道『秘密ダンジョン』を攻略するには最後に残ったハイランダー隊長を倒して鍵を手に入れなければならないのだ。誰が倒しても大差ない。アインは自分に言い聞かせた。
しかし、心に引っかかるものもあった。折角こうして同じパーティーの一員として命を賭けた冒険をしているというのに、これで仲間と言えるだろうか。スノウが何も語らないのがアインは歯がゆくてならなかった。

 

「(久しぶりだな、小さなスノウ)」
妖気漂う暗がりから最後のハイランダー隊長が語りかけてきた。ハイランダー隊長は、召喚獣に乗ったスノウを眺めた。
「(元気そうで何よりだ、我が娘よ)」
スノウは冷たい視線をハイランダー隊長に向けた。
「部族を裏切った貴方に娘と呼ばれる覚えはないわ」
「(そうだったな)」
このやりとりに、スノウを除く7人は息を飲んで見守る他なかった。
「それに、私はもう何も出来ない『小さな』スノウじゃないわ」
ハイランダー隊長は笑った。見下したような笑い声が頭の中に響いた。
「私のことを覚えているのね。他の2人は忘れてるみたいだったのに」
「(キャプテン・ストラは『知性』と引き換えに『力』を得たからな。覚えていたとしても分からなかったのだろう。『記憶』を代償に『速さ』を得たキャプテン・デックスは文字通り忘れていたというわけだ)」
「それで、貴方は悪魔と契約して何を得たというの」
「(私にとって最も価値のあるものだ)」
「私利私欲のために部族を裏切ったと?」
「(結果的にそうなる)」
「そう」
スノウの氷のような冷たい視線に青い炎が点いたように見えた。
「ならば、心置きなく裏切り者を始末できるわ」
「(やってみるがいい)」
ハイランダー隊長が天上に向かって右手を上げると眩い光と耳をつんざく轟音を伴って雷が降り注いだ。一瞬早くシップが唱えた呪文がスノウの目の前に光の盾となって現れ、雷をはじいた。
「コルド、チルド、連続攻撃。ネクロマンサーのゴーンは低下の呪術をかけて。ビショップのシップは皆に魔法防御の呪文を。『狂乱の魔術師』は援護と、コルドとチルドの回復をお願い。他の者は周りに気をつけて。どこかに悪魔が潜んでいるはずよ。最も誇り高きハイランダー隊長、キャプテン・ハートを誘惑した狡猾な悪魔がね」
スノウの号令一閃全員が堰を切ったように動き出す。
RRが放ったメテオの閃光に紛れて2頭のユニコーンがハイランダー隊長の正面に現れ、その横からゴーンがネクロマンサーの呪術を唱える。ハイランダー隊長はこれを雷と己が拳をもって迎える。光の盾が雷をはじき返すが、防ぎきれなかった分の雷が身体にダメージを刻む。それをシップの呪文が癒していった。
その間、トミー、ロンド、ドランク、アインの4人は手分けして妖気に満ちた暗がりの中を探索したが何も見つけることは出来なかった。
「スノウさん、どこにも悪魔はいません!」
「そんなはずはないわ。この妖気は悪魔のもの。きっとどこかに潜んでいるはず。もっとよく捜して」
そうアインに指示を飛ばしたとき、どこからともなく悪魔の笑い声が聞こえてきた。

 

娘を攻撃しろという悪魔の声が聞こえた。
目の前の神獣が邪魔で出来ないのだと言い訳をする。
ならば、攻撃しやすくしてやろうと悪魔が答えた。
なぜ、自分を苦しめるのかと問う。
わかっているはずだと、悪魔が答える。
望みをかなえる代償として『心』を貰った。貰ったものをどう使おうが勝手だろう。それが契約というものだと、悪魔は続けた。
裏切り者の誹りを受けたときのお前の『心』は美味だった。実にすばらしい。
では、自分の手で娘を殺したとしたらお前の『心』がどんな味になるのか楽しみだと、悪魔は笑った。

 

耳障りな悪魔の笑い声が洞窟に響いた。笑い声は暗がりの中、壁に当たって反響し、いったいどこから聞こえてくるのかわからなかった。
悪魔の姿を見つけられないでいると、今度は、甲高いあの碧い笛の音が聞こえた。地面からトゲのついたイバラの蔦が伸びる。悪魔を探すことに集中していた、トミー、ロンド、ドランク、アインの4人が一歩逃げ遅れてイバラに絡め取られてしまった。
「いただーよ!」
ゴーンが叫んだ。
「背中だーよ!」
ハイランダー隊長の大きな背中、丁度心臓の反対側の部分から悪魔の上半身が胸の辺りまで生えていた。正面からは全く死角になって見つからないはずだ。ゴーンがそれに気づいたのも偶然に過ぎなかった。
ゴーンが自分を見ているのに気づくと悪魔は耳まで裂けた口でニヤリと笑った。そして、緋い色の小さな笛を口に咥える。碧い笛とはまた違った甲高い、そして神経に障る音が洞窟に響いた。
異変が起きた。
緋い笛の音が響くと同時に、2頭のユニコーンの動きがピタリと止まった。かと思うと2頭は緋い光に包まれた。
網膜を通じて脳を傷めるような禍々しい緋い光。光がおさまったときそこに神獣の姿はなかった。
代わりに2冊の本が転がっていた。

 

 

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