【リプレイ風小説 第4話 鎮魂歌】

 

ACT.9 ウィークポイント


物凄い勢いのタックルに弾き飛ばされ、アインは洞窟の壁に激突した。瞬間、左の中指にはめた『急所外しの指輪』が光り、あわや頭蓋が砕けるポイントを僅かにずらした。体力を半分以上持っていかれたが、まだ生きている。
「(あの一撃を受けて生きているとは驚きだ)」
目の前のハイランダー隊長の声が頭の中に響いた。大きな足が頭を潰そうと踏み下ろされたとき既にアインはそこにいなかった。強力な足踏みをしたところに大きな凹みができていた。
危ないところだった。もう一歩『テレポーテーション』の呪文を唱えるのが遅かったらと思うとぞっとする。
ハイランダー隊長は踏み抜いた地面の凹みから足を抜くとゆっくりと振り向いた。
「(我は我より速き者を認めない)」
そう言って、アインに次のタックルを仕掛けるため体制を整えた。
「待ちな、お前の相手はアタシ達がするよ」
「ロンドさん、ドランクさんも!さっきの笛、無事だったんですか?」
「無事だよーん」
答えるとドランクはグビリと火酒をひと口飲んだ。
「ああ、トミーとシップはイバラに捕まっちまったけどね」

 

最も速き者の称号である『キャプテン・デックス』を拝命してもどこか満足できなかった。確かに自分のタックルは他の追随を許さない程速い。ハイランダーの中で一番だ。しかし、これで終わりではない。まだまだ高みがあるはずだ。それを目指し日々鍛錬を積んだ。自分はもっと速くなれる。ずっとそう思っていた。
だが、現実はそうではなかった。いくら鍛錬を積んでも現状を超えることはできなかった。挫折の日々だった。そして自分に絶望していた。
キャプテン・ストラが悪魔と取引をしたことはすぐに自分の耳にも入ったきた。結果、強大な力を得たことも。それを聞いたとき、頭に不遜な考えが芽生えた。
自分も悪魔と取引したい。そうすればもっと速くなれる。
いつしか、悪魔が自分の前に現れるのを心待ちにしていた。
ようやく悪魔が目の前に現れたとき、キャプテン・デックスは自分から取引を持ちかけた。自分をもっと速くして欲しいと。悪魔は笑った。そして望みを叶える代償として今までの全ての記憶を要求した。是非もない。キャプテンデックスはふたつ返事で承知した。
速さを得る代わりに全ての記憶を失う。それは、今までの自分との決別だった。

 

アインが唱えた『ヘイスト』の呪文の効果が動きを数倍の速さにしてくれているというのに、キャプテン・デックスが繰り出すタックルを避けるのは至難の業だった。将に紙一重で避け、避けながら反撃する。
ここで不思議なことが起こっていた。
流れる水のように流麗なロンドの槍はことごとくかわされているというのに、酔っ払ったドランクの攻撃は的確に命中していた。
「いったいどういうことだい!?なんでアタシの槍だけ当たらない!」
ロンドは苛立たしげに叫んだ。
「そんなん知らないよん。おっと」
酔っ払って足がもつれて倒れそうになったところを宙返りし、その足が偶然に魔物の頸部にクリティカルにヒットした。
「なんで酔っ払いの攻撃が当たるっていうんだい!」
「ロンドちゃんも、火酒呑む?」
「いらん!」
言い捨てると、目にも止まらぬ速さで槍を繰り出す。
「それに、アタシをちゃん付けで呼ぶな!」
しかしロンドの攻撃は全て、いなし、受け止め、受け流されてしまった。
「くそ!」
ロンドが悪態をついたとき、頭の中に声が聞こえた。
「(わかりました!)」
声はアインからの『耳(コンタクト)』だった。
「(なに?)」
ロンドも耳でアインに返す。
「(どうしてドランクさんの攻撃が当たるのかわかったんです)」
「(どういうことだ)」
「(フェイントです。キャプテン・デックスは正攻法には滅法強いけど、フェイントに弱いんです。まるでフェイントを知らないみたいに)」

 

悪魔の鞭が神獣の白い身体に打ち付けられ表皮を引き裂いた。
「ひるまないで。チルド、コルド、そのまま攻撃」
スノウは神獣に指示してまた笛を吹く。物悲しい短調の調べに従い2体のユニコーンは悪魔に鋭い角を突き刺した。
ユニコーン達に並んでゴーンが妖しげな呪術を悪魔に向かって唱える。
「悪魔に碧い笛を吹かせるな!」
叫ぶと、RRはアースヒールの呪文でユニコーンの傷を癒した。

 

人間が唱えた呪文が凄まじい熱と爆風を巻き起こした。眩い光に包まれて視界は奪われ真っ白な闇と化す。体力を少し持って行かれたが、しかしそれだけのこと。大したことではない。
時間の経過と共に白い闇は薄れ、その中に槍を持った赤い髪の人間が立っているのが見えた。赤い髪の人間はその場に突っ立っていた。恐らく未だ視力が回復していないのだろう。好機到来だ。身構えて自慢のタックルをお見舞いする。ドスンと鈍い音がして確かな手ごたえを感じた。恐らく人間は苦悶の表情を浮かべて絶命しているに違いない。そう思って憐れな犠牲者の顔を見る。しかし、そうではなかった。赤い髪の人間は笑っていた。まるで勝利を確信したように笑って、消えてしまった。
次の瞬間、背中に鋭い痛みを感じた。背中から深々と刺さった槍が心臓を貫いていた。振り向くとそこにさっきの赤い髪の人間が見えた。
では、さっき倒した人間はなんだったのか?
その答えをキャプテン・デックスが知ることは永遠に無かった。

 

一瞬であった。
悪魔の鞭のひと振りが、2体のユニコーンとネクロマンサーのゴーンに同時にヒットしたのはおそらく偶然だろう。しかし、一瞬ひるんで攻撃の手が止まってしまった。その機会を悪魔は見逃さなかった。
悪魔は素早く小さな碧い笛を取り出した。それを口に咥えようとしたのと、RRが咄嗟に呪文を唱えたのとが同時だった。
次の瞬間、悪魔は静止していた。笛を口に咥えようとしたまま石化していた。
ゴーンが笛を持った手にソードを振り下ろすと、石化した腕は粉々に砕けてしまった。

 

ロンドは血溜りの中から金色に光る鍵を拾い上げた。
「やりましたね、見事なフェイントでした」
アインが声を掛けると、ロンドはゆっくりと首を横に振った。
「アタシじゃないよ。あの幻影を作ったのはアタシだけど、メテオで目くらまししてくれたのもフェイントのことに気がついたのもアンタだからね、支援」
今度はアインが首を横に振った。
「いいえ。自分がそのことに気がついたのは、ドランクさんの攻撃があったからです」
「そうだったな」
2人はドランクの方を見た。酔いどれ武道家は地面に座り込んでいた。火酒のビンの口を開いてグビリと飲むと、ドランクはひとつシャックリをした。

 

 

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