【リプレイ風小説 第4話 鎮魂歌】

 

ACT.8 スノウの事情


胴体から切り離され、地面に転がってもなお悪魔は笑っていた。
「(人間に『力の種』は渡しはしない。『力の種』は我等のもの)」
笑い続ける悪魔の頭にゴーンがソードを突き立てた。甲高い笑い声がフェードアウトし、それと一緒に悪魔の死体も地面に吸い込まれるように消えてしまった。
悪魔を倒したせいなのか、単に時間が経ったせいなのかは分からないが、生い茂ったイバラは綺麗さっぱり消え失せていた。
「あの碧い笛は厄介ですね」
アインがため息混じりにつぶやいたのに、誰も反論はしなかった。
「キャプテン・イントは他の3人のハイランダー隊長は悪魔の誘惑に負けたと言っていたわ。ならば残った2人のハイランダー隊長の側にも悪魔がいるかも知れない」
「そうですね」
スノウの言葉にアインが応えると、皆一様に口をつぐんだ。
「役割を決めた方がいいな」
「そうね」
沈黙を破ってRRが言った台詞に、スノウが応えた。
「次はおそらくキャプテン・デックス、最速のハイランダーよ。彼のスピードに着いて行けるとすると傭兵のロンドと武道家のドランクね。私と戦士のトミーとネクロマンサーのゴーンとで悪魔を封じます。ビショップのシップと支援ウィズのアイン、『狂乱の魔術師』は後方支援よ」
「そんなところだろうな」
RRが同意する。
「あの・・・」
恐る恐るといった感じでアインがスノウに向かって声をかけた。
「なあに?支援ウィズのアイン」
「『番人』は貴女のことを『小さな』スノウと呼んでいました。貴女も『番人』のことを『キャプテン・イント』と呼んでいましたね」
「それが?」
スノウの冷たい視線に気おされないように続ける。
「貴女は他のハイランダー隊長のことも知っているようです。『秘密ダンジョン』の探索をする前にある程度の下調べはするものですが、貴女は知り過ぎている」
アインは言葉を続けた。
「いったい貴女は誰なんですか?なぜハイランダー隊長は貴女のことを知っているんです?貴女の本当の目的はなんなんですか?」
スノウは無言でアインを見つめた。
「貴女は、この『秘密ダンジョン』は絶対に失敗できないと言いました。その理由はなんなんです?」
「個人的なことよ」
スノウが即答したのに少し怯む。
「また事情ですか?ならばその事情を教えてください。この『秘密ダンジョン』は危険過ぎる。自分も冒険者ですから冒険に命をかけるのはやぶさかではないですが、本当のことが知りたい」
アインはなおも見つめて言った。
「仲間ですから」
スノウは「仲間ね」と言ってアインの顔を見つめ返した。その目は今までに無く冷たい目だった。
「確かに私は4人のハイランダー隊長を個人的に知っています。あなたの言うようにこの『秘密ダンジョン』に来たのも個人的な事情があります。でも、その事情がなんであってもあなた達には関係のないことです。自分の役割をこなし『秘密ダンジョン』を攻略して報酬を得る。それがあなた達の目的のはずです。最初に言ったように私はこの『秘密ダンジョン』を絶対にクリアしなければならない。その為に最適なメンバーとしてあなた達を集めました。だから」
スノウの目がいっそう冷たくなった。
「だから、私はこの『秘密ダンジョン』をクリアするためだったら、あなた達の誰かを見捨てることを厭いません。かつて『狂乱の魔術師』がそうしたように」
そう言ってチラリとRRに視線を向けてまたすぐにアインに戻した。
「私もこの中の誰かを見捨てるような事態は望むところではありません。ですからクリアの手助けとして私が個人的に知っていることを情報として提供します」
アインはひとつ息を飲み込んでから口を開いた。
「自分は、いや、自分達は仲間ではないと?」
「いいえ、仲間よ。『秘密ダンジョン』を攻略するために必要なね」
スノウは当然のように言ってのけた。
それ以上返す言葉が見つからず、アインは押し黙ってしまった。同じ「仲間」という言葉がどうしてこんなに違うのだろうかと思い悩んだ。
「もういいかしら?支援ウィズのアイン」
そう問われてようやく口を開き「ええ」とだけ答えた。

 

いつにないピンと張り詰めた緊張感を感じながら一行は先に進んだ。それはこの『秘密ダンジョン』に巣くう魔物の強さと、先ほどの問答の両方から来たものだった。その緊張感が功を奏したのか、次々に現れる強大な魔物を一行は撃破していった。
洞窟の右の一番奥の区画に一行が足を踏み入れたときだった。またも淀んだ空気の中に禍々しい妖気が漂っているのを感じた。緊張がいや増し、鼓動が速くなるのを感じる。そのときだった。一陣の風が一行の間を吹き抜けたかと思うとドスンと鈍い音がして、アインが宙を舞っていた。
張り詰めた糸が切れたときのように一瞬全員の動きが止まった。その瞬間、甲高い笛の音が洞窟に響き、地面から鋭いトゲのついたイバラが伸びてきた。
闇の中から悪魔の耳障りな笑い声が聞こえた。

 

 

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