【リプレイ風小説 第4話 鎮魂歌】

 

ACT.7 最終奥義


 ゴーンが命を賭してハイランダー隊長に呪術をかけたのをトミーは知っていた。その効果でハイランダー隊長の力は数分の1に低下されている筈だった。
にもかかわらず、これ程の力を発揮するとは。もしゴーンの呪術が効いていなかったらと思うとぞっとする。
しかしだ。しかし、ただそれだけだとトミーは感じていた。
歴戦の戦士であるトミーは何度も死線をくぐり抜けてきた。『力』が信条の戦士であるがそれだけでは一流とは言えない。
『技』でもない。
戦士にとって『技』も大事ではあるが、圧倒的な『力』はそれさえも陵駕することがある。
大切なのは駆け引きだ。
死線の中での駆け引きは自分の『力』を10倍にも100倍にもしてくれる。トミーはそれを戦いの中で学び身につけていた。
今、対峙しているこの敵は、『力』こそ強大だがただそれだけで、全く駆け引きを知らなかった。
トミーはハイランダー隊長の呼吸を読んだ。
吸う、吐く、吸う、吐く。
呼吸のリズムに合わせて吸った瞬間に力を込める。息を吸う瞬間に力が入らないのは人も魔物も同じだ。トミーは呼吸を読みながら根気よく力を込め、序々に拳を押し返していった。
魔物は驚いていた。何が起きているのか理解できないようだったった。無闇やたらに力を込めて押し返そうとしたがもう遅い。トミーは遂には力で圧倒し、ハイランダー隊長に尻もちをつかせた。

 

「(おのれ、人間め!)」
悪魔はハイランダー隊長がトミーとの力比べに負けて劣勢に立ったのを見るや、再び碧い笛を吹こうとした。すかさずゴーンが小さな笛を持った悪魔の左腕を切り落とす。
「戦闘中に余所見はよくないだーよ」
そう言って、地面に落ちた左腕を、その手に持った笛ごと遠くへ蹴り飛ばした。

 

尻もちをついたままハイランダー隊長はトミーを見上げた。その目は明らかに驚きの色をしていた。
魔物に止めを刺そうと大剣を振り上げたとき、悪魔の鞭が腕に絡まりトミーの動きを封じた。力任せに鞭を引っ張ると悪魔は大きく前のめりになる。隙ができたところへゴーンがソードを振り下ろすと、まるで熟れたリンゴが落ちるようにボトリと悪魔の頭が地面に転がった。
ようやく鞭がほどけ自由に大剣を振るえるようになったが、ハイランダー隊長が再び体制を整えるには充分な時間を与えてしまった。
トミーは目の前の立ち上がったハイランダー隊長を見上げて思案した。
勝負は既についていた。今の状態ならばもう一度力比べをしても結果は同じだろう。しかし、それはゴーンの低下の呪術が効いている間に限る。もし、力比べの最中に術が切れればやっかいなことになる。ならば、急いだ方がいい。
トミーは大剣を地面と水平に構えると気を集中する。
構えた大剣に『心の力』が集まり、それに従って、だんだんと青白く輝き始めた。
大剣が眩い光につつまれたとき、トミーはぐるりと一回転した。
気の宿った大剣が空気を水平に切り裂く。何もないはずの空間が裂け、そこから眩い光を放つエネルギーの塊がドラゴンの姿となって溢れ出た。
最終奥義『ドラゴンツイスター』の完成だ。
ハイランダー隊長を襲ったドラゴンツイスターは、そのエネルギーで体力を奪うと共にすっかり暗闇に慣れていた目から視界を奪った。眩い光に目がくらむ。その光の中に戦士がいた。
数秒の間凄まじいエネルギーをばら撒いて暴れ回ったドラゴンツイスターが四散し、洞窟が本来の暗さを取り戻したとき、戦闘は既に終了していた。
トミーの大剣が根元までハイランダー隊長の腹に突き刺さっていた。
思い出したように大量の血を吐き出す。チャリンと音がして、赤黒い血に混じって金色に光るものが転がった。瀕死のハイランダー隊長はそれを拾うとトミーに向かって差し出した。
「(おまえ、つよい)」
頭の中に声が響いた。差し出された光るものを受け取ると、もう一度血を吐いてハイランダー隊長は絶命した。
トミーは受け取ったものを見た。それは血にまみれた金色の鍵だった。

 

 

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