【リプレイ風小説 第4話 鎮魂歌】

 

ACT.6 力と力


こと力に関しては、自分の右に出るものはいない。それは自他共に認めるところであった。故に『キャプテン・ストラ』の名を冠され、ハイランダー隊長の要職に就いたのだ。
しかし、ある日悪魔がやってきてこんなことを言った。確かにお前の力はハイランダーの中では一番かも知れない。では、それ以外ではどうだろうと。
世界は広い。このハイランドの地など、世界の途方もない広さに比べたらちっぽけなことこの上ないと悪魔は言った。
その広い世界のいたるところに人間は棲みつき、その数はハイランダーの数千倍も数万倍もいる。途方もない数だ。中にはハイランダーをも凌駕する力を持った人間がいるかも知れない。ひょっとしたら、お前を上回る力を持った人間も。もしそんな人間がこのハイランドの地に攻めて来たとしたら、果たして守りきれるか?
困惑した。そんなことがあろうとは考えたこともなかった。困惑して悪魔の問いに答えることが出来なかった。
そのときから不安がいつも頭の片隅にあって離れなくなった。
もっと強くならなければ。不安が日々のトレーニングに駆り立てる。トレーニングをするわずかな間だけ不安を忘れることができた。しかしそれも束の間の夢であり、すぐにまた自分より強い人間が攻めてくるのではないかと怯えた。その繰り返しだった。
強くなりたかった。
力が欲しいかと悪魔は言った。もし望むのならば、力を今の倍にしてやってもいいと。
そんなことが出来るのならば願ったりだ。
しかし、望みを叶えるにはそれに見合う対価が必要だ。それが契約というものだと悪魔は続けた。
途方にくれる。望みに見合う対価と言われても何も持っていないと答えると、悪魔はこう提案した。ならば、力を倍にする代わりに知性を貰おう。知性が無くなれば、考えることが出来なくなる。そうすれば今頭を悩ませている不安も消える。一石二鳥だろうと。
なに、心配はいらない。お前の代わりに私が考えてやる。お前は私の言うとおりにすればいいのだ。
それはとても魅惑的な提案だった。

 

ビショップの最終魔法『リザレクション』は『死』んだ冒険者を『生き返』らせる究極の魔法だ。その代償として大量の『心の力』を消費する。『秘密ダンジョン』の探検行では言わば保険であり、奥の手である。その保険をこんなに乱発したことなどシップは今まで経験したことがなかった。
決してこのパーティーが弱いわけではない。個々のポテンシャルをとってもバランスをとっても文句をつけるところはなかった。
つまりこの『秘密ダンジョン』の魔物が強いのだ。北の果ての辺境の地に、このような強力な魔物の棲む『秘密ダンジョン』があろうとは、世界はまだまだ広い。きっとこれも神の与え給うた試練に違いないとシップは思った。
ゴーンは『死』んでいた。ハイランダー隊長のパンチをまともに受けて無残にも頭蓋が砕けていた。恐らく即死だったであろう。
精神を集中して『心の力』を集め『リザレクション』を唱える。みるみるうちに砕けた頭蓋が修復され元の形を形成する。すっかり元に戻るとゴーンはげほげほと咳き込んで口から血の混じった唾を吐き出した。ゴーンは『生き返』った。
「ありがとうだーよ。助かっただーよ」
「あの強力なパンチの前に飛び出すなんて、無茶ですよ」
「でも、代償はキッチリ貰っただーよ」
なんのことを言っているのかシップには分からなかったが、目深に被ったフードの奥の目が笑っているように見えた。その視線の先にトミーとハイランダー隊長の姿があった。
「低下成功だーよ」

 

トゲのついたイバラの蔦は後から後から伸びて体中に巻きついた。鋭いトゲが肌に食い込みどんどんと体力を奪う。逃れようともがくと余計に食い込んで体力が奪われた。
痛みをこらえ、イバラのトゲに肌を引き裂かれながら2人のウィザードはアースヒールの呪文を唱えた。しかし後から後から体力を奪われ回復が追いつかない。一歩回復が遅れれば誰かが『死』んでしまうかも知れない。そう思ったときだった。パーティーの全員が身体の中からこんこんと命の力が湧き上がるのを感じた。
「すみません、ゴーンさんを回復するのに手間取ってしまって。私が皆さんの体力を回復しますから、脱出に専念してください」
そう言うとシップは右手に持ったホールを前に突き出して呪文を唱えた。先ほどと同じく全員の身体から命の力が湧きあがり、イバラのトゲが食い込んだ傷を癒していった。

 

互角だった。
強大な拳を両手持ちの大剣で受け止めたまま2人は全く動かなかった。ハイランダー隊長の筋肉が小刻みに震えていた。トミーの全身の筋肉もまた硬い鎧の中で痙攣していた。静かな力比べだった。
「(お前の力はそんなもんじゃないハズだよ、キャプテン・ストラ)」
悪魔の呼びかけにハイランダー隊長は全く反応しなかった。
「(自分の名前すら分からないとは、とんだ誤算だよ)」
無反応なのに舌打ちする。
「(なら、アタシが加勢してやる!)」
鞭を振り上げてトミー目掛けて振り下ろす瞬間、黒い炎を纏ったソードが鞭を跳ね上げ、返す刀で悪魔を斬りつけた。すんでのところでソードを避けたため致命傷を与えることは叶わなかったが、悪魔の腹部に真一文字に刀傷を刻んだ。黒い炎に焼かれて傷口から煙がひと筋立ち昇る。
「トミちゃんはやらせないだーよ。オラが相手するだーよ」
怒りに燃えた目でゴーンを睨む。
「(お前が邪魔しようが関係ない、私が与えた『力』はこんなもんじゃないからね)」
また、甲高い悪魔の笑い声が洞窟の中に響いた。

 

 

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