【リプレイ風小説 第4話 鎮魂歌】

 

ACT.4 リドル


目の前の光を失い、上も下もわからない『秘密ダンジョン』に入るときのいつもの感覚がアインを襲った。何度経験してもこの感覚に慣れることが出来ない。この感覚から解き放たれ五感を取り戻すときに、軽いめまいと吐き気をもよおす。いわゆる『秘密酔い』は、最早、アインの持病と言ってよかった。しかし、このときばかりは『秘密酔い』を感じる暇はなかった。光を取り戻しようやく視力が元に戻ったとき、目の前に巨人が立ちはだかっていたからだ。
「て、敵!?」
咄嗟に杖を振り上げて最終魔法『メテオシャワー』を唱えようとするアインを、RRが遮った。
「待て、支援君」
「RRさん、何を・・・」
「『番人』だ」
『秘密ダンジョン』にはそれを守る『番人』がいることが多い。『番人』は男であったり女であったり、また、人であったりそうでなかったりと実に様々だ。どうやらこのハイランド洞窟の『秘密ダンジョン』の『番人』は、巨人・ハイランダーであるらしい。
「『番人』ですか」
鸚鵡返しに言って、杖を下ろす。正直ほっとする。アインは自分の背中にいやな汗が流れているのに気がついた。
「(人間よ、お前達の群のリーダーは誰か?)」
全員の頭の中に目の前のハイランダーのものらしい声が響いた。
「私よ」
ケルビーに乗ったスノウが臆することなく応えた。一瞬、ハイランダーが眉をひそめたように感じた。
「(お前がリーダーか。小さなスノウよ)」
「その呼び方は止めていただきたいわ、キャプテン・イント。私はもう何も出来ない『小さな』スノウじゃないわ」
「(よかろう)」
ハイランダーが目を細めた。
「(では、スノウとその仲間の人間達よ、お前達に頼みたいことがある)」
全員が固唾を飲んで見守るなか、ハイランダーは語った。
「(我々ハイランダーは、死ぬと『力の種』と呼ばれる小さな結晶になる。お前達人間のように屍を残すことはない。『力の種』はハイランダーが生きた証であり神聖な物なのだ。ここはその『力の種』を安置する墓所である)」
ネクロマンサーのゴーンが「墓所」という言葉に反応して目を輝かせた。
「(しかし、何を思ったのか悪魔どもが『力の種』を狙ってこの神聖な墓所へとやってきたのだ。やつらは以前から我等の強力な力を手に入れようと、このハイランドの地へと度々訪れては、魅惑的な条件で我等の仲間を誘惑した。どうやら悪魔どもは『力の種』が我等ハイランダーの力の源だとでも思っているらしい)」
ハイランダーは続けた。
「(『力の種』はこの『秘密ダンジョン』の真ん中の広場にある彫像の中に保管されている。彫像から『力の種』を取り出すには、私を含めて4人いるこの墓所を守るハイランダー隊長が、それぞれ持った4つの鍵が必要なのだが・・・)」
ここでハイランダーは一瞬言葉を詰まらせた。
「(残念ながら私を除く3人の隊長は、悪魔の誘惑に負けてしまった)」
ハイランダーは暫く沈黙した。
「(悪魔はどんな手を使ってくるかわからない。私が誘惑に負けないとしても策略を巡らして私に鍵を使わせるかも知れない。そうなる前に私は『力の種』を悪魔どもの知らない別な場所に移すことにした。そこでお前達人間に頼みたいのだ。)」
「鍵を手に入れて、『力の種』を持って来いと?」
そう言ったRRをハイランダーは一瞥した。
「(そうだ。ただし・・・)」
ハイランダーは更に続けた。
「(ただし、4つの鍵はその鍵を持つハイランダー隊長を倒すか、ハイランダー隊長が認めた者にしか使うことができない)」
「随分と条件が厳しそうですね」
ひとり言が思わずアインの口をついて出た。ハイランダーが今度はギロリとアインの方を見た。
「いや、条件が厳しい方がやりがいがあるというものです」
慌てて付け加えると、ハイランダーはまあいいとばかりに、視線をアインからスノウへと移した。
「(引き受けてくれるか、スノウよ)」
ビーストテイマーの少女はその青い目をまっすぐにハイランダーに向けた。
「引き受けます。そのためにここに来たんだから」
ハイランダーが、そうかと言ったのが頭の中に響いた。
「(ならば、お前とその仲間達に託すこととしよう)」
「それで、貴方が持つ鍵はどうやったら渡してくれるんだ?」
また、RRを一瞥する。
「(物分りがいいな。鍵は私が認めた者にしか渡すことができない。ひとつ試させて貰う。私の問いに満足のいく答えを出してくれたら、鍵を渡そう。いいかな?)」
「それでいいわ、キャプテン・イント」
ハイランダーが大きく頷く。
「(では問おう。人が生きるために必要なもの。これがあるからこそ人は行動する。持つことはできるが触ることはできない。捨てることはできるが拾うことはできない。これは何か?)」
空気が重くなった。
腕を組む者、下を向く者、最初から寝てる者(これはドランクだけだが)、皆思い思いの格好で考えた。
「うーん、お墓じゃないだーよね?」
「それじゃ生きるためにじゃなくて、死んだあとに必要なものでしょ」
ゴーンが本気で言っているのか疑ったが、どうやら本気のようだった。
「ウィザードってヤツは、頭いいんだろ?おふたりさんに任せたよ」
「いや、えと、はい。ちょっと待ってください」
ロンドの言葉に、アインはしどろもどろで答えた。額に脂汗が滲む。するとRRが口を開いた。
「答えは『夢』だ」
ハイランダーがほうと言ったのが頭の中に響いた。
「夢があるから人は生きることが出来るし、夢を実現するために人は行動もする。夢は持つことはできるが触ることはできない。捨てることはできるが夢を拾うことなどできるはずもない」
「(なるほど)」
「そもそも、このリドルの答えはひとつではない。如何に出題者を納得させる答えを出すかが鍵だ。自分も2つ思いついたが『夢』の方がふさわしいと考えた」
「(それでもうひとつの答えとは?)」
「『欲望』だ」
しばらくの間、沈黙が支配した。
「(もし、もうひとつの答えだったら、私はお前を殺していただろう)」
「だろうな」
RRは平然と言ってのけた。
「(よかろう、認めよう賢き者よ。お前にこの鍵を託そう)」
ハイランダーの手から金色に輝く鍵がRRへと渡された。
「(頼んだぞ、スノウとその仲間達よ)」
「ええ、残る3つの鍵を手に入れて、必ず『力の種』を持ってくるわ、キャプテン・イント」
スノウはハイランダーに手を上げて別れの合図を送るとケルビーに命じて背を向けた。残る7人もその後に続いた。

 

 

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