【リプレイ風小説 第4話 鎮魂歌】

 

ACT.3 リーダー・スノウ


「遠路はるばるご苦労様。私がリーダーのスノウ。ご覧の通りビーストテイマーよ」
RR達3人を迎えて少女は奇妙な赤い獣に乗ったまま言った。
両隣に2頭の真っ白な神獣ユニコーンを従えた少女の肌もまた雪のように白かった。
「支援ちゃん、久しぶりだーよ!」
スッポリと頭巾を被って目しか見えない格好だが、その特徴のあるしゃべり方には覚えがある。
「ゴーンさんも来てたんですか」
「来てたんだーよ」
目しか見えないが、ネクロマンサーはどうやら再会を喜んでいるらしい。
「支援ちゃんの『ファイヤーエンチャント』は一級品だーよ。トミちゃんにかけたら、スゴイことになるだーよ!」
「いえ、それほどでも・・・」
そこまで言ってアインは言葉を失った。ゴーンの後ろにあった岩が急に動きだしたからだ。薄暗がりの中、岩と見間違っていたのも無理はない。全身鎧に包まれたゴーンの倍もある巨体を人と認識するのはおそらく白日の下であっても難しいだろう。よくてオーガと見まがうのが関の山だ。
そのオーガモドキが大きな右手をアインに向かってぬっと差し出したのだ。
「戦士のトミちゃんだーよ」
そう言うと、戦士の目がギロリとゴーンを見据えた。
「トミー」
「そうそう、トミちゃんだーよ」
地を這うような低い声で訂正しても、ゴーンは相変わらず自分が呼びたいように戦士を呼んだ。
「あ、はい。よろしくお願いします」
そう言って右手を差し出す。アインも決して小さい方ではないが、トミーの手はアインの倍は確実にあった。
「ほら、ドランク、起きてシャンとしな!」
「いや、もう呑めないし」
赤い髪の傭兵ロンドに3人の前まで引きずられて来た男は、見当違いの返事を返した。
「どうしたんです?具合でも悪いんですか?」
「違うよ。コレさ」
アインの問いに答えて顎で指し示す。その方に目をやるとドランクが後生大事に抱えた瓶が目に入った。ラベルには『火酒(ファイヤースピリット)』と書かれていた。
「酒?」
「ああ」
ロンドが頷く。
「呑んだくれだけどね。腕のいい武道家なんだよ」
「そそ!腕はいいよん」
そう言って抱えた瓶の栓を抜いてひと口呑み、それをアインに向けて差し出した。
「一杯やる?」
「結構です」
「あ、そう」
いくら腕のいい武道家といっても、こんなに酔っ払っていて、果たして役に立つんだろうか。アインの心配をよそに、ドランクはもうひと口、火酒を口に含んだ。
RR、アイン、シップが3人で古都ブルネンシュティングを出たのが7日前。『フライングカーペット(空飛ぶ絨毯)』を飛ばして2日。ハイランドへと続く2つの大洞窟『カルスト洞窟』と『泉の水の穴』を彷徨うこと5日。こうして3人はようやくパーティーのメンバーと合流することが出来たのだった。
「支援ウィズのアイン、ビショップのシップ、そして貴方が『狂乱の魔術師』RRね」
スノウは3人を順に見回してひとりひとり確かめていった。
「あのう、スノウさん」
「なあに、支援ウィズのアイン」
「初対面で言うのもなんなのですが、挨拶をするのに乗り物に乗ったままというのは失礼じゃないですか」
「随分と細かいことを言うのね。気に障った?」
獣に乗ったまま挨拶をしたことよりも、明らかに年下の少女のこの物言いこそ、気に障った。
「ひとには事情というものがあるのよ。支援ウィズのアイン」
「事情?」
「そう」
獣の上からアインを見下ろす。
「私はね、小さい頃から足が悪いの。全く歩けなかった時期もあるのよ。今は普通に歩くことは出来るけど、速く走ったり、長時間歩いたりすることは苦手なの。だから、いつ敵に襲われるかも知れない危険な場所では、この召喚獣・炎の精霊ケルビーに乗ることにしているのよ。いざというときにパーティーの足手まといにならないように」
少女の目が勝ち誇っているように見えた。それがまた癇に障る。
「お分かりかしら?」
少女が駄目を押すのに、アインはやっとの思いで感情を押さえ「分かりました」と答えた。
「いいのよ。細かいところに気を配るっていうのは、優秀な支援の素養のひとつですもの。許してあげます」
心の中でため息をつく。初対面でこれって先が思いやられる。
「ところで、私、『狂乱の魔術師』に聞きたいことがあるの」
今度はRRを見下ろす。
「なにが聞きたい」
いささかぶっきらぼうないつもの物言いで聞き返す。
「噂では、貴方、『小さい傭兵の墓』の『秘密ダンジョン』にビショップなしで突入したあげく、仲間を見捨てて置いてきぼりにしたんですってね」
「いや、あれは、あのときは・・・」
「あなたは黙っていて、支援ウィズのアイン。私は『狂乱の魔術師』に聞いているの」
スノウの冷たい視線が突き刺さる。アインは沈黙せざるを得なかった。
「噂は本当なの?『狂乱の魔術師』」
今度は、RRに冷たい視線が向けられた。
「本当だとしたら?」
「RRさん!そんな・・・」
アインが思わず叫んだのを、RRが右手で制した。
「そう。噂は本当なのね」
真っ直ぐにRRを見つめる。
「だとしたら?」
RRもまた真っ直ぐに見つめ返す。
「だとしたら、頼もしいわ」
スノウの口元がわずかに緩んで見えた。
「このハイランド洞窟の『秘密ダンジョン』は絶対に失敗できないの。例え仲間を犠牲にしても」
「それがお前自身であってもか?」
RRの問いにスノウは初めて微笑んだ。
「そう。それが私自身であっても」
一同はしんとした。誰かがゴクリと唾を飲み込んだ音がやけに大きく聞こえた。
「それだけ真剣だってこと。皆にも覚悟して欲しいの」
スノウは全員を見回した。
冒険者ならば、誰もが、命の危険と隣り合わせの冒険に身を投じる。安全な冒険などこの世にあろうはずもない。それは既に冒険ではない。いつでも冒険者は真剣だ。そうでなければ危険な冒険の中で生き残ることなど適わない。
しかし、こうして改めて覚悟を問われると答えに逡巡してしまう。
「元より失敗する気など毛頭ない」
RRが沈黙を破った。
それに同調して、全員が頷く。
「やっぱり、噂どおりね。『狂乱の魔術師』。貴方を選んでよかったわ」
スノウはまた微笑みで迎える。
「異論がないのなら、『秘密ダンジョン』の入り口を開きます」
また、コクリと全員が頷く。
それを見届けると、スノウは鞄の中から卵大の輝く『ポータル・クリスタル』を取り出し、洞窟の壁に向かって高く掲げた。

 

 

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