【リプレイ風小説 第4話 鎮魂歌】

 

ACT.2 再会


アインが立て続けに3発撃ち込んだ最終魔法『メテオシャワー』の破裂音が洞窟内に響き渡った。暗い洞窟に閃光が走り、3人の冒険者の視界を奪う。
「だいぶメテオが板に着いてきましたね、アインさん」
「シップさん、ありがとうございます」
ビショップに素直に礼を言う。
「でも、まだまだですよ。RRさんのメテオには到底及びません」
「当然だ」
RRの身も蓋も無い言い方に少し凹む。何もそんな言い方をしなくてもと思う。しかし、『メテオシャワー』を極めたRRからしてみれば、覚えたての自分のメテオがまだまだなのは明白だ。当然と言えば当然だった。しかし、それよりもシップの言葉の方が嬉しかった。
支援WIZのアインにとって、己が魔法で敵を粉砕する経験は、今まではないことだった。それは自分の仕事ではなかった。
しかし、全ての支援魔法を極めた今、アインは次に自分が成すべきことを考えた。考えに考えてひとつの答えにたどり着いた。
パーティーの戦力になること。
これからの冒険は更に厳しくなることだろう。敵もますます強くなる。今までは縁の下の力持ちとして、『ファイヤーエンチャント』や『ヘイスト』でパーティー全体の力を引き上げることに尽力していたが、これからは自分もひとつの戦力として戦闘に加わらなければ。
そのためにアインは数ある攻撃魔法の中から一番威力のある最終魔法『メテオシャワー』を習得した。
単体攻撃に絶大な効果を発揮する『チリングタッチ』は、最前線に立って杖を振るわなければならない。体力に不安のある自分には向かない。既に習得している『ライトニングサンダー』を伸ばすことも考えたが、極めたときの威力がメテオに劣る。極めるのに時間はかかるが長い目で見れば、やはり習得すべきはメテオだと結論づけたのだった。
やがて、メテオの閃光が薄れ、洞窟が本来の暗さを取り戻していった。そこには、メテオで仕留めた巨人の黒こげの死体があるはずだった。しかし、そうではなかった。3発のメテオを受けてなお、人型のモンスターはその2本の脚でしっかりと立っていた。
巨人の目が妖しく光ったかと思うと次の瞬間、物凄い勢いでこちらに突進してきた。
「いけない!下がって!」
重厚な鎧を纏ったシップが盾を構えて2人のウィザードの前に出る。その盾を巨人の足が思いっきり踏み付けにする。グシャリと骨が砕ける音がした。
「ぐふっ!」
「シップさん!」
叫びながらもアインは支援WIZの本能で『アースヒール』の呪文をシップに唱えた。魔力を媒介に地脈から吸い上げた生命の源が砕けた骨をたちまちにして癒していく。
「ありがとうございます、アインさん」
「礼は後です。この巨人をなんとかしないと。RRさんメテオを!」
「ダメだ!コイツのタフネスはメテオと相性が悪い」
「そんな」
一瞬言葉を失う。
「じゃぁ、どうすれば」
「時間を稼ぐ」
杖を振り上げると、RRの杖の先から黒い靄が出て巨人を包み込んだ。靄に包まれた巨人は石になって動かなくなった。
「この術はあまり持たない。今のうちに逃げるんだ」
3人は急いでその場を逃げ出す。RRの言葉どおり石化の術はやがて解け、巨人が怒り狂って追いかけてくる様が見えた。3人は懸命に駈けたが重い鎧を纏ったシップはだんだんと遅れていった。このままでは、巨人に追いつかれるのは時間の問題だった。
「とても逃げ切れません、どうするんですか!?」
「もう一度石化させる。その間に隠れるんだ!」
RRは杖を振るって3度『テレポーテーション』すると、遅れたシップを通り越し、巨人の正面に立ちふさがった。大きく振り上げた拳がRRを捕らえようとしたとき、間一髪、黒い靄が巨人を石化させた。
「RRさんこっちです!」
岩陰からアインが叫んだ。RRは3度テレポーテーションして仲間と合流すると、岩にもたれてひと息ついた。
「すみません。自分の足が遅いばっかりに」
「いいんですよ、そんなこと。仲間なんですから。それにシップさんには他にいろいろと助けて貰っているんですから」
「アインさんにそう言っていただけると助かります」
「うまい具合に隠れることが出来てよかったです」
「そうですね」
「それで、これからどうするんですか?」
「何も」
「え?」
RRの答えにアインは聞き返さずにはいられなかった。
「何もって、このまま岩陰に隠れてるってことですか?」
「そう言うことだ」
「それじゃぁ事態は好転しないじゃないですか」
「ときには待つことも戦略には必要だとは思わないか?支援君」
「それはそうですが」
まただ。また自分はRRに翻弄されている。『狂乱の魔術師』と二つ名で呼ばれるこのウィザードに。
「シップさんはどう思います?」
「さて、私には分かりませんが、きっと神のお導きがあると思いますよ」
「はあ」
自分で聞いておいてなんだが、曖昧な返事をして会話を切り上げる。
アインは考えるのを止めにした。考えてもRRの思考は常に自分の発想を超えている。それはいままでの冒険から学んだことだ。信心深いビショップはどうやら何も考えていないらしいし、この場はRRに任せることにする。
岩陰に隠れて息をひそめていると、石化魔法が解けたらしく、3人を探し回る巨人の足音が岩の向こう側で聞こえた。いったいいつまでここに隠れていればいいのだろう。落ち着かないアインとは対照的に、残りの2人はジタバタしても始まらないとばかりにどっしりと構えていた。
突然、岩の向こう側が騒がしくなった。
地面を揺るがす巨人の足音。力任せに振り回される拳の風斬り音。巨人の咆哮。それに混じって金属がなにか硬い物にぶつかる音と、気合の篭った掛け声が聞こえた。どうやら、戦闘が行われているらしい。ならば加勢しなければ。
アインが岩陰から飛び出すのと、巨人が地響きを上げて地面に倒れるのとが同時だった。倒れた勢いでもうもうと立ち込めた土煙の中、鎧に身を包んだ女がひとり立っていた。女は燃えるように赤い髪を片手でかき上げるともう片方の手で巨人の心臓に突き立てられた槍を引き抜いた。
「終わったよ」
言いながら、槍を振ってべっとりと着いた巨人の血を払う。
「ハイランダーごときに手こずるとは、『狂乱の魔術師』とやらも噂倒れだね」
「単に相性の問題だ。倒せないことはないが、これから『秘密ダンジョン』に入る以上、物資は節約したいのでね」
いつの間にか岩陰から現れたRRが答えた。
「遅かったな、傭兵。待ちくたびれたぞ」
「人を『耳(コンタクト)』で呼びつけておいて随分な言い草だね、RR」
「呼びつけたのは、お互い様だろ。古都からこのハイランド洞窟までいったいどれだけかかったと思う」
「久しぶりに会ったっていうのに文句ばかりかい。それについてはアタシじゃなくて、リーダーに言って欲しいもんだね」
「あの」
2人の会話にアインがおずおずと割って入った。
「あの、おふたりはお知り合いなんですか?」
「彼女は傭兵のロンドさんです。随分前ですが、私とRRさんとロンドさんの3人は同じパーティーの一員として『秘密ダンジョン』を探検したことがあるんですよ」
アインの問いに対して答えたのは、意外にもシップだった。
「そうだったんですか」
「そして、今回の『秘密ダンジョン』探索の仲間のひとりだ」
「そういうことさ」
RRの簡単なそして率直な説明に、ロンドもまた簡潔に答えた。
「助けていただいてありがとうございました。自分は支援WIZの・・・」
「自己紹介は後でいいよ、全員揃ったところで。すぐそこで皆待ってるからね。あんた達3人が最後だ。仲間のところに案内するから着いて来な」
アインの言葉を遮ってそう言うと、ロンドは顎で指図した。
頭ごなしの命令口調にチョットだけムッとしたアインだったが、ここは素直に着いて行く他、しようがなかった。

 

 

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