【リプレイ風小説 第3話 ウラワザ】

 

ACT.11 アリアンに吹く風


 ガディウス大砂漠の西に位置するオアシス都市アリアンは、今日も人に溢れていた。
街のいたるところに露店が並び、大陸のあちこちから集められた珍品が金貨を媒介にして、人から人へと渡っていった。この街には需要と供給があった。冒険者がその戦利品を売買するには古都ブルネンシュティングと並んでもってこいの場所であった。
「買った買った!安いよ〜!そこのダンナ、見てってよ」
露店商の男は、看板を出すだけでは飽き足らず、威勢のいい掛け声で客の注意を引いていた。
「この『ドラゴンの心臓』が50万ゴールドとは、吹っかけ過ぎだな、コソドロ」
RRは店先に並んだ『ドラゴンの心臓』をひとつ手に取って、店主に話しかけた。
「あ、メテオのアニキ」
「この大きさだと、せいぜい20秒物だろう。20万ゴールドが相場だ」
「ちぇ、アニキには適わないな。商売上がったりだよ」
スニークはぶつぶつと文句を言った。
「ところでさ、アニキ。オイラ今も思うんだけど、ホントにあれでよかったのかな。あの時、他に選択肢はなかったのかなって」


「残ることにしたでござるって、ナニ馬鹿なこと言ってるのさ、ござるのダンナ」
「いや、馬鹿なことを言っているのは、拙者、重々承知しているでござるよ、シーフ殿。しかし」
サイはひとつ息をついて、言葉を続けた。
「しかし、拙者、どうしてもあの古文書を読みたい、いや、読まねばならんのでござる。それが拙者の天命なのでござる」
本気だった。それが言葉から伝わった。
「サイさん、本気なのはわかりました。けれどリーダーとしてそれは許可できません」
「支援殿。ならば、ウィザードとして承諾していただきたい。貴殿もウィザードならば、命を懸けてこの世の真理を解き明かす拙者の覚悟を、理解できるのではありませんかな?」
「それは・・・」
アインは答えに窮して、それ以上言葉が出なかった。
「私はウィザードじゃないから理解できないわ。殴ってでも連れて帰るって言ったらどうする?」
「されば、死んでもここを離れませんと答えますな。パラレル殿」
「そう・・・」
パラレルもまたそれっきり沈黙した。
「サイさん、死んじゃうの?」
フラウは涙目になっていた。
「死にはしませんよ、お嬢さん。寧ろ逆に永遠に生き続けることになるでしょう。『秘密ダンジョン』は時間も空間も超越した、次元の狭間ですからな。ここならじっくりと古文書を読むことができましょう。それこそ永遠に」
「そんなの・・・。そんなのヤダよ!いっしょに帰ろうよ!」
「こればっかりはきけませんな、お嬢さん。今帰れば拙者一生後悔することになりますからな」
「ヤダよ・・・」
フラウは精一杯涙をこらえて、しゃくり上げた。それをパラレルがそっと抱きしめた。こらえ切れずにパラレルの胸に顔を埋め、わんわん泣きながら「ヤダよ」を繰り返した。
「オラもここは好きだから一緒に残りたいけど、この世界にはオラが見ていないお墓がまだまだいっぱいあるだーよ。だから、一緒に残れないだーよ」
「お気持ちだけで充分でござるよ、ゴーン殿」
「全く、お前さんは変わり者だよ、サイ。付き合っちゃいられねぇや」
ドーンがフンと鼻を鳴らした。
「いやいや、拙者に言わせればドーン殿の方がよっぽど変わり者でござるよ。物事を全て勝ち負けで計るのは拙者の理解の範疇を超えているでござる」
「弱者の理論だな」
「さて、そこが理解できませんな」
ドーンはまたフンと鼻を鳴らした。
「シーフ殿、世話になりました。貴殿のシーフの技には拙者感服したでござる」
「オイラは自分の仕事をしただけだよ、ござるのダンナ。礼ならオイラを呼んでくれたメテオのアニキに言ってよ」
「そうでしたな」
サイは向き直ってRRを正面にとらえた。
「いろいろと世話になりましたな、RR殿」
「サイ、本当にいいんだな?」
RRはこれが最後の確認というように聞いた。
「『狂乱の魔術師』殿の次の冒険にご一緒できないのは、いささか残念ですが、武士に二言はござらん」
その答えにRRはひと言「そうか」とだけ返した。それからおもむろに右手の中指から指輪を外すと、サイに向かって投げた。
「RR殿、これは?」
「『知識の指輪』だ。古文書を読むのに助けになるはずだ」
「こんな高価な物、貰ってもよろしいのですかな?」
「どうせエントからの貰い物だ。餞別として進呈しよう」
「かたじけない。ありがたくいただくでござる」
暫くの間、沈黙が流れた。
そうしている間に、『秘密ダンジョン』の出口が段々と小さくなっていた。
「そろそろ行かないとだーよ」
「拙者のことは構わず、行ってくだされ。ささ、早く。出口が閉まってしまわぬうちに、皆、行くでござる」
「わかりました。行きましょう」
意を決して、アインが言った。
「サイさん、さようなら」
「さらばでござる」
別れを告げたアインの目に光るものがあった。フラウが鼻をすする音が聞こえた。それをサイは笑顔で見送った。


「本当にあれでよかったのかな」
「よかったのさ。あれがサイの天命であり業だからな。それをアイツらしくまっとうしたんだ。羨ましいぐらいさ」
「業か。確かに羨ましいかもね」
スニークは天を仰いだ。蒼い空がどこまでも続いていた。
「ござるのダンナ、元気にしてるかな?」
「さあな」
「『秘密ダンジョン』の中をうろうろしてトラップにでも引っかかってるかもね」
「そうかも知れないな」
RRもまた天を仰いだ。
砂漠からの乾いた風が、砂を巻き上げてアリアンの街を吹き抜けて行った。

 

 

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