【リプレイ風小説 第3話 ウラワザ】

 

ACT.9 封印


 パラレルは焦っていた。焦っても焦っても小指1本動かすことができなかった。身動きの取れないパラレルを玩ぶかのようにファントムの赤い火の玉が少しづつ体力を奪っていった。このままでは『死』んでしまうのは時間の問題だった。ファントムの甲高い笑い声が耳に障る。半ば諦めて目を瞑ろうとしたが、瞼すら動かすことが出来なかった。
突然、視界の外から赤銅色に輝く手斧がくるくると回転しながらファントム目掛けて飛んでいった。手斧はファントムの身体を真っ二つに切り裂き、尚も回転を続けながら大きな弧を描いて、元来た方角に向かって視界の外へと消えた。
自然の理に逆らってこの世に留まっていた漂う幽体は、この世の未練を一撃で断ち切られて天へと消えて行った。
「今のは、ルインドライバー?」
パラレルが知る限り、ファントムを一撃で倒す威力を持った赤銅色の手斧など、シーフが使う『ルインドライバー』以外無かった。その威力と希少さ故に、法外な値段で取引されていると聞く。
「危ないとこだったね、アネさん」
暗がりから声がする。同時に、右手にルインドライバーを持った黒装束のスニークが目の前に現れた。ベルトのフォルダーに武器を収めてから、スニークはパラレルの顔を見てニヘラと笑った。パラレルの背中に悪寒が走った。次の瞬間、スニークの両の手が胸を鷲掴みにした。
「○×△※□!」
奇声を上げてからおもむろにスニークの胸ぐらを掴むと、平手がスニークの頬を一往復半した。
「何をする!このえろシフ!」
「違うってば、アネさん。治したんだってば。身体の毒を抜く『解毒』ってシーフの技をかけたんだって。アネさん動けるようになったでしょ?」
「どうせ、その技も胸じゃなくてもかけられるんだろ!?」
「よくご存知で」
今度は、平手がスニークの頬を二往復半した。両頬が真っ赤に腫れ、鼻の穴から鼻血が出ていた。
「ヒドイよ、アネさん」
「自業自得だ」
涙目で抗議するスニークにパラレルはひと言切って捨てた。
「ケンカする程、仲がイイっていうだーよ」
普段から頭巾を目深に被っているため顔が全く見えないが、ゴーンがにやにや笑っている気がした。
「仲など、よくない!」
パラレルはまたもや一言の元に切って落とした。
「ひでえな、アネさん。オイラ傷ついちゃうよ。癒しが必要だわ」
「自分で応急処置でもしておきなさい」
「・・・」
言葉を失ったスニークの肩をゴーンがポンと叩いた。
「完全に嫌われちゃったみたいだーよ」
「ゴンちゃーん!」
抱きつこうとしたところを、ひらりと身をかわす。スニークは勢い余って壁に激突した。
「いずれにしても、俺も弓使いもこいつら2人に借りができたわけだ」
「ドーン、あなたも?」
「ああ」
苦々しくドーンが答えた。
不死の怪物の爪の毒で昏睡状態に陥ったドーンを『解毒』で癒し、間一髪のところで2人が救ったのだった。
「助けてもらったことには礼を言うわ」
「いや、礼ならオイラ達にじゃなくて、作戦を思いついたござるのダンナやみんなにだよ。それにさ、借りなんかじゃないよ、チリのアニキ」
「ナニ?」
「だってさ、オイラ達、みんな仲間なんだもん。助け合うのは当たり前だよ」
その台詞に、ドーンはフンと鼻を鳴らしただけで、何も言わなかった。
「それでこれからどうするの?あとの4人を探しに行く?」
「いや、支援ちゃん達がオイラ達を探しているはずだから、見つけてくれるのを待とう。行き違いになっちゃうからね。はぐれた時の鉄則だよ」
「わかったわ」
「待ってる間にさ、休んで体力を回復しておこうよ」
スニークがベルトポーチから『ヒーリングポーション』を取り出そうとすると、ドーンの唱えたアースヒールがスニークの傷を癒した。
「ありがとう、チリのアニキ」
「ポーションは温存しておくんだな。この先まだ何があるかわからないからな」
ドーンはフンと鼻を鳴らすと、パラレルとゴーンにも順にアースヒールの呪文をかけていった。


しばらくすると、2体のファミリアとフラウが広間に現れた。フラウとゴーンは再会を祝してハイタッチした。続いてRR、アインが姿を見せ、最後にサイがくしゃみをしながら現れた。
「いやはや、あの『コールドトラップ』とやらは、厄介な物ですな。凍えたところを襲われたらひとたまりもありませんな。もっとも拙者の場合、凍えてなくともひとたまりもありませんが」
そう言うとサイはカッカと笑い、続けて大きなくしゃみをひとつした。
「うまくドーンさん達のところに『跳んだ』んですね。よかった」
「うん。もう少し遅かったらヤバイとこだったけどね。間一髪だったよ」
アインに答えると、スニークは凍えたサイのミゾオチに手を当てて『解毒』の技を施した。凍えた体に体温が戻りすっかり元どおりになった。
「あいや、これはかたじけない、シーフ殿」
「別にいいよ。オイラこのためにメテオのアニキに呼ばれたんだもん」
「え?そうなんですか?RRさん」
アインはRRの方を見たが「さてな」と言っただけでそっぽを向いてしまったので、それ以上は追求しなかった。
『狂乱の魔術師』の考えは一見突飛で常人には理解できない。しかし、それには実はちゃんとした理由と裏づけがある。アインは今までの経験からそれを確信した。
「それからリーダーとして言っておきますが、ドーンさん、勝手な行動は今回限りにしてくださいよ」
「ああ、わかっている」
ドーンはフンと鼻を鳴らした。そして暫くしてもう一度口を開いた。
「世話をかけたな。すまなかった」
そう言って、またフンと鼻を鳴らした。
広場で合流した8人は、またスニークを先頭に先へ進んで行った。一行の行く手を阻むモンスターもトラップも、8人の連携プレイで切り抜けて行った。
「あれ?なんだろコレ」
一番奥の大きな部屋で待ち構えていたモンスターの群れをRRのメテオが焼き尽くしたとき、スニークは突き当たりの壁に何かが描いてあるのを見つけた。
「どうかしました?スニークさん」
「うん。この壁にさ、なんか紋章みたなのが描いてあるんだけどさ」
「なんですと!どこですかな?拙者に拝見させてくださらんか」
「あ、ここだけどさ」
スニークは、壁の一角をサイに指してみせた。
「なるほど、なるほど!シーフ殿の言うようにこれは紋章に相違ござらん」
「どうしてこんなところに紋章があるんですかね?」
「これは『封印の紋章』ですな、支援殿」
「それって、さっき言ってた『解除の紋章』と対になってる紋章ですか?」
「左様。一見して壁に見えますが、これは封印された秘密の部屋へと続く扉に相違ありませんな」
「じゃぁさ、ござるのダンナ。この壁の向こうに古文書があるってこと?」
「その可能性が高いですな」
「よっしゃ!じゃぁこの先、棺桶を開けて『解除の紋章』に当たったら、ここに戻ってこようよ」
「そうですね。我々の目的は古文書を探すことですから、余計な危険を冒す必要はないですよね」
「そうと決まれば、あとひと息だ!れっつごー!」
「れっつごー!」
掛け声と共にスニーク、フラウ、ゴーンの3人と、2体のファミリアが右の拳を振り上げた。ひと呼吸遅れてサイも拳を振り上げた。
一行は『解除の紋章』を求めて更に探索を続けた。

 

 

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