【リプレイ風小説 第3話 ウラワザ】

 

ACT.8 跳ぶ


「いったい、何が起きたんです?」
「ドーン殿とパラレル殿が『転移の紋章』で『跳』ばされたのでござる」
「『跳』ばされた?」
アインはサイの言葉を鸚鵡返しに繰り返した。まだ事態がよく飲み込めない。
「この石棺の蓋には『転移の紋章』が描かれていたのです。『転移の紋章』はその力が発動すると、どこか特定の場所へと犠牲者を『跳』ばす効果があるのです。もっともその力は魔方陣と違って軽微ですから、この『秘密ダンジョン』のどこかに『跳』ばされたに相違ありませんがな」
「じゃぁ、このまま進んで行けば、合流できるんですね?」
「おそらくは」
「そうですか」
その言葉にほっと胸を撫で下ろした。
「いや、安心するのは早い。急いだ方がいい」
「オイラもそう思うよ。その『跳』ばされたどこかってのが問題だよ」
「どういうことです?」
アインは怪訝な顔をした。
「甘ぇなぁ、支援ちゃんは。いい?もし、オイラが『転移の紋章』を仕掛けるとして、その『跳』ばす先を安全な所にするなんてことはしないよ。『跳』ばすんなら逆に最も危険なとこに『跳』ばすね」
あっと言う顔をして、アインは自分の迂闊さに恥じ入った。
「じゃぁ、先を急がないと・・・」
「でもさ、この先うようよモンスターがいるんだよね、さっきも言ったけどさ」
「じゃ、どうすれば」
次に何を言えばいいのか言葉に詰まってしまった。頭がすっかり混乱して考えがまとまらない。
「一か八か運任せの感はありますが、2人にたどり着く方法がありますな」
「どんな方法です?サイさん」
「『跳ぶ』んです」
「『跳ぶ』って、どうやって?」
更に混乱に拍車がかかる。いったいサイは何を言い出すんだ?
「失われた紋章学では魔法の紋章は、偶数個作るのが作法でしてな。紋章の数が奇数だと力のバランスが崩れるのです。ですから『転移の紋章』も、必ずもうひとつあるはずですな。もうひとつの『転移の紋章』の行き先も、きっと同じところに相違ござらん」
「それで、もうひとつの『転移の紋章』はどこにあるんです?」
「さて、そこが運任せという訳でして」
「そんな・・・」
アインはまたも言葉を失った。
「迷っている時間はない。それに賭けよう。通路のモンスターは俺たちに任せて、コソドロは先に進んで片っ端から石棺を開けるんだ」
「ガッテン。ついでにトラップも片っ端から解除してくよ。あ、でもさっきみたいに部屋の中にモンスターがいると棺桶開けられないから、誰か一緒に来てよ」
「じゃ、オラが一緒に行くだーよ。オラがモンスターを引き付けてる間に棺桶を開けるだーよ」
「オッケー」
「ちょっと待ってください。そんな運任せだなんて」
とんとん話で事が進んでいる一方で未だ困惑していたが、しかし、これだけはハッキリと言わなければ。
「運任せだなんて、認められません!」
「ならばどうする?支援君。2人を生かすも殺すも君の決断次第だ」
「それは・・・その・・・少し待って」
「さっきも言ったはずだ。迷っている時間はない。こうしてる間にも2人はやられているかも知れないんだぞ!腹をくくれ」
「・・・わかりました」
RRの激に、アインは意を決さざるをえなかった。
「皆さんに『支援』をかけ直します」
そう言うと、努めて平静を装って『ヘイスト』と『ファイヤーエンチャント』の呪文を皆に唱えた。
「通路にいるモンスターは任しといて!テンツク、ドンツク、全力で行くよ!」
フラウは鞄の中から『コチュ(唐辛子)』を取り出すと、2体の魔獣の口に放り込んだ。途端に緑の体色が真っ赤に変わり口から炎が混じった熱い息を吐き出した。魔獣は素人目にも明らかにパワーアップしていた。
「では、フラウさんはファミリアでモンスターを引き付けてください。RRさんとサイさんはメテオで迎撃をお願いします。その間にスニークさんとゴーンさんは、どんどん先に進んで片っ端に棺桶を開けてください」
「オッケー!」
アインの指示に皆がうなずいた。
「行きましょう!急いで!」


ドーンの杖がゴーレムとブレーガーを交互に撃ちすえた。『チリングタッチ』の魔力が2体の魔物を凍えさせ、元々緩慢だった動きを更に遅くさせる。アインが唱えた『ファイヤーエンチャント』の呪文は既にその効果を失い、氷と炎のデュエットは、今や氷のソロになっていた。逆に2体のモンスターがスローなデュエットを奏でていた。
2対1ではやはり分が悪い。ゴーレムに気をとられると、ブレーガーの攻撃を受け、ブレーガーに集中すると、ゴーレムの大剣が肉を削いだ。しかし、ドーンは楽しかった。分が悪いからこそ心底戦いが楽しかった。勿論、それは自分の勝利をもって最高潮を迎える。それを信じて疑わなかった。戦いの緊張感に陶酔し、勝利に向かって杖を振るった。目つきは鋭いが自然と口元に笑みが浮かぶ。
ゴーレムを倒し、残るは不死の怪物・ブレーガー一体となったとき、ドーンはやっとパラレルの異変に気づいた。


「1、2の3!」
掛け声一閃、スニークは一気に石棺の蓋を開けた。蓋の裏に描かれた紋章が光り同時にスニークとゴーンの全身を激痛が走った。
「くそー『苦痛の紋章』か」
「ハズレだーよ、次に行くだーよ」
「うん」
急いでその場を離れようとしたとき、石棺の中からミイラの手が伸びてスニークの腕を掴んだ。
「こんにゃろ、急いでるんだってば!」
力任せに腕をグイと引っ張ったが、ミイラは掴んだまま離さない。
「2人が待ってるんだってば!離せ!」
すかさずゴーンがソードをミイラの腕目掛けて振り下ろす。火の魔力を纏ったソードはスニークを掴んだままの右腕を丁度肘のところで切り落とした。ミイラの右腕が石造りの床に転がった。切り口から肉の焼ける煙が立ち昇っていた。
「サンキュー、ゴンちゃん。そだ!応急処置しておくよ」
一時的にダメージを癒すシーフの技『ファーストエイド』をかけようと、ゴーンの左胸、心臓の辺りに手を触れると、グニャリとした軟らかな感触がした。それに驚いてスニークは思わず手を引っ込めてしまった。
「ゴンちゃん・・・」
「急ぐだーよ!2人が危ないだーよ!」
先を促すと、ゴーンは『ヒーリングポーション』の赤い液体を一気飲みした。
「う、うん。わかった」
石棺から右腕を失ったミイラが出てくる前に、2人は急いでその場を後にした。


苦戦していた。
パラレルは巨大サソリの尻尾をかわしながら、宙を漂う幽体・ファントムに向かって高速で矢を射掛けた。ファントムは甲高い笑い声を上げながら魔法の火の玉を発射し、これに応戦してきた。武器の攻撃ならば外れることもあるが、魔法の攻撃は外れることがない。赤い火の玉を受ける度にどんどん体力を削られる。攻撃と防御の合間に『ヒーリングポーション』を飲んで体力を回復することも忘れてはいられなかった。
3本目の『ヒーリングポーション』を飲み干したときだった。ファントムがひと際甲高い笑い声を上げたかと思うと、黄色い火の玉を発射した。それが鎧に命中して弾けると全身に電流が走った。
応戦しなければ。しかし、矢を弓につがえようとしたまま、手が動かなかった。いや、手だけではない。意識ははっきりとしているのに全身が動かなくなっていた。
ファントムの耳障りな高笑いが響き、動けなくなったパラレルに火の玉が容赦なく放たれた。


耳をつんざく爆音と閃光を放って、サイの唱えた『メテオ』はゴーレムに命中した。しかしゴーレムはメテオが発した凄まじい熱と爆風にさらされても、まるで意に介さないようにゆっくりと大剣を振り上げた。
「やはり、ゴーレムにはメテオは効かないでござる!」
「下がって、ウチのコたちにまかせて!テンツク!ドンツク!ゴーレムに攻撃!」
「ウキャ!」
「ウグゥア!」
『コチュ』でパワーアップした2体の魔獣はゴーレムの正面に立ちはだかると、ゴーレムが振り回す大剣をひらりとよけながら、目にも止まらぬ速さで槍を繰り出した。槍が硬いゴーレムの身体を貫いた。
テンツクとドンツクがゴーレムと死闘を繰り広げているその横を、スニークとゴーンが次の小部屋を目指して走り抜けて行った。


身体に異常を来たす攻撃はいろいろあるが、その中でも『パラライズ(麻痺)』は性質が悪い。どんな異変もたちどころに治す魔法薬『万病薬』を持っていたとしても、身体が麻痺して動かなければ使うことができないからだ。
ファントムの火の玉攻撃を受けるだけで、応戦どころか全く動こうとしないパラレルを見て、ドーンはその性質の悪いことが彼女の身に起きていることを悟った。
更に悪いことに、もう一体、巨大サソリがパラレルを狙っていた。
「弓使いに死なれちゃ、寝覚めが悪いんだよ!」
杖を高く振り上げると空気中の水蒸気が杖の先端に集まり水の塊となった。それを杖のひと振りで発射する。巨大サソリに命中した水の塊は弾けて魔法のダメージを与え、凍えさせた。
「チッ、威力が足りねえ」
ドーンは毒づいた。
水の最終魔法『ウォーターキャノン』は、接近戦用の『チリングタッチ』を主戦力とするドーンにとって、一番威力がある遠距離魔法だった。しかし、未だ習得して間もないゆえに、完成形には程遠く、巨大サソリを倒す程のダメージを与えることは出来なかった。
「俺が相手してやるから、こっちへ来やがれ!」
目の前のブレイガーを牽制しながら巨大サソリに向けて水の塊を発射する。5発目の『ウォーターキャノン』が命中したとき、ようやく巨大サソリはドーンの方へと旋回した。
「いいぞ、イイコだ、コッチに来な!俺が殺してやる!」
そのときだった。避けそこなったブレーガーの爪が肩口に喰いこんだ。途端に目の前がフェードアウトし、だんだんと意識が遠のいていく。
違う、勝つのは俺だ。殺すのは俺だ。俺の方だ。
遠くなる意識の中「ビンゴ!」と叫ぶ声が聞こえたような気がした。それが現実のものか夢の中でのことなのかドーンには区別がつかなかった。

 

 

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